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双子と図書室。その1

 放課後、アーロンに話があるから会って来る。と、ルークに断ってから、私は教室を出ました。

 ルークは『分かりました。待ってますね』と、言いました。何だろう?と、思ったかもしれませんが、ルークは何も聞きませんでした。

 ルークは普段からあまり詮索してきません。

 ・・・もしかしたら、お茶の時間にレオ様と過ごしていることも感付いているのではないかと思います。スターリング先生のところに行くなんて嘘がいつまでも通用するわけがないですし・・・。

 ルークに黙ったままで、いいのでしょうか?ルークだって、レオ様のことが心配でしょうし・・・。

 もし、レオ様が一人で苦しんでいたことを、ルークが後で知ったら、ルークはとても傷付くのではないでしょうか。私が嘘をついていたことも、良く思わないでしょうし・・・。

 ただ、レオ様の気持ちも分からなくもないですから、無理にルークに話してあげて欲しいとは言えません。

 あ、闇の力のことは黙っておくとして、お茶の時間はレオ様と二人だけで過ごしたいの。何て言ってみるのはどうでしょうか?変な誤解を与えるでしょうか?

 ですが、ルークが今更私とレオ様の仲を誤解することはないでしょうし、実際二人で過ごしているだけですから、嘘にはなりませんもんね。


 私がそんなことを考えながら、アーロンのクラスまでやって来ると、

「リバー」

 丁度、リバーが教室から出て来ました!

「キャス」

 私はリバーの元へ駆け寄ると、

「アーロンはまだ教室にいる?」

「いや。もう帰ったよ。ローズと会うってさ」

「何だ・・・」

 アーロンに会えず、がっかりしましたが、ローズマリー様と会うことはもちろん何の問題もないので、とりあえず、ホッとしました。


「用事?」

「うん。ちょっと・・・でも、急ぎの用事じゃないから、明日で大丈夫」

 と、私は言いながら、教室の中を見て、「シュナイダー様は?」

「新しい茶葉が家から送られて来るからって、うきうきして帰った」

 何となくシュナイダー様と顔を合わせずに済んで、またホッとしましたが、

「うきうき?シュナイダー様が?」

 そんなことがあるんですか?

「飼ってる犬の絵も送られて来るみたいだから、嬉しいんじゃない?」

「へえー」

 シュナイダー様も可愛いところがあるんですね!

「じゃあ、シュナイダーもいないことだし、お茶して帰ろうか?」

 私はにっこり笑うと、

「賛成!」

 リバーもにっこり笑うと、

「ルークは置いて帰ろうか」

「そんなことをにっこり笑って言わないの!」

 困った弟ですね!


 私とリバーがルークが待っている教室に向かっていると、

「リバー様、お姉様、ごきげんよう!」

 リバー派閥の女子生徒さんが顔を真っ赤にしながら挨拶をして下さいます。

「ご、ごきげんようー・・・」

 と、私が戸惑いつつ、挨拶を返すと、

「ふっ」

 リバーが吹き出して、「何なの、そのぎこちなさ。それにもういないよ」

 恥ずかしかったのか、あっという間に行ってしまいました!

「慣れないんだもの。それに、お姉様って、呼ぶのやめてくれないかしらね?同級生にお姉様って呼ばれるのって、変な気分」

 もしかしたら、私って、老けてる?と、思ってしまうのです。

「どういうわけか、キャスに憧れている子が多いからねー。でもさ、キャスが実際に姉だったら、大変だってことを、皆、分かってないよね。まあ、被害が僕だけで済んで、良かったよねー。うん、うん」

 リバーは頷きながら言いました。

「?!」

 何ですと?!


