17 その男、危険人物?
前回のあらすじ
最愛の妹が弟だった衝撃を乗り越えた私に待っていたのは、新規追加キャラが腹黒だったという衝撃の事実でした。私が何をした。
女子トイレで京歌にしがみついたままプルプルと震える、この状況誰かが入ってきたら間違いなくドン引きされて校内女子の噂の的になると思うけど。
「しかしまぁ、単純に腹黒キャラでしたーって言われても判断に困るな」
「う、うむ、それでは回想シーン入ります」
「じゃあ、話してくれ」
* * * * *
「湊都は校舎が綺麗でいいですね」
「そうね、比較的新しいから」
穂積くんと談笑を交えながら連れ立って歩く、生徒会室と給湯室は同じ校舎の割と近い位置にあるためすぐに辿り着く。
「あれ、この部屋の隣ってもしかして職員室ですか?」
「うん、その通り」
そものそもこの給湯室は先生方の為に存在する、主にお茶やコーヒーを入れたり宿直がご飯を用意する時に使用する。本当は職員以外は給湯室には入っちゃいけないけれど、そこを生徒会が好意で使わせてもらっている。
「だから食器棚の物・・・先生方秘蔵のお菓子とかには手を出さないように、ちなみにお茶っ葉は生徒会メンバーの持ち寄りなの」
室内に入ると慣れた手つきで水道水をやかんに入れて、コンロの火にかける。給湯室はただでさえ狭い間取りに棚と小型のシステムキッチンを押し込んだせいでさらに狭い、4、5人も入れば満員状態になる。
「へぇ、生徒の自由度が高いのは良いですね」
彼は部屋の中をきょろきょろと見回す、転校生にとっては何もかもが目新しいんだろう。やかんの水がお湯になるまであと数分、この狭い場所で会ったばかりの男子と二人きりというこの状況に少しの気まずさを感じる。
「えっと・・・常葉先輩、でしたっけ」
しかし穂積くんは人見知りをするタイプではないらしい、ひとしきり部屋の中を見て回ると急に真っ直ぐこちらを見て話しかけてきた。
「え、ええ・・・三年の常葉、白羽です」
改めて自己紹介をすると彼はまたにこりと人の良さそうな笑みをこぼす。・・・早くお湯沸かないかな、これは後でまた京歌に「見事なフラグが立ったな」とか言われそうだわ。サッと視線をコンロに移す私とは逆に、彼はまだこちらを見ているような気がする。まあ転校初日だし先輩に色々聞きたい事があるのかも・・・。
「・・・俺、転校の手続きや編入試験なんかで何度か湊都に来たんですけど、実はその時に常葉先輩の事見かけてたんです、可愛いなって」
・・・は?
何ですかそのあからさまなフラグは、今時少女漫画でもそこまでド直球な前振りはないだろう、一体どういう事なんだってばよ。自慢じゃないが私の容姿は人並みだ、本当に自慢にならないね!
「は、・・・え?」
言葉に驚いてパッと振り返ると、やはりまだ彼はこちらを真っ直ぐに見つめている。・・・何だろう、穂積くんの顔立ちが整っているせいだろうかその瞳に妙な威圧感を感じてしまう。美形さんが睨むと怖いという話は聞いたことがあるけれど、彼はさっきから笑った顔そのままなのに。
自分でも気がつかない内に、怖気づいたとでも言うように右足を半歩後退させていた。そうすると穂積くんがその距離を埋めるように一歩こちらに近づいてくる。
「先輩、笑顔が印象的ですよね、だから校内を歩いていてもつい目がいってしまって・・・でも先週の木曜日に見かけた時は、何故か元気がない様子だったんでちょっと心配してたんです、でも風邪だったんですね無事治ったみたいで安心しました」
・・・先週の木曜日、といえば和ショックの翌日、熱がある事にも気付かずのっぺらぼうみたいな顔でのそのそと登校して、京歌に慰められてわんわん泣いていたあの日だ。え、なに、見てたの?あれを!?
