第230話 実感
フロアボスとの初めての戦闘を終え、未だに実感が湧いていない様子のグリー。
もっと大喜びすると思っていたが、意外と冷静にしている。
「グリー、お疲れ。完勝だったな」
「おめでとうございます。最初は緊張しているように見えましたが、余裕勝ちでしたね」
「私から言わせたらまだまだだけど、初戦って考えたら上出来! よくやったね!」
「……あ、ありがとう。なんか実感なかったけど、嬉しい……かも」
俺たちに褒められたことで、ようやく実感が湧いてきたようでニヤニヤし始めた。
手も震え始めたけど、これは武者震いに近いものだと思う。
「意外に飄々としてるって思ってたけど、実感がなかっただけなんだ! 感想としてはどうなの? 怖かった?」
「最初は怖かったけど、楽しかったって気持ちの方が大きいかも。あと、ちゃんと戦えて嬉しい」
「ふふ、その気持ちよく分かります。練習でやっていた通りの動きが実戦で活きると嬉しいですよね」
「うん。なんか繋がる感じがあった」
震えている手をにぎにぎさせながら、グリーは確かな手応えを感じているようだ。
連れていくか迷った部分はあったけど、ダンジョン攻略を経験させて良かったな。
まぁ、この話を聞いたリアとアンからは猛反発を食らいそうだけど。
「これ以上の感想は戻ってからにするとして、ドロップアイテムを拾って戻るとしよう。グリーが倒したフロアボスだし、グリーが拾ってこい。今回のは記念で持っていてもいいぞ」
「持っていていいの? 持っておくことにする!」
グリーは軽くジャンプして喜んでから、急いでドロップアイテムの回収に向かった。
今回はレアドロップではなく、通常ドロップの“群青水晶”。
価値としては高くないアイテムだが、グリーは何よりも大事そうに懐へしまった。
ジーニアとアオイは、そんな光景を微笑ましく眺めている。
そしてドロップアイテムの回収を終えたところで、俺たちはワープゲートを使用してダンジョンから帰還。
グリーが中心に攻略したとはいえ、十階層までの攻略だったため、時刻はまだお昼すぎくらい。
「もう長いこと潜っていると思ってたけど、まだ明るいんだ」
「グリーは初めての攻略ですし、ダンジョン内は暗いですもんね。時間の感覚がおかしくなっているんだと思います」
「何だか眠そうだもん! もう宿に行ったら即寝れるでしょ?」
「うん。苦戦はしていなかったと思うけど、ダンジョンを出た瞬間に疲れがドッときた」
「緊張で体が強張っていたんだろうな。すぐに風呂に入って寝た方がいい」
俺たちはグリーを宿まで送り届け、早めにゆっくりするように言い伝えた。
本当は初めての攻略達成を祝おうと思っていたんだが、グリーのとろんとした目を見たら、祝勝会なんてやってられないのは明白。
ということで、今日はまだ時間も余っているし別のことをやる。
まぁやれることはダンジョン攻略か、手配書の魔物狩りだけだがな。
「これから暇になったし、ダンジョン攻略か手配書の魔物を狩りに行こうと思うんだが来るか?」
「もちろん! グリーの後ろで見ていただけだし、楽しそうに攻略しているのを見て、ウズウズしてたから!」
「私もついていきます。ダンジョンは散々攻略したので、希望は手配書の魔物ですね」
「なら、手配書の魔物を狩りに行くとしようか」
ジーニアの希望で、手配書の魔物狩りに決まった。
三人で向かう際の標的は既に決めており、その中でも今回はダンジョン街から一番近い場所にいる魔物を狩りに向かう。
軽く装備を整えてから、俺たちはすぐに出発。
そして歩くこと約二時間。
山の麓の岩場にて、手配書に書かれている魔物を発見した。
「見えた。あの魔物が今回の標的だな」
「えっ!? どこ!? 全然分からないんだけど!」
「……私も分かりません。どこにいるんでしょうか?」
「右に大きな岩があるだろ? その大きな岩の更に右から二番目の岩。あれが今回の標的の魔物だ」
「えっ!? 今回って岩と戦うの?」
「そんなわけないだろ。岩に擬態している魔物だ。ロックトータスと言って、普段から岩に擬態している魔物らしい」
二人は未だに魔物であることを信じられないようで、何度も確認をしている。
実際ただの岩にしか見えないし、性質もほぼ岩と同じだと思う。
「擬態しているような魔物なのに、手配書になっているぐらい危険なんですか?」
「擬態はしているが、肉食で獰猛な魔物らしい。動きが遅いから岩に擬態して、人間だろうが近づいた生物を食い殺しているって書いてある」
「こっわ! 私気づけなかったし、食い殺されてたと思う!」
「私もです。あの岩が凶暴な魔物なんですね」
動きが遅いからこそ進化した姿なのだろう。
甲羅は見ての通り固いし、甲羅の中には鋭い牙を持った本体がいる。
☆は2だが、動きが遅いための評価であり、単純な強さはかなりのものなはず。
今回もジーニアとアオイに戦ってもらう予定だが、相性的にはよくないだろうし、十分に気を付けて戦ってもらいたい。
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