追いかけっこ?(メグ視点)
私が語学の授業を終えて、教室に戻っていると、
「まあ!お姉様が?!」
と、廊下に集まっている女子生徒の中の一人が悲鳴混じりの声を上げました。
「?」
確かあのグループはリバー様の派閥の人たちよね?と、言うことはキャスのことを言っているのかしら?
それに、何だか変です。上級生までもが一年生の教室がある棟に来ているようです。
多分だけど、この上級生の方々もリバー様の派閥ではないかしら?
リバー様の派閥の特徴はともかく美男美女でクラスの中心人物となれるタイプの人間が多く、悪いことに、平民を見下す人間も多かったりします。まあ、そんな人間だから、カーライル公爵家の令息で、キャスは笑ってますけど、美の女神に愛されし者と言われる程、見目麗しいリバー様を崇めるんでしょうね。
もちろん、リバー様に非はありません。
ともかく派閥の人数が多過ぎますから、リバー様に全て把握出来るわけがないですし、リバー様自ら集めたわけではないのですから。
私がそんなことを思いながら、教室に入ると、
「マーガレット様!」
ローズマリーさんが慌ててやって来て、「ロクサーヌ様はどうしてらっしゃるか知りませんか?」
「え?キャス?歴史じゃなかったかしら?あの教室は遠いから、もう少ししたら・・・」
「それがお姉様は歴史の教室には来なかったんです!」
同じクラスの『リバー様とお姉様を見守る会』に入っているとある令嬢が叫ぶように言いました。「おまけに大怪我をしたそうなんです!」
「なんですって?!」
「私、レオンハルト様と同じ授業だったのですが、赤い鳥、多分、ルークさんの鳥だと思うのですが、その鳥がロクサーヌ様がいなくなったとレオンハルト様に知らせて来たんです。レオンハルト様は先生の制止も聞かず、教室から出て行ってしまって・・・何かただ事ではない事が起こっているのではないでしょうか?」
と、ローズマリーさんが言いました。
それを聞いて、私の不安は一気に膨れ上がりましたが、何とか落ち着かないと・・・と、自分に言い聞かせながら、
「でも、キャスなら大抵の怪我は自分で治せるはずだわ」
「なら、死んでしまうような・・・」
と、誰かが言って・・・。
「やめて!」
私は思わず、声を上げてしまいましたが、ハッと我に返って、「ごめんなさい。つい・・・あ。怪我をしたのなら、医務室にいるかもしれないわ。私、行ってみますから、皆さんはあまり悪く考えないようにして下さい」
私はそう言い残すと、急いで教室を出ました。
「マーガレット様!」
ローズマリーさんが追いかけて来て、「私も行きます」
私は何となくホッとすると、
「ありがとう」
と、お礼を言うと、「確かにおかしいのよね。リバー様の派閥の生徒が上級生まで、この棟に集まっているのよ」
「ええ。そのようですね。あ、医務室は職員室の向こうにありますから、先にスターリング先生に話を聞いてみませんか?」
「そうですね」
私とローズマリーさんが階段を降りていると、
「シュナイダー!リバーを追い掛けろ!」
レオンハルト殿下らしき声がしました。・・・レオンハルト殿下にしては珍しく切羽詰まったような声だったような気がします。
私とローズマリーさんは顔を見合わせましたが、また階段を降りて行っていると、
「!」
私とローズマリーさんは壁に張り付きました。
リバー様が凄い勢いで階段を駆け上がって来て、更にシュナイダー様も続いて来るのです。
本能的に避けなければならないと思いました。
二人がまさに風のように行ってしまって、
「一体なんなの?」
「さあ・・・」
私とローズマリーさんは首を傾げながら、階段を降りようとしましたが、
「マーカス・ゴードン!!出て来い!!お前だけは殺してやる!!」
リバー様の怒声が響き渡り、私はギョッとして、階段を見上げました。
こ、殺してやるですって?
私もローズマリーさんも青ざめていましたが、下の階から、バターン!と、何かが倒れるような音がしました。
「こ、今度は一体何よ!」
と、私が思わず声を上げると、ローズマリーさんが私の腕を引きました。
今度はレオンハルト殿下がまた凄い勢いで階段を駆け上がって行ったのです。
何とか避けれたことにホッとしましたが、
「ルーク!」
ルークが階段を3段飛ばしで上がって来ることに気付きました。
ルークも私に気付きましたが、
「!」
私は思わず、両手で口を覆ってしまいました。
ルークは私が今まで一度も見たこともない恐い顔をしていたのです。
私のそんな反応にルークは気付いたようで、表情を少しだけ緩めると、
「カサンドラ様は医務室にいます。行ってあげて下さい。カサンドラ様のこと、どうか、お願いします」
と、言い残して、ルークもまた風のように行ってしまいました。
ルークが行ってしまった後、先生方まで階段を駆け上って行きました。
「追いかけっこでもしているのかしら?」
「寝てますね」
ローズマリーさんがホッとしたように言い、私もホッとしながら、
「ええ。寝てるわね」
キャスは医務室のベッドで寝ていました。
見たところ怪我はないようで、規則正しい寝息を立てています。
私とローズマリーさんはとりあえず椅子に座って、
「もう何が何だか分からないわね」
「ですが、リバー様があそこまで怒っていて、ロクサーヌ様がこうして医務室にいるのは、それがマーカス・ゴードン様のせいだと言うことではないでしょうか?」
「確かストレーゼン侯爵家の方だったかしら?では、あの人がキャスに何かしたってことよね。リバー様が怒り狂うわけだわ・・・」
「ええ、命が助かればいいのですが・・・」
きつい冗談かと思いきや、ローズマリーさんは真顔でした。
・・・さすがに殺しはしないでしょう。殿方は怒った勢いでつい暴言を吐いてしまう生き物ですからね。
すると、ローズマリーさんがサッと顔を上げて、
「何か・・・聞こえませんか?」
「え、やめてちょうだい。私、幽霊とかダメなのよ」
私が顔をしかめると、ローズマリーさんは苦笑いしましたが、
「女性の悲鳴だと思います。・・・気になりますね」
と、言って、立ち上がると、「私、様子を見て来ます。そのついでに同じクラスの方たちにロクサーヌ様は大丈夫だと知らせることにします。皆さん、とても心配されていましたから」
「ええ。それがいいわね。私はもうしばらくキャスに付いているわ」
「はい」
ローズマリーさんは医務室から出て行きました。
私はキャスの寝顔を見つめました。
顔色が悪いわけでもないし・・・一体、どうしたのかしら?
「ただ単に良く寝ているだけとかやめてちょうだいね」
と、私が言うと、
「ん・・・」
キャスが身動ぎしました。
起きたのかしら?と、私は思いましたが、キャスは目を開けませんでした。
「何だ・・・」
と、私ががっかりしながら呟いた、次の瞬間、
「・・・レオ、さ、ま・・・だいすき・・・」
キャスはそう呟きました。まあっ!
やっぱり、そうなの?!




