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ちょっとその前に。



 シュナイダー様登場の前にこの方を出しておきます。

 



 私のせいで、蜂の巣をつついたような騒ぎにはなりましたが、両親はすぐに落ち着きを取り戻し、母、マリアンナが魔法で吐き気をなくしてくれ、そして、父、アンドレアスがドレスの汚れをあっという間に消してくれました。

 魔法って、本当に便利ですね。


「キャス・・・朝食にハニートーストを3枚も食べるからだよ・・・」

 リバーは何故か私より青い顔をしています。

「た、だって、好きなんだもの・・・。それに、今日のパーティーはおうちでのパーティーとは訳が違うでしょう?だから、朝はしっかり食べておこうと思っち、あ、思ったの」

 リバーは溜め息をつくと、

「いいや・・・降りよう」

「リバー?何か疲れてるね。大丈夫?」

「うん・・大丈夫。キャスが元気になって良かったよ」

「うん。何かすごく楽になっち、なったよ」

「そう・・・」

 リバーはどうしたんでしょう?緊張してるんですかね?まあ、私よりましですね。私、リバー相手に喋ってるだけなのに、さっきから噛んでますよ・・・。


 そんなこんなで、馬車から降りたところで、

「キャス!リバー!」

 と、声がして、ん?誰?と、思った時には、

「うわあっ?!」

 何かに突進されました。

 う・・・また吐くところでした。胃にはもう何もないですが。

 突進して来た何かですが・・・。

「レ、レオしゃま!」

 レオ様でした!わざわざ殿下がお出迎えですか?!


 レオ様は頬を膨らませると、

「何をしていたのだ。なかなか馬車から降りて来ないから、迎えに来てやったのだぞ」

「あ、えーと・・・」

 私が吐いてしまって、大騒ぎしてました。・・・何て言えません。

 私が困っていますと、

「殿下。申し訳ございません。私のドレスの裾のほつれを直しておりました」

 と、母が言いました。やっぱり、本当のことは言えませんよね。

「うむ。ならば、仕方ないな」

 レオ様は頷きます。

 さすが王子様です。5歳でも、理解があります。


「レオンハルト殿下、わざわざ私たちのお出迎えをしていただいて、大変恐縮でございます。本日のご機嫌はいががでございますか?」

 と、父が言いますと、レオ様は満足げに頷いて、

「うむ。良いぞ。カーライルはどうだ?」

「ええ。良いわけがありませんね。カサンドラから離れていただけませんか?」

 ん?お父様、顔が引き攣ってますね。

「レオ様、姉の折角のドレスがシワになってしまいますので、失礼ながら、少し下がっていただけますか?」

 リバーが私とレオ様の間にぐいぐいと割り込もうとしています。


 そんな父とリバーにレオ様はムッとしてしまうと、

「カーライルもリバーもどうしたのだ。久しぶりに会って喜んでいるところを邪魔するとは無粋ではないか」

 私もレオ様にまた会えて、もちろん嬉しいです。もう少し離れてくれれば、もっと実感出来ますが。

 何故なら、レオ様は来るなり私に抱き付いたのです。

 ですが、レオ様は私よりずっと背が低いので、しがみついているようにしか見えません。

 にしても、レオ様は人との距離感がおかしくないですか? 


「申し訳ございませんが、邪魔させていただきます。殿下はカサンドラに何をするか分かったものではありませんから」

 とうとう父はレオ様の肩をつかむと、私から引き離しました。 

「・・・」

 それは、あのキスのことですか?私、最近、考えることが多くて忘れてました。

 考えていたこと・・・ええと、シュナイダー様のこととか、確か、シュナイダー様のこととか、多分、シュナイダー様のこととか・・・ん?私ったら、シュナイダー様のことばかり考えていました!恥ずかしいです!


 私、恥ずかしさのあまり、顔が赤くなったのでしょう。

「キャス、顔が赤いぞ!」

 レオ様が声を上げました。

「え・・・」

 いや。レオ様も赤いですよ?

「も、もうキスなんかしないぞ!か、勘違いされては困るからな!」

 あー、結婚のことですね。キスされたくらいで、結婚して。なんて言いませんよ。私、前世でろくに経験ありませんけど、そこまで重くないです。


「あれは、あれだ。ちょっとした出来心で、だいたいキャスが泣き止まないから」

 レオ様がまだ何やら言ってます。もういいですってば。

「だいたい私には妻にする女性には理想があって・・・」

 はいはい、理想ですか。5歳のくせ・・・はうっ?!そうでした!

 レオ様には5歳にして、既に理想の女性がいらっしゃるのです!

 ゲームではやはりと言うか、そんなこと一切触れられてませんでしたが、攻略法『天然ドジっ子を装う』とは違う、この世界のレオ様にはちゃんと理想の女性がいるのです。

 詳しくはまた!と、言うことで!


「レオしゃま!」

「え?な、なんだ?」

「レオしゃま。わたくち、カサンドラ・ロクサーヌ。ごっだいこうちゃく家にょ、一員としち、レオしゃまの幸せをぬぁによりみょ願っておりまふ!(レオ様。私、カサンドラ・ロクサーヌ。五大公爵家の一員として、レオ様の幸せを何より願っております!)」

「はあ・・・」

「レオしゃまの理想にょじっせいはきゃにゃらずいまふっ!良かったでしねっ!(レオ様の理想の女性は必ずいます!良かったですね!)」

「ど、どういうことだ?」

「しょのうち、分かりまふ(そのうち、分かります)」

 私は失礼ながら、レオ様の肩をぽんぽんと叩いてから、父を見ると、「お父様。ご安心を。このカサンドラ、レオしゃまとの結婚など勝手に期待して、レオしゃまのお相手に勝手に嫉妬して、カーライル公爵家の恥になるようなことは絶対にしません。ですから、キスなど些細なことで目くじらを立てる必要はないのでしっ!」

 ああ、最後噛みました。残念。かっこよく決めたと思ったのに。


「ん?」

 噛みましたが、かっこよく決めましたよね?

 なのに、お父様はなぜ顔色が青くなり、

「キスが些細なことって、もっと他のことをしているかのような・・・」

「あなた!そんなわけないでしょう!」

 お母様はなぜ顔色が赤くなるのでしょう?


 そして、更に・・・。

「リバー。キャスは何か悪い物を食べてしまったのではないか?」

「いえ・・・そうだとしても、もう出してますし・・・」

「?出した?」

「あっ。い、いえ。何でもないです」

 ・・・レオ様とリバーは何をこそこそ話しているのでしょうか?


「あの、お取り込み中、失礼致します。そろそろご案内してもよろしいでしょうか?」

 と、アンバー公爵家の使用人さんがとっても遠慮がちに話しかけて来ました。


 そりゃ、遠慮しますよね。困った王子様ですよね。





 レオ様は『キス』と『一緒にベッドで寝る』以外はしてもいいと勝手な解釈をしています。

 キャスに対しては、スキンシップがやや過剰気味です。




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