表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

18 2年生

今日、うちのクラスの女子たちはテンションが高く色めき立っている、それぞれのグループで固まってくすくすウフフと華やかに笑う。それにつられて男子たちも心なしかそわそわしている。


ささくれ立つ私の心情とはまるで逆に。


「おはよー白羽・・・生きてるか?」

「ヤツは二年私は三年、二人きりにならなければ どうと言うことは無い」


昨日の未知の生物(腹黒穂積)襲来の尾を引きずりながらどんよりとした気持ちで何とか学校に辿り着いた、彼も人目に付く場所でああいった言動をする気は無いだろうし、教室がある階も違うんだから単独行動をしないよう気をつければ問題ないだろう。


「ところで何でこんな騒がしいんだ?」

「あー今日はアレが有るからねぇ」


アレといえば少女漫画乙女ゲーだけに限らず、学園物では不定期に発生する定番の恋愛イベント。


「今日の家庭科は調理実習だよ」

「お、そういえばそうだったか」


その技量の上手い下手によって好感度が増したり減ったりギャグパートになったりする、リアルでもまた作ったものを好きな人に差し入れたり、男子は好きな子から貰えるかどうかやきもきしたり、とバレンタインの縮小版な行事と言っても過言ではないだろう。


「何作るんだ?」

「確か今回はパウンドケーキ」


あれは切って取り分けやすいからプレゼントには向いている、よって女子たちもそれを前提にして相談をしているようだ。調理実習はクラスによって違う日に行われるから、きっとモテる彼らの所には毎日のように女子が押しかけて来るだろう・・・大変だなぁ、蔵王くんはバッサリ「要らん」とか言って女子泣かせてそう。


「ふーん、まあ当然俺の分はあるよな」


鞄を机に置いて、椅子に腰かけながらお約束のドヤ顔でそう言う京歌を見つめて、パチパチと数度瞬きをする・・・お前は何を言ってるんだ?


「はい?京歌は私と一緒に作る方でしょうが」

「・・・あ、ああそうか・・・そうだよな」


前回の家庭科で二人一組のコンビを組んだ事はまだ記憶に新しい、ちなみに湊都高は家庭科と図画工作の選択制である、大概男子が工作女子が家庭科に分かれるけど。


「すまんすまん、前世でそういったイベントは毎度女子から大量に貰ってたから、うっかり勘違いした」


自慢かよ、けっ。まあ自称前世イケメンとはいえこの気がきいて取っ付き易い性格ならモテるのもなんとなく分かる。


「あと私の分はもうあげる人決まってるから」

「ほーう、誰に?」


「それがね、朝に今日調理実習があるよーって話しをしてたら和が食べたいって」

「・・・さすが和チャン、歪みねぇな」


朝食時の会話を思い返すようにそう説明する、と・・・はひ?京歌はぼそりと何かを呟くと、ふっと遠い目をした。


*  *  *  *  *


お昼休みで賑わう廊下を人を避けながら急ぐ、渡すのは帰ってからでも良いような気もするけど、こんなに人目があればヤツも絡んで来ないだろうし、昼食のデザートに丁度いいかと思って。しっかし京歌本当に手際良いなぁ、私も日頃家事に慣れていることもあり二人でちゃかちゃかと課題のパウンドケーキを作り終えた後、余った材料と時間でクッキーまで作れてしまったよ。


和がいる2年3組の教室前にはすぐ辿り着いた、そういえば蔵王や生徒会の宝ちゃんも同じクラスだったよね。一応和とその友達の分は用意してきたんだけど、もう少し大目に持ってきた方が良かったかな・・・いや、先日の穂積くんの言い分もあるし、暫くは攻略対象の彼らに近づかない方がいいのかもしれない。うわ嫌なこと思い出しちゃった。


気分を変えてさて、と扉に手をかけようとすると目の前のそれはまるで自動ドアみたいにするすると横にスライドして。


「あれ・・・白羽先輩だ、どうしたんですか?」


中から最も出会いたくなかった人間が出て来るじゃありませんか。何この運の悪さ。そして何“白羽”先輩って。条件反射でカチーンと体が凍りつく。


・・・はっ、そういえば昨日こいつは宝ちゃんに連れられて生徒会室に来ていたんじゃないだろうか、宝ちゃんと和は同じクラス、という事は・・・彼も和と同じクラスだったのか、考えが足りなかった。穂積くんは生徒会室で見せた爽やかな笑顔を作って。


