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めだかさんと青空と王子様

「めだかさーん、綺麗になって良かったですねー」

 カサンドラ・ロクサーヌ、11歳です!

 来年、誕生日が来たら、いよいよ魔法を使うことが出来るようになります!

 誕生日に教会に行き、魔力を制御している術を解いてもらいます。そうすれば、魔法が使えるようになるのです。

 と、言っても、私、治癒魔法しか出来ないんですよねー。攻撃魔法の特性がないらしいんです。何だかとても珍しいそうです。当然、そんな珍しさなんて全く嬉しくないです。

 父、アンドレアスはキャスは攻撃魔法が使えなくても、いいんだよー。危ないからねー。と、言います。

 そんな父は火系魔法の遣い手として知られ、火系で最高難度と言われる火柱を上げる魔法を習得しています。火柱と言っても一度で数千人焼き殺すことが出来る程、広範囲なものです。こわー・・・。はっきり言って、えげつないです。さすが戦争を繰り返してきた国だけあって、スケールが違います。

 まあ、私には縁遠い話ですので、置いておくことにして、冒頭での私の台詞でお分かりになるかと思いますが、現在、めだかさんが暮らしている池の掃除を終えたばかりです。これだけは自分でやります。


 それから、掃除を終えた私が池の側に座って、一休みしていると、

「キャスー!」

 レオ様が走って来ます。

 今日は来る予定ではなかったはずなのですが、何の前触れもなく来ることにはもう慣れっこです。


 私は立ち上がると、スカートをつまんで、お辞儀しようとしましたが、

「うぉぃっ!」

 先にレオ様が抱きついて来ました。

 危ないです。池に落ちるところでした。

 文句を言ってやろうとしましたが、

「リバーは?」

「領地の子たちと遊んでます」

 と、私が言うと、レオ様はにっこり笑って、

「じゃあ、しばらくキャスを独占出来るな」

 う・・・鼻血出そうです。

 最近、レオ様はぐんと大人びて来ました。美少年っぷりも上がって来ました。


 どういうわけか、私はその場でレオ様を膝枕することになり、レオ様の髪をなでなでしています。最近、ちょっと髪を伸ばしているようです。色気づいてますね。ふっ。

「めだか、増えたな」

 と、レオ様は眠そうにしながらも言いました。

 私は池の中を気持ち良さそうに泳いでいるめだかさんを眺めながら、

「はい。兄弟がたくさん増えたんですよねー。水も綺麗ですしねー。あ、兄弟と言えば、クリス殿下はお体良くなりました?」

「ああ。心配ない」

 この間、第三王子であるクリス殿下が五大公爵家の交流会に初参加することになっていましたが、直前に風邪を引いたので、結局、欠席となりました。クリス殿下は少し体が弱く、良く熱が出たりするそうです。

「良かったです。この間はお会い出来なくて、残念でした」

「そのうち、ここへ連れて来る」

 わおっ!楽しみです!

 最近、リバーもすっかり男らしくなり、腹黒さもあって、弟らしくなくなりました。はぁ。私、姉ではなく、完全に妹です。いや、初めからそうでしたが・・・と、言うことで、クリス殿下を可愛がりたいです!


「おい。何をにやにやしているのだ」

「えっ。あ、クリス殿下と仲良くなれたらなあと思いまして・・・」

「そうしてもらえると有り難いが・・・」

「が?」

「クリスに膝枕はさせるなよ」

 と、言ってから、レオ様はぷくっと頬を膨らませました。ちょっと大人びて来たかと思ったら!・・・こういうギャップはとても宜しいです。

 鼻血が出そうでしたが・・・ちょっと、落ち着きましょう。だって、膝枕なんて恥ずかしいこと、他の人にまで出来るわけがないでしょう!もう11歳なんですから、ちょっと考えて欲しいですよ!

 ですが、最近、そんなレオ様も変わってきました。我が家では膝枕などをしますが、それ以外の場所、例えば、五大公爵家の交流会でお会いする際に、レオ様が抱きついたりすることはなくなりました。良い傾向です。

 こうやって、私たちは成長して行くのでしょう。『魔法学園』に入学する日まで、あと4年です。もう4年?まだ4年?私はその日を待ちわびているのでしょうか。それとも・・・。


「キャス?」

「え」

 我に返ると、レオ様が起き上がって、私の顔を見つめていました。

「何を考えていた?」

 どうしたのでしょう。レオ様はいやに真顔です。

 私は戸惑いましたが、

「ここでの膝枕はちょっと痛いです」

 嘘ではありません。

 レオ様はどこかホッとしたように笑って、

「じゃあ、私が」

「却下です!!」

「まだ何も言ってないっ!」

「言わなくても分かります!」

「分からない!」

「分かりますよ!」

「じゃあ、言ってみろ。外れてたら、私の言う通りにしろよ」

 むぅ。偉そうな王子様ですね。

「ええ。言ってやりますよ。私が膝枕してやる。でしょう!」

 すると、レオ様、にやりと笑って、

「違うな。膝に乗せてやろうと言おうとしたのだ」

「うっ・・・」

「じゃあ、私の言う通りにするのだぞ」

「うぅ・・・」

 仕方ありません。私の負けです。ここは恥ずかしさを堪えましょう!


 私はレオ様の膝に乗ろうとしましたが・・・。

「・・・うん?」

 ・・・ちょっと待って下さい。

「何だ?」

 私はレオ様から離れて、

「ずるいです!私が先に何言ったって、後でレオ様が違うと言えば、レオ様の心の中なんて分からないんですから、結局、レオ様の言う通りにしなくちゃならないじゃないですか!」

 と、言いますと、レオ様は舌打ちして、

「キャスもそこまで間抜けじゃなかったか・・・」

「ええ!そこまで間抜けじゃありません!」

 まったくー、馬鹿にしてー。


 私がぷりぷりしていますと、

「キャスー?」

「・・・」

「ねぇ、キャス、怒った?」

 なんですか。その猫撫で声は!可愛い・・・可愛くありません!

「キャスー、目つき悪いんだから怒ると余計可愛くないぞー」

 余計なお世話です!私の唯一の悪役令嬢らしいところなんですからね!これで良いのです!

 でも・・・。


「別に怒ってませんよ」

 私は笑いながら空を見上げます。私は何があってもレオ様にはいつまでも怒ってられないのですから。「気持ちいいですね。いい天気ですし」

 レオ様も空を見上げて、

「キャスの瞳の色だ。リバーも一緒か」

「私の父もですよ」

「げ」

「げ・・・って、何ですか・・・」

「カーライルはもう年だし、濁って来てるんじゃないか?」

「失礼ですよー。まだ33歳です」

「ふーん」

 レオ様は全く興味ないようです。父が可哀相です。

 ちなみに母は一つ年上です。意外でしょう?『魔法学園』で先輩後輩だったのですよ。在学中、色々あったそうです。話す機会があればいいのですが。


「あ、そろそろ中に入りましょう。私、おなかすきました。おやつ食べたいです」

「レディはそういうことは言わないものだぞ」

 と、レオ様がからかいます。

「いいじゃないですか。レオ様と私の仲じゃないですか」

 と、言って、私は笑いました。レオ様も笑いました。 

 それから、私とレオ様は手を繋ぎなから、玄関に向かいました。

「そろそろリバーも帰って来ますよ」

「うむ。今日、また・・・」

 と、レオ様が言いかけて、


「レオ兄様!!」


 突然、甲高い声がして、私は飛び上がってしまいました。



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