 お姉ちゃん、ショックを受けましたが、

「ね、ねえ、リバーって、子供の頃から私に色々と注意してくれてたわよね」

 シュナイダー様に言われたことも考えなくてはなりません。

「うん。何を言ったか、いちいち覚えてないけど」

「・・・」

 ・・・そうなんですよね。いっぱい注意され過ぎて、シュナイダー様の言った『リバーに注意されたこと』のどれに当たるのか全く分からないのです。・・・寮に帰って、じっくりと思い出すことにしましょう。

「それがどうしたの?」

「う、ううん。あ、そ、そうだ。リバーって、私の弟になったばっかりにしなくていい苦労をしてるなと思って」

 と、私が言いますと、リバーは私の頭を撫でて、

「馬鹿だなあ。苦労だなんて思ったことはないよ」

「リバー・・・」

 私は目を細めて、私よりずっと背が高くなった可愛い弟を見上げましたが、

「まあ、たまに首を絞めてやりたくなる時はあるけどね」

 リバーはそう言って、にやりと笑いました。

「?!」

 ぎゃあああっー!怖いです!!


「ルーク、お待たせ」

 私がリバーと一緒に教室に入ると、「あ、メグ」

 メグもいました。

「図書室に行かないかなと思って、待ってたの。・・・あら。リバー様、こんにちは」

 そう言ったメグの目が一瞬、鋭くなりました。ん?

「やあ。メグさん」

 リバーはにっこり笑って、「僕も図書室に行こうかな」

「リバーは図書室って、あの日以来?」

「あの日・・・ああ。ルークとキャスの3人で探険して以来だね。遠いし、寮にも図書室があるから、必要ないと思ってたんだ」

「寮の図書室とは比べ物にならないくらい本があるよ」

 と、ルークが言うと、リバーは眉を上げて、

「ルークって、読書なんかするの?あ、いつだったか恋愛小説を読んでたね」

 ルークはギョッとして、

「えっ?!知ってたの?!」

「うん。レオ様もルークは一体どうしたんだ?って、言ってたよ?」

 ・・・この世界では殿方が恋愛小説を読むのはとても珍しいことなんです。


 ルークは真っ赤になると、

「メグさん!」

 恋愛小説を読むよう無理に勧めたメグに文句を言おうとしましたが、

「あっ!」

 メグは急いで窓に顔を向けると、「キャス!見て!鳥よ!今日は天気がいいからかしら?!たくさん、飛んでるみたいね!まー、珍しい!」

「・・・」

 ・・・メグ、それは無理がありますよ?


 そんなこんなで図書室に来ましたが、皆さん、本棚まで行くことなく、お喋りを始めました。

「ああ、アーロンさんとローズマリーさんに会ったわよ。丘まで行くって言ってたわ」

 と、メグが言いましたので、

「へえ。やっぱり仲がいいんですね」

 と、ルークは言いました。

「赤ちゃんの頃からと言っていいくらい付き合いが長いそうね。ローズマリーさんもレオンハルト殿下と一緒の時より、アーロンさんと一緒にいる時の方が自然だものね」

「自然?」

 私は首を傾げて、「レオ様と一緒の時は不自然なんですか?」

「不自然とまでは言わないけれど、やっぱり気を使うんじゃないかしら?私もレオンハルト殿下とはあまり話したことがないから、余計にそうかもしれないけれど、緊張するわよ?」

「緊張・・・」

 ・・・そう言えば、私もレオ様と初めて会って、ご挨拶した時には、ひどい『ども噛み』になりましたねー。緊張と言うより、突然、攻略対象キャラが現れて、動揺したせいだと思いますが。それにしても、懐かしいですね。

 あの時のレオ様は可愛かったなー。と、私が思っていると、ルークが私をまじまじと見ていました。

「カサンドラ様、何をにやにやしてるんですか?」

「そ、そんなおかしな物を見るような目をしないでよ。レオ様と初めて会った時のことを思い出してただけよ。レオ様、小さくて、とっても可愛かったなーって」

 と、私が言いますと、ルークは険しい顔になって、

「殿下を可愛いなどと表現するのはやめて下さい!」

「お、怒らないでくださいよー。ルークは相変わらず、レオ様馬鹿ですねー。だいたい5歳の時の話なんだから」

 ・・・今でもたまに猫さんみたいで可愛いなー。と思う時はありますけどね。

 

「5歳ねえ。長い付き合いになるのねえ。そう思うと、リバー様は双子だから、我慢するしかないとしても、レオンハルト殿下もルークもずいぶん寛大なのねえ。尊敬するわー」

 メグがいたく感心しているようですが・・・どういう意味ですか?

「メグさんって、面白いね!あはははっ!」

 隣のリバーが声を上げて笑います。笑い過ぎです!

