リリアーナ様の伝説
ヒロインであるローズマリー様も登場しましたので、いよいよ本番開始です!
ですが、その前にレオ様の理想の女性についてのお話をしなくてはなりません。
レオ様の理想・・・それは、黒髪、黒い瞳の女性です。
長々と引っ張って、たったそれだけ?と、思われるかもしれませんが、レオ様の憧れの女性であるリリアーナ王女も同じく、黒髪、黒い瞳だったのです。
千年程前の事です。
カルゼナール王国にある深い森で、心の優しい、それはそれは美しい魔女が一人で暮らしておりました。
ある日、道に迷った他国の一人の騎士が魔女と出会い、二人は恋に落ちます。
愛し合うようになった二人は結婚の約束をし、騎士は魔女と森で暮らす為、国を出る決意をしました。
騎士の主君である王子は騎士の相手に興味を持ち(無類の女好きだったので)、騎士の後をつけ、深い森で魔女の姿を見てしまいます。
王子は美しい魔女に心を奪われ、我が物にしたいと思うようになってしまったのです。
そして、王子は・・・騎士を亡き者にしてしまったのでした。
愛する人を失った魔女は悲しみのあまり精神を闇に蝕まれ、正気を失い、たった一人で愛する人を殺した王子の国を滅ぼしてしまいます。
国民全て・・・赤ん坊までも、殺してしまいました。
体力が尽き、魔法を唱えることが出来なくなっても、魔力が込められた短剣で殺し続けましたので、返り血を浴びた魔女の全身は・・・瞳までもが真っ赤に染まっていました。
カルゼナール王国がその昔、『血に汚れた魔女の国』と呼ばれていたのはそれが理由なんです。
魔女もまた黒髪、黒い瞳だったのです。
その後、黒髪、黒い瞳、闇の属性を持つ女性は忌み嫌われるようになってしまいます。
それから、500年後・・・。
カルゼナール王国の第三王女として生まれたリリアーナ様も先の理由から実の父親であるユージアス王に疎まれ、18年間、城の塔にある牢屋に閉じ込められます。
リリアーナ様は実の母親、兄や姉にも見向きもされませんでした。
リリアーナ様はそんな不遇な毎日を送りながらも、ユージアス王の目を盗んで、時折、自分の元に来てくれるカーライル公爵の存在を心の支えにしていました。
ところが、そんなリリアーナ様に結婚話が持ち上がります。
お相手はアルバーダ国の第一王子フェリクス様です。
アルバーダ国は小国ながらも、独自に兵器を生み出し、勢力を拡大していました。
アルバーダ国が将来カルゼナール王国の脅威となるかもしれないと思ったユージアス王は娘を嫁がせる事でアルバーダ国を支配下に置こうとしたのです。
古の時代、アルバーダ国の王子は呪いの力を持った竜が世界を滅ぼそうとするのを食い止め、その竜を封印しました。
ですが、竜は封印される寸前にある呪いをかけます。
その呪いはこの先、アルバーダ国に生まれた女性は魔力を持てないというものでした。
その呪い通りにアルバーダ国で生まれた女性は誰一人として、魔力を持って生まれて来ることはなかったのです。
何十年、何百年とその呪いが消えることはなく、代々の王族は他国の女性を娶る事がしきたりとなっていました。
実はフェリクス様には愛し合っている男爵令嬢がおりましたので、リリアーナ様との結婚には難色を示していましたが、高い魔力を誇るリリアーナ様との結婚は願ってもない事ですし、結婚を拒否すればカルゼナール王国が攻め込んで来るかもしれないと恐れた国王に命令され、リリアーナ様を娶るしかなくなってしまうのです。
こうして、リリアーナ様は思いを寄せていたカーライル公爵と別れ、アルバーダ国に嫁ぎます。
嫁いだ後も不遇の連続でした。
まずフェリクス様からは他に愛し合っている女性がいるから、貴女を愛する事はないと言われてしまい、お飾りの正妃となってしまうのです。
フェリクス様のお相手である男爵令嬢は実は見た目だけが取り柄の強欲でずる賢い女性だったので、リリアーナ様に陰湿な嫌がらせ続けました。
更にフェリクス様の父である国王の後妻が自分の子である第二王子を次期国王にしようと、フェリクス様の暗殺を企てるのです。
リリアーナ様も命を狙われる事になりましたが、高い魔力量を誇り、聡明でもあるリリアーナ様は自身とフェリクス様の暗殺を未然に防ぎ続きます。
そんな日々を送る中、男爵令嬢の本性にようやく気付いたフェリクス様は段々とリリアーナ様に惹かれていきます。
フェリクス様はリリアーナ様と手紙で交流を続けていたカーライル公爵に嫉妬したり、やや鈍感なリリアーナ様にあの手この手で自分の方を見てもらおうとしたりと・・・まさに恋愛小説のような展開もありました。
・・・ふふ。結構ときめくんですよ。ですが、そんなお話を誰が詳しく書き残していたんでしょうね?フェリクス様も恥ずかしいでしょうね。
話が反れましたが、ある時、リリアーナ様にとって、悲しい出来事が起こります。ユージアス王の策略により、カーライル公爵が処刑されてしまったのです。
ですが、ユージアス王もまた父の暴挙に耐え兼ねたリリアーナ様の兄たちによって、暗殺されてしまうという最期を迎えてしまいました。
フェリクス様の支えにより、カーライル公爵を失った悲しみから立ち直ったリリアーナ様もフェリクス様に少しずつ惹かれるようになりました。
穏やかな時間が続くかと思われましたが、フェリクス様に捨てられ、リリアーナ様への憎悪に狂った男爵令嬢が、第二王子をそそのかし、竜の封印を解いてしまうのです!