羞恥で頬が染まり、その反動で心理的にも肉体的にも数歩後ずさる。恥ずかしすぎる、あの出来事は私の人生の汚点かもしくは黒歴史と言っても過言ではない。あれ・・・中庭ってそんなに人目に付く場所だっただろうか。
ふと疑問に思い、赤くなった顔を覆い隠していた両手を下して再度穂積くんに視線をやる、と―――急にどくんと心臓が高鳴る、彼は始終笑みは絶やさぬままに、金色の瞳に獣のような鋭い光を宿していたからだ。
これは、ヤバい。
何がヤバいのか等は自分でも全くもって分からないが、本能的にそう察知するともう一度後ろへ下がる・・・と、トンと自分の背中に何かが触れる、考えるまでも無く狭い給湯室の壁にぶち当たったことを悟る。これは、マズイ。後ろは壁、右と左はコンロと食器棚、前にはさらに接近してきた穂積くん、給湯室の扉は彼の後ろ。いつの間にか袋のネズミ状態。
「先輩って人気ありますよね、会長たちが代わる代わる声をかけに来て」
「そ、んなこと・・・ないよ?」
何なんだこの状態は、脳を高速回転させても打開策が見つからない。ほぼ機能停止している私とは裏腹に穂積くんは一歩二歩とどんどん距離を詰めて、壁に身を預ける私の顔の両横に手を置いて更に通行を阻む。
・・・こ、これあれですよね、乙女ゲーイラストや少女漫画で御用達の「壁ドン」ってやつだよね。壁際にヒロインを追い詰めて、ドンっと腕をついて腕と壁で挟んで愛を囁いたりするあれですよ、私がヒロインじゃないって話はまあ、置いといて。
ちっともときめけないのはどういうことなの!?
寧ろ恐怖で身が竦んできたよ?あ、これが吊り橋効果かってそんな訳ないよ!何だかもう頭がぐちゃぐちゃだ。恐る恐る彼の方を見上げると、もう一度にこりと笑った・・・いや、違うこれは
「男侍らせていい御身分ですね」
彼は顔を歪ませて、まるでこちらの本心を見透かすように
―――嗤った。
* * * * *
「さすがの私も泣くかと思いました」
場面を京歌と二人きりの女子トイレに戻して、かたかたと震える。今思い返しても、恐ろしい。腹黒で壁ドンとか、U木様かよ!とツッコむ気力も無い。
「こいつはマジもん来たな、その後どうなったんだ」
その直後火にかけていたやかんの水が沸騰するや否や「あ、沸きましたね」と彼は慣れた手付きでちゃかちゃかとティーポットに注ぐと「熱いから俺持ちますね」と爽やかスマイルで給湯室を後にしましたよ。あの時ホッとして膝をつくような乙女スキルを発動しなかった自分に拍手。
「ね、ねぇ、聞いておきたいんだけど・・・私って傍から見たらすごいビッチなの?」
忌憚のない意見をどうぞと京歌に促す、確かに妹見守り隊として暗躍していた頃は当たり障りない限りで出来るだけ仲良くなろうとしていたけれど・・・。
「いや、まあ共学校だし、そう目くじら立てるほどの事じゃないだろ」
「だ、だよね」
「声をかける相手があからさまに美形ばっかりって点を除けば」
「上げて落とす!」
本当にまわりが見えていなかった自分が恥ずかしいやら悲しいやら。
あまり長居しても不振なので実質トイレに籠ってたのは十分弱、恐る恐る生徒会室へ戻ると中にいたのは宝ちゃん一人だった。
「ただ今戻りました、吉居さん他の方は?」
「お帰りなさい入れ違いになっちゃったんですね、会長と副会長はさっき職員室に、穂積くんは帰りましたよ」
よ、よかった。
しかしながら安堵も、つかの間。
「そうだ、穂積くんから常葉先輩に伝言があるんです
『今日は用があるので失礼します、蒸しパンご馳走様でした
これから よろしく お願いします』 とのことです」
何故だろう、宝ちゃんがさらりと実直に伝えてくれるその言葉に、当人が隠した悪意を感じるのは・・・。
また風邪をぶり返したような頭痛と眩暈に、適当に言い訳をつけてふらふらと生徒会室を後にした。キャラクターに関する抗議問い合わせは何処のメーカーにすればいいんでしょうか。
っていやいや、ここは現実ですよと自分でツッコんでまた自分が落ち込む帰り道。
前途多難・・・。
書いてる作者は割と楽しかったんですが読者様には
主人公と同じく引かれてそうで不安です
メイン攻略対象の会長・蔵王・最上・水月・十理が割と消極的なので、これから真尋でかき回して行きたいと思いますw
評価、感想、ブクマ、有難うございます。




