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キャス、落第の危機

 放課後になりました。やっとです。ふぅ。

 入学初日ですから、半日で終わると思っていたのですが、違ったようですね。


 皆さん、席を立ち、教室から出て行きます。

 私の前の席のマーガレット様も立ち上がります。

 私も慌てて、立ち上がると、

「あ、あの、マーガレット様」

 と、声を掛けました。

「?何か?」

 マーガレット様が鋭い目を向けます(通常の仕様です)。ひいっ。

「あ、あの、自己紹介の時のお礼をと思いまして」

 と、私が恐る恐る言いますと、

「別に。貴女がぼーっとしているせいで、先生にも他の方にも迷惑が掛かると思ったからしたまでの事です」

「でも、あり」

 ありがとうございました。と、私は言おうとしましたが、

「失礼」

 マーガレット様は足早に行ってしまいました。

 当然の事ですが、嫌われてしまったようです。はぁ。


「カサンドラ様ー」

 ルークがやって来て、「職員室に行きましょう!」

「!」

 そうでした!今日はまだ終わっていません!

「私もついて行ってやるよ」

 レオ様も私のところに来て、「キャスが説教されるところを見たいしな」

「ルークだけでいいです。レオンハルト殿下を待たせるわけにはいきませんからっ」

「そう言うなよ」

「面白がらないで下さい!」

 そこへ、

「カサンドラ・ロクサーヌさん」

「!」

 先生が現れました!「は、はい」

「今から職員室に行きましょう」

「はい!」

 私は返事をしますと、くるりと振り返ってから、「待たなくてもいいですから、さっさと帰って下さいね!」

 と、私はレオ様とルークに向かって言いますと、先生の後を追い掛けました。

「リバーたちの所へ行くか」

 と、レオ様はつまらなそうに言いました。



 私、先生の後をついて行ってましたが、前を行く先生の足が早くて、小走りになってしまいます。

 すると、

「走らない」

 と、先生が私を見ずに言いました。

「す、すみません」

「もう少し歩幅を大きくしなさい」

「は、はい」

「よろしい」

 と、先生は言いますと、歩くスピードを少し落として下さいました。

 ・・・厳しそうに見えて、優しい方のようです。


 職員室に来ました。

 前世の世界の職員室みたいに机が向き合っていません。

 どっしりとした木製の机の周りには、これまたどっしりとした木製の衝立があります。ほとんど個室状態です。

 私がおどおどとしていますと、

「座って下さい」

 と、先生が言いましたので、

「し、失礼します」

 私は椅子に座りました。

 先生も椅子に座ります。

 怒られるー・・・と、私がびくびくしていますと、

「あなたの授業についてですが」

 と、先生が切り出しました。

「はい?」

 怒られるのだと思っていましたが、違うのですか?


「あなた、治癒魔法しか出来ないでしょう?」

「は、はい」

「実は治癒魔法に関する授業だけでは単位が足りないんですよ」

「へっ」

 ま、まじですか?!私、落第ですか?!

「他の生徒と同じように攻撃魔法や補助魔法の授業を受けたって、しょうがないでしょう?出来ないのだから」

「・・・ふぁい・・・」

 私、泣きそうになりました。うっ。

 すると、先生は慌てて、

「いえ、悪いとかダメとかそういうことを言っているのではないんです」

「は、はあ・・・」

 私はまじまじと先生の顔を見ます。

「あなたが内に秘めている能力は素晴らしいものがあります。きっと、将来、たくさんの人を救えるでしょう。私が保証します」

 と、言った後、先生は本当に微かですが、笑みを見せました。

「あ、ありがとうございます」

 私は少々驚きつつ、お礼を言いました。

 先生は頷きましたが、

「・・・正直に言いますが、あなたは魔力量が高いし、それに、あのカーライル公爵家の令嬢が治癒魔法しか出来ないなんて、信じられませんでした」

 ・・・実は学園から、結果が間違っているのではないかと問い合わせがあり、また調べ直したんですよね。結果は変わりませんでしたが。

 カーライル公爵家は代々攻撃魔法を得意とする方々ばかりだったようで・・・なのに、その令嬢が攻撃魔法が出来ないとは衝撃的だったようです。

 ちなみに私の父は1年生から3年生まで全ての科目で一番だったそうです。ずいぶん荒れていた時期があり、放蕩者と呼ばれていたと言うのに、不思議です!

 特に攻撃魔法系の科目では闇の属性がないながらも、ダントツの成績だったとか。な、何故、こんな私が生まれたのでしょうか。

 ・・・私、また落ち込みましたが、先生のお話は続きますので、しっかりしましょう!