 私が少々むくれてますと、メグは悪いと思ったのか、

「だ、だからね。キャスにはいい幼なじみがいて、良かったわねー。って、言いたかっただけよー。私にはいないから、羨ましいわ。おほほほー」

 ・・・わざとらしいですね。と、私は思いつつ、

「メグにはアレックスがいるじゃないですか」

「えー?アレックスー?」

 メグは嫌そうな声を上げましたが、

「メグの恋愛小説話に付き合ってくれてたんでしょう?素敵な人じゃないですか」

「うーん・・・言われてみれば、そうかもねえ。けして、素敵だとは思わないけれど」

「アレックスは素敵な人ですよ・・・ん?」

 何故か隣から冷たい空気が流れて来ました。寒っ!


 私がぶるっと体を震わせると、

「キャス。アレックスって、アレクサンダー・ラングトリーのことかな?」

 と、リバーが聞きましたので、私は隣のリバーに顔を向けながら、

「ええ。アレックスにはとても良くしてもらったの。ダンスを教えて・・・ひぃっ!」

 リバーはにこにこ笑顔なのに、怒りオーラを出しています!お会いしたくありませんでしたが、お久しぶりです!

「キャスの周りをうろちょろしてるって報告はあったけど、ダンスは知らないなあ」

 リバーが怒ると思って、ダンスレッスンはこっそりやっていたのです!

 ・・・それにアレックスもそうした方がいいって、いやにリバーを怖がっている様子でしたからねえ・・・。

「だ、ダンスくらいで怒らないでね?私、アレックスのお陰で上手くなったんだから。それにアレックスには申し訳ないことをしちゃったのよ。レオ様が何を誤解したのか分からないけど、私とアレックスが踊ってたら、怒っちゃって・・・だから、リバーはアレックスに文句を言ったりしないでね!お願いだからね!」

 アレックスは私のダンスの先生ですから、守らなくてはいけません!

 

 すると、リバーが怪訝な顔になると、

「レオ様が怒った?キャスがアレクサンダー・ラングトリーと踊っていたところを見て?」

「あ」

 しまった!余計なことを言ってしまいました!・・・レオ様があんなに怒ったのは闇の力のせいなのに。あ、でも、アレックスは怒った理由は闇の力のせいじゃないと言っていましたが。「あ、あの、た、たまたまご機嫌ナナメだったのかもしれないわね。それに、多分、廊下なんかで踊ってたせいだと思うの。レオ様は学園でのお母様だから、私、しょっちゅう小言を言われるのよ。あはは」

「・・・」

 リバーは私の顔をじっと見つめていましたが、「・・・まさか」

 と、呟きました。まさかって?

「え?あ、もちろん、本気でお母様だなんて思ってないわよ?」

 と、私が言ったところで、

「あ、アレックスやダンスの話なんかもういいんじゃないかしら!面白くも何ともないでしょう!」

 と、メグがいやに大きな声でそう言いました。

「メグさん、だから、図書室では静かにしましょうよ」

 と、ルークが注意します。

「あ、そうね。ごめんなさい。あ、そうそう。明日、前期試験の順位が発表されるみたいよ。楽しみね」

「楽しみってことは自信があるんですか?」

 と、私が聞きますと、メグは手をひらひらさせながら、けらけら笑って、

「じ、実技試験は魔物の見た目に驚いちゃって、何が何だか分からないうちに終わっちゃったから、自信なんかないわよー」

「・・・?」

 実技試験が終わった後、悔しい!と、言っていたのに・・・笑うなんて、メグらしくないですね。と、私が思っていると、

「・・・まさかね」

 リバーはやっと聞き取れるほどの声でそう呟いた後、「確かに女性にはあの魔物はきついよね」

 メグはわざとらしい程、大きく頷いて、

「ええ!逃げ出したり、泣き出す子がいたくらいですものね!あれじゃあ、試験にならないから、魔物の見た目を何とかした方がいいんじゃないかしら!」

「・・・?」

 話題が変わったことに明らかにホッとしているメグの様子を見て、私は変だなと思いましたが、皆さんの実技試験の話に耳を傾けることにしました。



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