謝罪
今、レオ様と私は散歩をしています。
「湖のお魚さんも色が派手ではなくて、いいですね」
私は橋の上から、湖を泳ぐお魚さんを見おろしています。
「そうだな」
レオ様も私と同じようにしながら、言いました。
「うちも静かですけど、ここも静かですね。王城はどうなのですか?」
「居住棟は静かだが、他はせわしいな。まあ、人も多いからな」
レオ様はそう言って、私の手を取ると、「そうだ。ここは夕方から冷えてくる。風邪を引くなよ」
「はい。・・・レオ様は優しいですね」
と、私が言いますと、レオ様は首を振って、
「私は優しくなんかない」
と、言って、私の手を引きました。
「レオ様は優しいです。何故そんなことを言うのですか?」
「・・・さあ。何故だろうな」
レオ様はそっけなく言いました。
その後は私もレオ様も黙って、歩きました。
散歩から戻った私は早速晩餐会の準備に取り掛かります。
侍女さんにドレスを着せてもらうと、ドレッサーの前に座ります。
そう言えば、最初は他人に着替えさせてもらうことに抵抗があったのになー。と、ふとそんなことを思い出しました。
髪を綺麗に編み上げ、髪飾りを差してもらいました。
「さあ、出来ましたよ。とてもお綺麗です」
と、侍女さんが言って下さいます。こんな褒め言葉にはいまだに慣れませんが、
「ありがとうございます」
と、お礼を言いました。
「まあ、綺麗な青ね」
私のドレスを見て、サラ姉様が言いました。
サラ姉様は予想通り、黄色のドレスを着ています。とても美しいです。ジャスティン殿下も見惚れることでしょう!
「キャスはあまり淡い色を着ないのね。好みじゃない?」
「ええ、まあ・・・」
悪役令嬢は濃い色が似合うと思うのですよ。形だけは何とかしようと思うのですよ。ポンコツ悪役令嬢ですからね。ふぅ。
その後、ジャスティン殿下がサラ姉様を、レオ様が私をエスコートし、晩餐会が行われる広間に入りました。
エスコートされるって、何だかムズムズしますね。照れ臭いです。なのに、レオ様は平然としているので、何だか悔しいです。
クリス殿下にエスコートされたアナスタシア殿下以下、シュナイダー様とそのご家族に、招待された方々が先に広間に入っていました。
それぞれが席に着き、アンバー公爵様の挨拶が終わり(また長かったです。ふぅ)、いよいよ晩餐会が始まりました。
私はシュナイダー様のお母様とリバーに挟まれて座ってます。リバーは自分の隣のルークママとお話をされてますので・・・。
「あの子が誕生日会を自ら開きたいと言って、驚きました。でも、こうやって、たくさんの方に来ていただいて、とっても嬉しいですわ。カサンドラ様もありがとうございます。あの子、カサンドラ様とお会いするようになって、表情も変わりましたし、口数も増えたと思うんです」
と、シュナイダー様のお母様がおっしゃいました。
私は赤くなると、
「そ、そんなこと、あ、ありませ、ん」
ぎゃー。上手くしゃべれません!
「まあ、赤くなられて。カサンドラ様は可愛らしいですわね」
ひゃー、恥ずかしいです!
その後、シュナイダー様のお母様と何とか会話を続けることが出来ました!私も成長したものですね!
ちなみにレオ様はアンバー公爵様のお隣りでお話が長いのか、だんだん顔が引き攣っていってます。レオ様、頑張れ!
晩餐会は終始和やかなものでした。それに、とっても美味しかったです!
その後は子供と大人とで部屋が別れて、お茶を楽しむことになりました。
ここでもシュナイダー様がお茶を淹れて下さいました。
アナスタシア殿下はそんなシュナイダー様をうっとりと見ています。その気持ち分かります!