「他の先生方と話し合った結果、他の生徒たちの授業の様子を観察し、私たち教師の教え方や生徒が魔法を習得するまでの過程や魔法そのもの効果について、あなたの観点で研究し、その研究結果を提出する事で単位を取るようにしたらいいのではないかと言う事になったんです。あなたは出来ると思いますか?正直に言って下さいね」

「・・・」

 何だか大変そうですが、魔法を習得する方が大変に決まってます。私だって、頭は一応動きますからね!「が、頑張ります」

 先生は頷きますと、

「では、この方向で話を進めますから」

「はい。あ、あの、私のせいで、ご迷惑を掛けて、申し訳ありません」

「何も迷惑ではありません」

 と、先生はきっぱりと言いました。

 私はホッとして、

「ありがとうございます」

「ですが」

 先生は厳しい顔つきになると、「授業中にぼんやりされるのは迷惑です。特に攻撃魔法の訓練中は危険が伴いますから」

「は、はいっ。申し訳ありません!」

 授業中にもう二度と自分の世界に入ったりしません!


「では、もう行っていいですよ。また明日」

 私は立ち上がりますと、

「失礼します!」

 がばーっと頭を下げてから、職員室から出て行こうとしましたが、「あの」

「はい?」

「せ、先生のお名前は・・・」

 と、私がおずおずと言いますと、先生は眉を上げて、

「本当に何も聞いてなかったんですね」

「申し訳ありませんっ!」

 先生は溜め息をつきましたが、

「エレン・スターリングです」

 お名前を教えてくれました!

「ありがとうございます!スターリング先生」

 と、私はまた頭をがばーっと下げてから、スターリング先生に言われたように歩幅を大きくする事を心掛けつつ、職員室から出て行きました。


 そんな私を見ていたスターリング先生は溜め息をついて、

「大き過ぎます・・・あれじゃあ、淑女とは言えないわ」

 と、言って、首を振りました。

 すると、隣の先生がひょっこりと顔を出して、

「あの生徒が、学園始まって以来の問題児と言われていた現カーライル公爵のお嬢さんですか」

「ええ。ちょっと変わった子ですね。必要以上におどおどしているし」

「確かに、ふてぶてしいまでの自信家だった公爵とは全く似ていませんね。公爵夫人とも全く似てませんが・・・そう言えば、スターリング先生は公爵夫人と同級生でしょう?」

 スターリング先生は微笑むと、

「公爵夫人は今でも私の大の親友です。彼女から、厳しくしてくれと言われています」

 と、言ったのでした。



「さむっ・・・」

 急に寒気がしました!何故でしょう?!

 私が首を傾げながら歩いてますと、

「キャス」

 と、リバーの声がしたので、そちらを見ました。

「あれ、帰ったんじゃないんですか?」

 リバーだけではなく、レオ様、シュナイダー様、ルークにアーロンまでいました。

「お疲れかと思い、皆でお茶をしようと待っていたんですよ」

 と、シュナイダー様が言いました。

「食堂のチョコレートタルトが美味しいって。隣の席の女の子に聞いたんだ」

「リバーったら、もう仲良くなったの?」

 私はつい眉をしかめてしまいます。お父様に似るのではないでしょうか?!お姉ちゃんは心配です!

 すると、リバーは黒い笑みを浮かべて、

「その子の父親、貴族院の議員だって。五大公爵不要論を訴えている派閥の一員だよ」

 ・・・リバーは今後、学業の傍ら諜報活動をする事になります。末恐ろしいです!



 私、学生食堂でお茶をしながら、スターリング先生がお話した事を皆さんに話しました。

「じゃあ、キャスは僕と同じ授業を受ける事もあるんだね」

 授業は属性別で受ける事になっています。

 双子なのに、私とリバーの属性は全く被りませんので、リバーと同じ授業を受ける事はないと思っていました!

 これは、リバーの授業の様子を両親に手紙で知らせなくてはなりませんね!

「うん。一応、全属性の授業を受けれるだけ受けようと思ってるの」

「じゃあ、キャスは私と一緒になることもあるんだな」

 レオ様は何だか嬉しそうです。

 はて?私はただ見ているだけですが、レオ様は何が嬉しいんでしょうね?

 あ!あれですか?!お母さんが授業参観に来てくれて、嬉しい!・・・みたいな?

 そうですか。そうですか。私、母親のような気持ちで皆さんの授業を見学させていただきますね!


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