竜の復活により、世界は再び滅亡の危機を迎えてしまいます。
更にフェリクス様が竜の攻撃からリリアーナ様を庇い、命を落としてしまいます。
フェリクス様が亡くなった事で、竜や自分に対する怒りが源となって、爆発的な力を発揮したリリアーナ様は見事竜を消滅させることが出来たのです!
しかし、あまりに強力な闇の魔法を使ったことで、リリアーナ様も魔女のように闇に精神を蝕まれかけますが、それを止めたのはフェリクス様への愛でした。
リリアーナ様は最後の力を振り絞り、禁忌の魔法と言われていた蘇生魔法でフェリクス様を生き返らせる決意をします。
蘇生魔法が何故禁忌の魔法なのかと言いますと、神を冒涜する行為だと言う理由以外にもう一つ、術者自身の大事な物を差し出さなければならないからなのです。
リリアーナ様は自分の命を差し出す覚悟で、蘇生魔法を唱え、フェリクス様を生き返らせました。
その代償として、リリアーナ様が失ったのは美しい黒髪と高い魔力でした。
老婆のようになり、魔力まで失ったリリアーナ様はフェリクス様に別れを告げるのですが、
『貴女の見た目も魔力も関係ない。誰よりも勇敢で心の美しい貴女を愛している。私には貴女しかいない。生涯私の側にいて欲しい』
と、フェリクス様はおっしゃったのです!
こうして、フェリクス様とリリアーナ様は末永く、幸せに暮らしました。
呪いの竜から世界を救ったリリアーナ様は女神と崇められ、黒髪、黒い瞳を持つ女性を娶った国は未来永劫、幸福であり続けると言う伝説が生まれたのです。
実際、アルバーダ国もカルゼナール王国と並ぶ大国となりました。もちろん、竜の呪いも消滅しています。
と、言うわけで、レオ様は何があっても屈しない勇敢な精神、冷静に物事を見極められる聡明さ、どんな時でも人を思いやることの出来る心の美しいリリアーナ様のような女性をずっと求めていたのです。
そして、レオ様の理想に当てはまる女性がローズマリー様だったのです。
レオ様は黒髪と黒い瞳を持っているからと外見だけで、ローズマリー様を妃しようと思ったわけではありません。
ローズマリー様の事をきちんと知った上で、この女性ならと思ったのでしょう。
私とルークは廊下から、教室の中を伺っていました。
教室の窓際でレオ様とローズマリー様がお話をしています。おー。お二人とも朝の光を浴びて、更に美しさが増していますねー。
他の生徒の皆さんも見とれているようです。
私が目の保養だわー。と、思っていますと、
「シャウスウッド君、ロクサーヌさん。何をしているんですか?」
と、背後から声がしました。
「!」
私とルークが振り返ると、スターリング先生が立っていました。
「「おはようございます!」」
スターリング先生は頷きますと、
「おはようございます。早く教室に入りなさい」
「「はいっ」」
私が教室の中に入ろうとして、
「ロクサーヌさん。待ちなさい」
スターリング先生が呼び止めます。
「はい?」
「首にかけている物は何ですか?」
「双眼鏡です!」
「・・・」
スターリング先生は眉を寄せますと、「授業に関係のない物を教室に持ち込んではいけません。没収します」
「?!」
スターリング先生が双眼鏡を取り上げて、
「卒業式の日に返します」
と、言うと、さっさと教室に入って行きました。
ぎゃあああああーっ!
その後、スターリング先生に野鳥さんへの情熱を泣きながら訴え、校舎には持ち込まない約束で双眼鏡を返してもらいました。
休みの日に、リバーとルークを誘って、野鳥さんを見に行きましょう・・・。




