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辺境の村の英雄、四十二歳にして初めて村を出る  作者: 岡本剛也
第3章

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第246話 嫌な空気


 ギルド長室内は微妙な空気が流れており、スペンサーからの疑うような視線があまりにも痛い。

 ギルド長も焦っているようで、珍しく動揺しているように見える。


「口を挟んで申し訳ないが、魔物の軍団の数はどれくらいなんだ?」

「……え? ………え、えーっと、答えていいんでしょうか?」


 明らかな部外者である俺からの質問に、返答していいか迷っているギルド職員。

 俺たちの前で大声で報告をしたわけだし、今さら何を躊躇っているんだと思ってしまうが、組織としては重要なことなんだろう。


「…………答えてあげてくれ。この二人には隠さなくていい」

「分かりました。魔物の数は数百前後。急に姿を現したとのことで、どこかに拠点があったのではないかという報告も受けています」


 数百前後の魔物の群れ――か。

 俺たちがウィシュル王国にやってきてから数時間も経っていないわけで、国境を通ったときは魔物の群れの反応はなかった。


 つまり考えられるのは、国境側からの侵攻ではなく、職員の報告の通り、ウィシュル王国のどこかに拠点が作られている可能性が高い。

 俺が見落とした可能性もあるにはあるが。


「先に話しておくが、国境を通ってきたばかりだが、魔物の群れの反応は一切なかったぞ。もし国境側から侵攻されているのであれば、ワープゲートか何かの瞬間移動できる仕組みがないとあり得ない」


 とはいったものの、ワープゲートが仮に存在したとしても、常識的に考えたらワープしてきた可能性はあり得ないと言い切れるレベルの現象。

 数人を近場までワープさせるだけでも膨大な魔力を必要とするのに、魔物を数百体。


 それも遠距離ワープなんて考えられないし、そんな芸当ができるのであれば、こんな回りくどい手を使う必要がないからな。

 魔王の領土からフリンブルを燃やし尽くす方が、よっぽど簡単に行うことができる。


「どこまで信じるかは考えたいところだがァ、ひとまず信じさせてもらう。――今すぐ、さらに詳しい情報を冒険者から聞いてきてくれ。こちらで集められるだけの戦力は掻き集めておく」

「分かりました! 失礼いたします!」


 ギルド職員は深々と頭を下げてから、勢いよく部屋から飛び出していった。

 気まずい空気が流れたままであり、そんな空気の中で第一声を上げたのはギルド長だった。


「スペンサー、本当にすまない。約束してから即こんなことになるとは思っていなかった」

「いや、謝らなくていいぜ。報告を受けたときはハメられたと思ったが、冷静に考えればこのタイミングで襲撃させる必要がねぇからなァ。どちらかといえば、ハメられた側にしか思えないタイミングだ」

「その考えを持ってくれていて良かった。このタイミングで国同士で争うのは、よっぽど不毛だからな」

「信じてくれてありがとう! 俺たちは断じて敵ではない」


 スペンサーが冷静でいてくれたのは良かった。

 人によってはスパイを疑われ、追放されていてもおかしくなかった。


「それで、急な話で申し訳ねぇんだが、二人にも手伝ってはもらえねぇか? どれくらいまで迫っているかまだ分からねぇが、距離によっては人を集める時間がねぇ」

「もちろんやらせてもらう。契約を交わしたわけだしな。とはいえ戦うのは俺ではなく、グレアムさんになってしまうが……グレアムさん、任せても大丈夫ですか?」

「もちろん。俺の力が助けになるなら協力させてもらう」


 信じてもらったからには、助けない道理はない。

 もちろん、信じてもらえていなかったとしても、手助けするつもりではあったがな。


「スペンサー、良かったな! グレアムさんがいれば百人力だぞ! とりあえずこちらもすぐに準備をするから、また後でここに戻ってくる」

「ああ、よろしく頼む。急な依頼で悪いな」

「困ったときはお互い様だ」


 険悪な雰囲気になりかけていたが、再び拳を合わせたギルド長とスペンサー。

 グルザルム側から魔物が攻め込んできたと聞いたときは焦ったが、俺たちがフリンブルにいるタイミングで攻めてきたのは幸運だったと思う。


 とりあえず一刻を争うため、ギルド長室を後にした俺たちは、準備を行うため中心街へ向かうことにした。

 俺は特に必要なものはないものの、気になったものがあれば買っておこう。


「いやぁ……本気で焦ったわ。タイミングがとんでもなさすぎるだろ」

「俺ですら冷や汗をかいたからな。うまく収まってくれて良かった」

「本当にスペンサーには感謝だ。あとはグレアムさんの力にかかっている。毎度ながら、酷な役割を担わせて申し訳ない」


 人がいっぱいいる中、急に深々と頭を下げてきたギルド長。

 そもそも事の発端は俺が招いたことだし、ギルド長が謝るのはあまりに筋違い。


「いや、謝る必要はないぞ。俺が招いたことだし、ギルド長には付き合ってもらっている状態だからな」

「そうでもあるが、ビオダスダールのギルド長としては頭が上がらない。スペンサーのためにも救ってあげてほしい」

「ギルド長は本当に優しいな。任せてくれ。全力で叩き潰させてもらう」


 ギルド長のためにも、ギルド長の友人のスペンサーのためにも、俺の尻拭いのためにも、必ず魔物は倒す。

 そう覚悟を決め、俺たちは急いで買い出しを行ったのだった。




ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

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