作戦決行
「いらっしゃいませっ!」
私、レオ様、シュナイダー様、ルークをお出迎えしました。
「なんだ。えらく元気だな」
レオ様が言いました。
「そうですか?どうぞ、お入り下さい」
「本日はお招きありがとうございます」
シュナイダー様は丁寧に頭を下げました。
うっ。心が痛みます・・・。
「い、いえ、お越しくださってありがとうございます」
私も丁寧にお辞儀をしました。
「カサンドラ様。本日はお招きありがとうございます。母から、これを持って行くよう言われまして・・・」
ルークがバスケットを差し出しました。「オレンジのシフォンケーキだそうです。カサンドラ様の好みを聞かれ、オレンジジャムがどうとか言っていたのを耳にしていたので、オレンジがお好きなのかと・・・」
「ん?」
私、そんなこと言ってましたっけ?
いえ、そんなことよりです!
「ありがとうございます!オレンジ、大好きです!後でお礼のお手紙書きますね!」
「え、別に・・・手紙なんて面倒でしょうから・・・」
と、ルークが言いかけましたが、私は人差し指を左右に振って、
「貴族令嬢として、当然のことです。こういったこともリバーに教えてもらうといいですよ」
「そうだね」
リバーはにっこり笑って、「優しくお教えしますよ?」
「・・・」
優しく・・・?何故でしょう。可愛い弟の言葉が信じられません。
ルークも顔が引き攣ってます。
私はとりあえず、レオ様たちをいつもの客間にお連れしました。馬車移動をしたばかりですからね。少しゆっくりしていただきましょう。
喉を潤してもらうために、レモネードをお出ししました。
「実は裏庭でお茶をと思いまして、用意してます。ルークのお母様からのケーキもそちらで頂きましょう」
「裏庭?初めてだな」
と、レオ様が首を傾げて、「しかし、何故裏庭なんだ?」
案の定、来ましたよ!裏庭への疑問!
私は口を開こうとしましたが、それより、先に・・・。
「裏庭でも、日当たりはいいですし、綺麗にしてますから、気持ち良く過ごしていただけると思います」
と、リバーが言いました。
私はうんうんと頷きましたが・・・。
あれ?私が今言おうとしたことをリバーが先に言ってしまいました。
リバーも変に思うかもしれないと心配してましたが・・・ま、いっかー。
しばらくお話をした後、
「では、裏庭へ行きましょう!」
私は立ち上がりますと、「リバー、シェフさんにお菓子を頼んでいるのよ。もらって来てくれない?私、先に皆様を裏庭に案内するから」
「うん、分かった」
リバーが客間を出て行きました。
シェフさんたちにはリバーをしばらく引き留めるようお願いしています。悪役令嬢らしい高笑いをしている私をリバーには見せたくありませんからね。
にしても、ここでも使用人さんたちには感謝ですね。今まで私の挙動不審っぷりを目の当たりにしてきたでしょうに、何のためになるのか分からないお願いを何も聞かずに、快く引き受けて下さるのですからね!お父様、皆さんのお給料をドーンと上げちゃってください!
使用人さんたちと言えば、一つ申し訳ないことをしました。私、もちろん、悪役令嬢らしい高笑いの練習もやっておりました。
いつ、どこで練習したかと言えば、お風呂に入っている時と音楽室です。
お風呂はもちろん防音が完璧なわけはありませんが、シャワーを出していましたから、大丈夫だと思っていたのです。
練習を始めて、三日後に、侍女さんの一人が『お屋敷に鳥が居ます』と、言い出しました。我が家には動物はめだかさんしかいません。私は最初は何のことだか分かりませんでした。
日が経つにつれ、鳥さんの鳴き声がすると言い出す使用人さんたちは増えていきました。
ですが、鳥さんが存在するわけがないのです。私の高笑いを鳥さんの鳴き声だと、使用人さんたちが思ったのですから!
存在しない鳥さんの鳴き声は、使用人さんたちを恐怖に陥れました。夜、一人でトイレに行けない方が続出しました。
母が父に相談した頃には、自分のせいだったのだと気付いていて、練習はやめておりました。もちろん、私だったと名乗り出てもいません。父は笑い飛ばしましたし、このまま風化してくれれば有り難いです。
でも、本当に申し訳ございませんでしたー!心の中でですが、土下座してますのでー!
私はレオ様たちを引き連れ、裏庭に向かっています。
さすがは公爵家で、結構広いですから、裏庭に行くだけで、とても疲れます。しつこいようですが、私、体力ないんです。
ですが、あの角を曲がれば、裏庭です。
「ずいぶん歩かせてしまって、申し訳ありません!もうすぐ到着しますから!」
私は息を切らせつつ、レオ様たちに声を掛けました。
「大して歩いてないぞ」
レオ様は呆れたように、「キャスの体力のなさはひどいぞ」
そう言えば、レオ様は王城で暮らしてますから、これくらいの距離はどうってことないでしょうね。
「えへへっ」
私、笑ってごまかし、前を向きました。
裏庭が見えて来て・・・。
「は?」
私は信じられない光景を目の当たりにし、思わず、足を止めました。