「うちのクラスに何か用?もしかして俺に会いに来てくれたのかな、だったら嬉しいな」


んなわけあるかい、ツッコみはぱくぱくと開閉する口から吐息のように漏れて言葉に出来ない。呆然と突っ立っている間にヤツは私が抱えていた小包を目ざとく見つける。


「そういえば今日三年生に調理実習があるって聞いたんですけど、先輩のクラスだったんですね・・・ひょっとしてその包み、俺の為に持って来てくれたんですか?」

「違うよ?」


んなわけあるかい、と私の口から飛び出すはずの言葉よりも先に、質問に対する返答は教室の奥からやって来た。窓際の席からパタパタとこちらへ向かってくるのは妹・・・じゃない、弟の和だ。うーん、ツインテールをなびかせスカートをはためかせて駆ける姿を弟と呼ぶのはまだ複雑な心情で慣れない。


「お姉ちゃんは私のために作って来てくれたんだよ、ね?」

「う、うん」


いつもと変わらず輝かしい笑顔を浮かべる和に、自分の味方がやって来たようで少しホッとする。のもつかの間。


「ほらね?・・・ところで、穂積くんは昨日転校してきたばっかりだよね?なのにもうお姉ちゃんの事を呼び捨てにしてるの?先輩に対してそういう態度、どうかと思うな」

「・・・そうだね、確かにキミの言う通りかもしれないけど」


・・・何でしょうか、これ。

6月中旬、今日は梅雨の真っ只中ではあるものの陽が差して初夏よりなお夏に近い、暖かく過ごし易い気候なんですが、この2年3組だけクーラーでもつけてるのかと疑いたくなるような不可思議な冷気がただよっている。


「でも俺と白羽先輩の仲だし、いいかなって」


どんな仲だよ!?昨日は脅かされた記憶しかありませんよ、そして名前呼びを許可した覚えもない、そんな爽やかに笑ったって君の性格把握済みの私は誤魔化されませんから!


「――――――だよね、センパイ?」


超能力って憧れるよね、今ワタクシ激しくテレパシー能力に目覚めたい、ハローハロー3階に御座す京歌サン、至急助けに来てもらえるととても有難い。昨日も見た穂積くんのこの鋭い視線に思わずたじろぐ、無言の圧力に負けて一瞬頷きそうになるがぐっと耐える。というか彼は一体何がしたいんだろう、言動が不明確すぎる・・・私の事を尻軽女だと思っているのなら何故あえて近寄ってくるのかが分からない。馬鹿にしたいのならそれはもう昨日で済んでいる筈だ、どうしてこんな人目に付くところでちょっかいを出してくるのか。


教室、廊下中の生徒がしんと静まってこちらの動向を窺っている、会話の内容までは聞こえて無いことを願うが、この場は一体どうやって収めれば良いんでしょうか・・・和にパウンドケーキ押し付けて逃げるか、誰かが助けてくれるのを待つか、非常に後ろ向きな解決策しか浮かばない。


「何をしているんだ」


私の切なる願いが届いたのか和と穂積くんの間にある人物が割って入ってきたけれど、残念ながら救いの手ではないかもしれない。現れた蔵王は立ち並ぶ3人の顔を一瞥するとキッと私を睨んだ、なしてそうなる。


「何、蔵王も白羽先輩の手作りおやつ争奪戦に参加する?」

「穂積くん話聞こえて無いのかな?それはお姉ちゃんが私のために作ってくれた物だってさっきも言った筈だけど」

「何をやってるんだ、お前らは」


現状がよりカオスになりました。穂積(ヘビ)蔵王(ネコ)(くま)に囲まれた生贄のひつじの気分です、どうしてこうなった。


その次の瞬間、救いの神こと昼休み終了間近を告げる予鈴が鳴った事を切っ掛けにその場にいた全員が我に返る。それを好機とみなして抱えていたものを和に突きつけた。


「約束してた物だから和に渡すね、大目に作って来たから後は任せるよ、じゃあ予鈴鳴ったから私もう行くね!」


マシンガントークで捲し立てると何か言いたげな3人を無視して廊下を駆け抜けた。



「おかえり・・・何か消耗してるな」

「もう2年の教室なんか行かない・・・」


全力疾走して自分の教室まで帰ると、テレパシーなどまるで届かずのん気に余ったクッキーを頬張っている友人の机にがばっと突っ伏す・・・考え方が甘かった、昨日みたいに二人きりにならなければ何か仕掛けてくる事は無いと思っていたのに。


そもそもヤツは何がしたいんだろうか、今回だってただ家族にお菓子を持って行っただけなのにどうしてあそこまで絡んできたのか。


「わけがわからないよ・・・」


2年三竦み、実際クマはヘビ嫌いらしいですが今回のはただの三つ巴ですね

ちょっと遅くなりました、お久しぶりです

蔵王の出番が少ないですが長引くとグダりそうだったのでここまでです。

閲覧、評価、感想、本当にありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