そこまでは良かったのですが、今の雰囲気はなんなんでしょうか。
アナスタシア殿下はじっと座ったまま微動だにしません。
レオ様は窓の外を見つめていて、やっぱり微動だにしません。
私はクリス殿下とお話していますが、クリス殿下は落ち着きなく、おふたりを交互に見ています。
ジャスティン殿下がそんな雰囲気に耐え兼ねたのか、
「アナスタシア。ピアノを弾かないか。新しい曲を覚えたばかりだろう」
「あ、は、はい」
アナスタシア殿下は我に返ったように立ち上がりますと、ピアノの前に向かいます。
「アナスタシアはピアノがとても上手なんだ」
「それは楽しみですね」
音楽好きのシュナイダー様がそう言いますと、アナスタシア殿下はぱあっと表情を明るくしました。
うーん、やっぱり可愛らしいですね。
アナスタシア殿下の演奏が始まりました。
私、全く音楽は出来ないので、当然詳しくもないです。
ですが、素晴らしい演奏だと言うことだけは分かります。あー、言葉で上手く表現出来ないのが悔しいです!
人間の指って、あんなに滑らかに動くものなのですね!
アナスタシア殿下が演奏を終えますと、盛大な拍手が起こります。私も手が痛くなるくらい拍手しました。素晴らしいです!
アナスタシア殿下はホッとしたような笑みを見せますと、立ち上がって、優雅にお辞儀をされました。
ぐっと雰囲気が良くなりましたね。
ジャスティン殿下ナイスです!
・・・ですが、レオ様は一切、拍手をしませんでした。
私はレオ様の様子を見てましたが、
「クリス殿下、眠そうですね」
と、サラ姉様が言いました。
クリス殿下は舟を漕いでいます。馬車移動をしましたし、晩餐会も長かったですからね。疲れたのでしょう。
「私がお連れしますから」
シュナイダー様がクリス殿下を横抱きしました。おっ!お姫様抱っこです!う、羨ましい!いや、お姫様みたいなクリス殿下も可愛い!なんて一人興奮していましたが、ふと、アナスタシア殿下と目が合いました。
アナスタシア殿下は赤くなると、椅子に座りました。・・・どうも同じことを考えていたようです。
シュナイダー様とクリス殿下が行ってしまい、また微妙な空気に戻りました。
「わっ、私、バイオリンを持ってくれば良かったですわ!」
と、サラ姉様がパンと手を叩いてから、「も、もちろん、アナスタシア殿下のピアノ程は上手く出来ませんが」
「い、いや、そんなことないよ。あっ、アナスタシアと一緒に合奏なんていいんじゃないかな!」
と、ジャスティン殿下も盛り上げようと頑張ってます!
「そっ、そうですねえ!ねっ!ルーク!」
私は無理矢理ルークに振りました!何とかして!
ルークはビクッと体を動かすと、
「えっ、あ、あの、合奏って、何ですか?!」
そこから?!てか、何でしたっけ?!
「あ、あの」
と、サラ姉様が説明しようとしましたが、その前にアナスタシア殿下がふふっと笑うと、
「二つ以上の楽器で演奏をすることです」
「おぉー」
と、私とルークは感嘆の声を上げました。
すると・・・。
「サラ様。今度、是非ご一緒に演奏をしましょう」
と、アナスタシア殿下が言いました。
リバー、ルーク、ジャスティン殿下が固まっています。アナスタシア殿下の発言に驚いているようです。
アナスタシア殿下は頬を染めながら、立ち上がると、
「あ、あの、私」
と、言いかけたところで、
「どうかされましたか?」
シュナイダー様が戻って来ました。
「あ・・・」
アナスタシア殿下は更に赤くなりましたが、「わ、私、謝罪をしたいのです」
と、言って、一歩前に出ました。
次話から、アナスタシア殿下視点のお話が続きます。
これからのお話をどう思われるか不安です。でも、救いのないまま終わるわけではないので、最後まで読んで頂けたら、有り難いです。




