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23 修学旅行・3日目

僅かに差し込む日差しが眩しくて、目を細めて布団を被り直す。窓の外からは軽やかな小鳥のさえずりが聞こえてくる、心地よい朝の微睡み・・・ってあれ?


「はっ、朝!?」

「おう、おそよう」


し、しまったー!

『あんなことが立て続けにあったから眠れないよ・・・どうしよう』という複雑に揺れ動く乙女の心情のような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!寝落ちして力いっぱい寝てしまった。助けて!昨日まで元気だった緊張感やときめきドキドキ感が息してないわ!


「まだ寝ぼけてるのかー?」

「いや、起きてる起きてますとも!」


旅館の部屋の洗面所から、顔だけひょいと覗かせて私の様子を確認するとまた身支度を再開する京歌を横目で見つつ、フッと昨日一昨日の出来事を思い返す。


「だ、大丈夫!あの二人はどちらかというと天然の部類だから、ラブではなくライクの意味という可能性は大いにある!」


誰に言う訳でもなく自分を納得させるように拳をギュッと握りしめて力説する、そうそう私には複数男子に言い寄られるような器量も持っていなければ人徳も無い、容姿も人並みだしねって自分で言ってて空しいなあ、もう!


「どうした真の天然、様子が変だが何かあったのか?たとえば男子に告白されたとか」


どきり。ぎくり。


「こ、この3日間で既に十人切りした人に言われたくないわー」


「俺に惚れると怪我するぜ!」

「心理的にね!」


あははと乾いた笑い声をあげて軽いジョークとして会話を流す、危ない危ないなんて勘がいいお人なんでしょう・・・いや、本音で言うと京歌に相談しておきたいんだけど、あの『白羽の矢が』うんぬんで以前散々からかわれたり面白がっていたフシがあるから、冷やかされるのもけしかけられるのも嫌だな、なんて思ったりして。


「よし支度終了、メシ行くぞー」

「あ、ちょっと待ってよ!」


とりあえず今は着替えて朝食にありつかないと、忙しなく布団から飛び出し入れ替わる様に洗面所使用者交代。まずは顔を洗って、このボサボサの髪を何とかしなくちゃ!


*  *  *  *  *


右左、も一度右。

周囲確認よし、あの二人はただ居るだけで存在感が強くて目立つけど、これだけ見回しても見つからないという事は朝の部に焼き物を選ばなかったみたいだ。あの二人、と言うのは勿論陽高くんと最上くんの事で、不在であることに安堵してしまうのが複雑な心境。


三日目は選択制の京都体験学習。

選べる項目は色々あるけれど、私たちは朝に焼き物、昼の部からは和菓子作りを選んでみた。


ホテル近くの工房で色々教わりながら電動ろくろに向き合って悪戦苦闘、時折ふと昨日一昨日の彼らとの会話を思い返してしまって何だか恥ずかしいような、そわそわと落ち着かない気分になって・・・私の作った花瓶がでこぼこでガタガタなのはそのせいって事にしておこう。反して京歌さんがご両親用に作った夫婦湯呑が講師に絶賛されるほど上手だったことも投げやりに追記しておく。


「くっ、いい仕事してますね!」

「ま、器用貧乏もいいとこだけどな、白羽さんの花瓶も前衛的でよろしいんじゃないでしょうか」


前衛的って言えば全てが丸く収まるのが芸術のよく分からない所ですね。くっ。

そんなこんなでいまいち集中力に欠ける朝の部が終わると、種目ごとに分けられたバスに乗ってホテルに戻ってお昼ご飯を頂き、食後にゆったりとカフェオレを飲んでほっと一息つく。周囲には同じ制服を着た生徒の他にスーツを着た社会人や主婦など様々な人が行きかっている。


それにしてもセルフサービスで食べ放題なバイキングというものは、どうしてこうテンションが上がり過ぎてしまうのだろうか、思わず食べ過ぎてちょっと苦しい。


「この後は和菓子作り体験だね、確かバスの出発が1時半くらいだったかな?」


室内を軽く見渡し時計を探すと今が12時半、あと1時間はのんびり出来る計算になる。腹部が重いのですぐに過度の運動を行ったり、ましてや満腹状態でバスに乗るのは避けたいから丁度いい待ち時間だ。


「おう、でも俺これから班長会議があるんだよな」

「・・・そういえばこの班の班長って京歌だったっけ、班長会議って一体何話すの?」

「多分明日の自由行動についての注意事項とかだろうな」


食事処にまでわざわざ旅行のしおりを持参していたのはその為ですか。そうか明日が自由行動なんだ、旅行に来るとどうも時間の流れが変則的になるからそうも思わなかったけれど、修学旅行ももう残すところは正味2日になるのかぁ。・・・明日は京歌と思いっきり遊びまわる予定だから、何だか急に楽しみになって来たな。


「30分ほどちょっと出てくるけど、その間白羽はどうする?」

「うーん、今動きたくないし部屋に戻って荷物の整理でもしておくよ」

「じゃあ俺も終わったら一旦部屋に戻ることにするか」



了解、と手を振りあって自分の部屋に帰ってみたけれど、二人とも物を散らかすタイプじゃないから入室した時と殆ど変わらず、特に整理する必要も無く唐突にやることが無くなってしまった。


