ヒロインが5人いればいいのです
私が歴史の授業が行われる教室に行きますと、
「あ、アーロン、君」
アーロンが一番後ろの席に座っていました。
「カサンドラ様。おはようございます」
「おはようございます。ここ空いてますか?」
「はい」
私はアーロンの隣の席に座りますと、
「アーロン君は歴史が好きなんですか?」
「はい。とても」
と、アーロンは大きく頷きますと、「僕は五大公爵の歴史を知りたいと思ったことが歴史好きになるきっかけだったんです」
「そうなんですか」
「ですから、次期五大公爵であるリバー様やシュナイダー様とお話出来て、とても嬉しいんです。もちろん、カサンドラ様も」
「いやー、リバーはともかく私なんて、五大公爵家の令嬢としては、ダメダメなんで・・・」
「そんなことありません。カサンドラ様は平民の僕にも親切にして下さいます。・・・本当ならこうやって隣に座って下さる事だってないんですよ?五大公爵家の皆さんは分け隔てなく、接して下さいます。そういう教えを受けてらっしゃるんでしょう?」
「国民の皆様の見本となるよう言われてますから」
と、私は言いましたが、アーロンに向かって、微笑みますと、「でも、だからって、アーロンと無理に付き合っているわけではないんですよ?リバーもシュナイダー様も私もアーロンと仲良くなりたいと思っているだけなんですよ?」
アーロンは赤くなりましたが、
「あ、ありがとうございます」
と、言って、笑顔を見せました。
あー、何でしょうかねー。アーロンといると落ち着きますねー。お父様に笑顔が似ているからでしょうかねー。髪の色も同じだからでしょうかねー。
はっ!私、もしかしたら、ファザコンなんでしょうか!ぎゃあっ!恥ずかしいー!
私は一人で恥ずかしがっていましたが、
「・・・カサンドラ様。教科書を開きましょう?」
と、アーロンが遠慮がちに言いました。
あっ。先生が来てました!
私ったら、また自分の世界に入ってしまいました。・・・反省です。
「アルバーダ国の兵器って、どんな物だったんでしょうね。詳しく書かれていないんですよね」
私とアーロンは授業が終わった後、歴史についてのお話しながら、教室に戻っています。
「でも、兵器と言っても、動力は魔力だと思うんですよ。大昔の事ですし、それ以外の物は考えられませんからね」
「なら、国王が強力な兵器がありながらも、この王国を恐れていた理由が分かりますね。魔法では五大公爵には敵いませんからね」
アーロンは他国の歴史にもとても詳しいです。負けてられません。
ちなみにルークは歴史が苦手です。自分は未来のことしか見えませんから!と、言ってました。それはそれでどうなの?と、思います。
「そうだ。アーロン。次のお休みにリバーたちと、森に野鳥さんを見に行く計画を立てているんですけど、良かったら、一緒に行きません?」
と、私が言いますと、アーロンは驚いたように、
「え、ぼ、僕が行っても、良いのですか?」
私は笑ってしまうと、
「良いから誘ってるんですよ」
「そ、そうですね」
アーロンは赤くなりつつ、「是非、ご一緒させて下さい」
私とアーロンはお休みが楽しみなあまり、にこにこしながら歩いていましたが、
「あ・・・」
アーロンが足を止めました。
「アーロン?」
私がアーロンの視線を追いますと、「あ・・・」
レオ様とローズマリー様が角から現れました。仲睦まじい様子で歩いています。
「あの、声を掛けてみたら、どうですか・・・?」
と、私は思わず言ってしまってました。私、レオ様と喧嘩中ですから、困りますけどね。
「・・・いえ。邪魔すると悪いですから」
「・・・」
私、レオ様とローズマリー様がくっつけばいいと思ってますが、そうなったら、アーロンが傷つくのですね・・・。
あー!ローズマリー様が5人いれば悩むことなんてないのにー!
あ、5人も必要ないですね。
シュナイダー様にはシーア様がいますし、リバーにはお姉ちゃんがいますからね!ルークももういいでしょう!うん!だから、ローズマリー様が2人いればいいのです!
まあ、そんな現実逃避をするのは止めることにして・・・。
「ああ・・・キャスって、レオ様の婚約者みたいに思われてるんだってね」
リバーは舌打ちしました。お行儀が悪いですよ!
今、裏庭でリバー、シュナイダー様、ルークとランチ中です。
「それでローズマリー様が邪魔者扱いされちゃって、同じクラスの女の子たちにきついことを言われちゃったんです。まあ、何とか助けが入ったんだけど、またこんなことが起こらないように何とかしたいんです!」
と、私が力説しますと、リバーはシュナイダー様と顔を見合わせてから、
「レオ様は知らないの?」
「ローズマリー様は言わないと思うわ。・・・私もレオ様とは話をしてないし」
「ああ。まだ仲直りしてないんだ」
「そ、そのことはいいの。・・・レオ様に話すべきかしら」
シュナイダー様は首を振って、
「・・・殿下は容赦しないでしょうから、知らない方がいいのではないでしょうか。反感を買い、更にローズマリー様への風当たりが強くなるかもしれません」
「女性の扱いは面倒だからねー。レオ様には手に負えないだろうな。怒れば黙るってもんじゃないし」
「だから、レオ様の手を煩わせずに、私たちで何とかお守りしたいんです。ローズマリー様はレオ様のお妃様となる人だもの。五大公爵家の一員である私たちが守らないといけないんです!」
「ふうん・・・」
リバーは腕を組んで、「レオ様がそう決めているんなら、力にならないといけないね」
「そうですね」
と、シュナイダー様は頷きました。
「ありがとうございます!」
「それで、キャスは何かいい考えがあるの?」
「そりゃ、カーライル公爵家とアンバー公爵家がローズマリー様の味方である事を皆さんに分からせればいいのよ!」
と、私は言うと、にやりと笑いました。
「キャスがそんな黒い笑みを浮かべたらダメだよ?」
リバーは私にやんわりと注意しますと、「でもさー、そんなに大事にしなきゃいけないこと?キャスがその女子生徒たちに止めるよう言えばいいんじゃないの?あ、ローズマリーさんとキャスが仲良くすればいいだけの事じゃない?」
「うっ・・・」
ごもっともです。ですが、ダメなんです!
「そもそもキャスがレオ様と喧嘩するから、そうなったんじゃない?」
リバーは溜め息をついて、「一部じゃ、ただの痴話喧嘩くらいにしか思ってない人もいるらしいし」
私はびっくりしますと、
「痴話喧嘩?私とレオ様はそんな関係じゃないですよ!」
「でもさあ、キャス。レオ様を変態扱いしただろう?」
「変態行為と言っただけです!」
「だから、キャスとレオ様がそういう行為をもうしてると思われているんだよ」
私はきょとんとして、
「そういう行為?」
「だから・・・」
リバーは頭をかきながら、「だ、男女のそういう関係になってるってことだよ」
「は・・・?」
私がまだまだきょとんとしていますと、リバーはじれったそうに、
「だからね、キャスとレオ様がキスとかそれ以上のことをしてると思われているんだよ」
「は・・・?」
「キャスは膝枕とかそのへんのことを変態行為と言ったんだろうけど、何も知らない人はそう取らないんだから、発言には気をつけようね?」
リバーは口調とは違い、やや怒っている様子です。
・・・喧嘩になったのは、私がレオ様に口ではけして言えない行為を強要された事に怒ったからだと陰で言われているようです。ぎゃあああっ!何てことでしょう!
それはそうと、リバーったら!シュナイダー様の前でそんな話をしないで下さいよっ!
相変わらず、超安定の無表情ですけどねー!




