まおう、つきさす
なんだか凄く身体が揺さぶられてる気がします。
「お嬢様、起きてください、です」
あとなんだか声も聞こえますわね。
ついで体を揺さぶる力が大きくなってる気がしますわ。
「お嬢様!」
「ふぎゃぁぁぁぁぁ!」
「ふぎゃぁぁぁぁぁ!」
な、なんですの⁉︎
いきなり首筋に冷たい物が当てられたショックでベッドの上で飛び上がりましたわ!
「な、何しますの⁉︎ というかなんでフブキまで驚いてますの⁉︎」
「お、お嬢様があんまりにも大きな声を出されたので心臓がバクバクいってるんです!」
……ホムンクルスにも心臓ってあるんですのね。いえ、そうではなくて!
へたり込んでいるフブキの手を見るとそこには小石くらいの小さな氷が握られていました。
あれをわたくしの首筋にあてたのですね。
「いくら起きないからといっても氷を当てなくてもいいじゃない」
「一発で目を醒すにはこれがいいと教わった、です」
なんでそんな自信満々なのかしら?
あと誰ですの? そんな変な起こし方を教えたのは。
絶対にそんな起こし方間違ってると思うのだけど……
「とにかく服が濡れるからその起こし方はやめて欲しいわ」
「わかりました」
そんなシュンとしたような表情は浮かべないで欲しいわ。なんていうか凄く庇護欲が掻き立てられるし。
「それでお嬢様、読まれていた本は読み終わったのです?」
「読んでいた本?」
あぁぁ、そういえば読んでいましたわね……
「またやってしまいましたわ……」
本を開いた所までは記憶があるんですが文字を読んだ記憶が一切ありませんわ。
マオ学にいた頃からわたくし本を読んだら寝てしまう体質でしたし。
むしろここまできたら呪いなんじゃないかしら?
「お嬢様?」
「えぇ、大丈夫よフブキ。読み始めてすぐに寝てしまったから一ページくらいしか読めてないけどわたくしは大丈夫ですわ」
「一ページですか」
そんな悲しそうな顔で見ないでほしいですわ!
「とりあえずは魔王らしい事をしようと思うのですが……部屋いつの間にか変わりましたの?」
昨日までは宿屋の一室だったはずなのですが今私がいる部屋は昨日とは一変していますわ。
硬い木のベッドは天蓋付きのフカフカのベッドになってますし、床も事故現場のように血で汚れてどす黒くなっていた物が美しい木目の物に変わってピカピカに磨かれています。
ボロボロで立て付けの悪かったテーブルなんかは完全に別物、透明なガラスのテーブルになってますわ。
「フブキ、お嬢様のために頑張って掃除しました、です」
鼻息荒くフブキがそんな事を言ってますがどうやったらここまでなるのでしょう?
掃除ってここまで変わる事をいいましたっけ? 部屋を入れ替えたと言われた方がまだ納得できるというものです。
「お嬢様、とりあえず食事にするです?」
「え、ええ。でもわたくし、吸血鬼ですから普通の食事は食べませんわよ?」
「どうぞ!」
満面の笑みを浮かべたまま、フブキは自分の首筋をわたくしに見えるようにしてきました。
お、ホムンクルスって人と同じような血が流れてるのかしら? でも凄く惹かれますわ! いい匂いもしますし。
「あ、ホムンクルスの血はダメでしたか?」
「いえ、そんなことはないと思うわ。なんというかフブキの肌を見てたらこう、食欲が湧くというか、舐め回したいというか、めちゃめちゃにしてやりたいという仄暗い欲望が湧き上がりますの」
「ぴゃい⁉︎」
その涙目も凄くいいですわ!
グッときます。そんなフブキへと音もなく近づいたわたくしは八重歯を鋭く伸ばすとフブキの首筋へと突き立て、その甘美な血を吸ったのでした。