「片付けなくちゃいけないようなものは無いし、出している洗面道具類は今晩も使うし・・・暇だ」


時計を見ても京歌と別れてから10分くらいしか経過していない、嗚呼暇だ。こてんと制服のままベッドに横になってみる。うーん、一人で売店にでも行ってみようか、いや今はあまり動き回りたくないなぁ。広い寝具の上をごろごろと回転してみたり、寝転がったまま器用に鞄から携帯電話だけを抜き取ると、ディスプレイに表示された日時は7月6日土曜日12時42分。


京歌が帰ってくるまでまだしばらくかかるだろう、ぱたりとシーツに顔を埋めてから、ふと思い返して再度日付と時刻を確認する。


1分進んで、7月6日土曜日12時43分。


湊都は第1、第3土曜にも昼まで授業がある、いわゆる半ドンってやつ。で、学校が終わって真っ直ぐ帰って来ていたら丁度このくらいの時間に帰宅している筈なのです、うむ。


横たわったまま、試しに自宅に電話をかけてみようか。暇つぶし半分、好奇心半分といったところ、居ないなら居ないで留守電を残すだけだし、おそらく十理くんの家か外に遊びに行ってるんだろう。あの二人は私よりしっかりしているから別に心配はしていない。


ワンコール、ツーコール、スリー「もしもし、姉さん?」

携帯電話から聞こえてきたのは数日振りの水月の声。ああそうか、何気なく電話をかけてみたつもりだったけど、私今、ほんのちょっぴりだけホームシックなのかもしれない。うわあ高校三年生にもなって恥ずかしい。


「姉さん?」

「わわ何でもない、ちょっと時間が空いたから水月と和どうしてるかなって思って、私が居ない間に何かあった?」

「どうって、別にフツーだけど」


ご飯はちゃんと食べてる?と聞いてみると、「子供じゃないんだから、しっかり食べてるよ」といつも通りの冷めた口調が返ってくる、それでいて「ああ、あの大根の煮物美味しかった」なんて優しいことを言うものだから、何だか嬉しくて可笑しくなってくる。


「何?もしかして笑ってる?」

「ううん、ところで明日は日曜日だけど、どこかに出掛けたりするの?」

「・・・どうかな、今の所予定はないけど・・・あ、和が帰ってきた」


別々に帰宅していたのか、水月の言う通り玄関の扉の開く音と同時に何だか元気な声が受話器越しに聞こえだした。・・・なに、でんわ、おねえちゃ・・・?


「姉さん?」

「あ、はいはい?」

「はぁ、和がうるさいから一旦変わるよ」

「はーい」


「もしもしお姉ちゃん!?」

「はい、もしもーし」


直に耳元に届いた声にまた頬を緩める、元気そうで良かったと言えば「お姉ちゃんが居なくて寂しい」と可愛いことを言ってくる。


「あと二日だし、もうすぐ帰るよ」

「うう~、ところで京都はどう?楽しい?」

「うん、今日の焼き物体験とか、上手く出来なかったけど楽しかったよ」

「そっか、お姉ちゃんが楽しいならそれが一番だよ」


泣いても笑ってもあと二日、めいっぱいいい思い出を残したいな、そんな空想に思い耽っている私に和はこう言った。


「―――あ、もしもだけどね?もし勢いだけで男子に告白とかされても、それは旅行先のムードでテンションが上がってるだけだから気にしちゃダメだよ」


瞬間、フリーズ。あーんど、リフレイン。まるで字幕付きの映画の様に、一瞬で脳裏に、とある情景が駆け巡る。


「それにほら、調子に乗って「ひょわぁぁっ!」っえ?何!?」


おおお落ち着け冷静になれ、思わず奇声を上げてしまったけど今動揺したらいかにも何かありましたと言ってるみたいじゃないですか、というかどうしてそんなに鋭いんだ我が妹―――いや弟!


「ななな、何でもないっ!べ、別に私には何もありませんでしたよ!?」

「ただいまー「ぴゃあああ!?」・・・何一人で暴れてんだ白羽・・・」

「え?・・・もしもし、お姉ちゃん!?」


突然ドアが開いて京歌が電話で、和が帰ってきてあわわわ。時計の針は1時を通り過ぎている、二人と談笑している間に休憩タイムは終了していたようで、呆れた顔した京歌がこちらを見ている。


「今の、京歌先輩の声?お姉ちゃん今ホテルの部屋なんだよね?・・・そういえば班の女子が二人だけってことはまさか、その部屋二人きり・・・!?」

「ご、ごめん和、そろそろ午後の部の用意をしなくちゃいけないから、もう切るね!」

「えっ、ちょっと待っ」


何かもう色々と収拾がつかなくなりそうなのでブチリと通話を終了させる。すまない和、私には深呼吸をする時間が必要なんです、いい土産を買って帰ります!


「・・・何やってんだか」


背後から冷ややかな親友の意見、全くもってその一言に尽きる。何やってんだろ私・・・。

一週間と言いつつ半月以上放置です、すいません

今回は小休止、インターバル、またの名を嵐の前の静けさ

やっと次回は修学旅行のメインイベント(?)自由行動です

感想、ブクマ、評価、本当にありがとうございます。

なろうの姉妹サイトみてみん様にて作者の下手なイラスト公開中です

http://11183.mitemin.net/

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