第228話 駆け出しの冒険者
ここまで宿で留守番をし続けていたグリーと一緒に、ダンジョンへやってきた。
グリーにしては珍しく、今日まで大人しくしていたからな。
勝手についてきたことを本気で後悔しているようだったし、結局テンションも低いままだった。
だからこそ、ダンジョン攻略で気分を盛り上げてほしいところ。
そもそもグリーが冒険者登録できるのか不安だったが、登録はあっさり完了。
その流れのまま、ダンジョンへとやってきた。
「ここがダンジョン? すっごい……!」
「中はもっと凄いよ! ワープだってできるんだから!」
「ワープ!? 今から俺もできるの?」
「当たり前じゃん! 気づいたらビュンだよ!」
「いや、まだできないだろ。最低でも十階層までは攻略しないといけない」
「まだできないんだ……」
アオイが期待させるようなことを言ったため、露骨にテンションが下がったグリー。
せっかくダンジョンを見て気持ちが高まっていたのに、本当に余計なことを言ってくれた。
「ワープはできませんが、一階層から魔物は出てきますよ。グリー君は魔物を倒したことはあるんですか?」
「ううん、まだない。ただ、グレアムが戦っているところなら見たことある」
「なら、まずは魔物と戦ってみましょう。センスがありますし、一階層に出現する魔物ならきっと倒せます」
ジーニアの言葉に、グリーの表情が明るくなった。
ただ、すぐに俺のことを思い出したのか、罰が悪そうな顔でこちらを窺っている。
「一階層の魔物なら倒せるだろうな。アオイとジーニアにサポートしてもらいながら、戦ってみるといい」
「えっ? 俺が戦っていいの!? みんなに迷惑をかけたのに、俺だけいい思い出を作っていいのかな?」
「グリーはちゃんと反省しているようだしな。もう二度と無断でついてくるような真似をしないと約束できるなら、魔物と戦ってもかまわない」
「もう絶対にしない! 仮に魔物と戦えなくても、絶対にしないと決めていたし!」
「なら、戦ってみるといい」
「やったー!」
年相応に跳びはねて喜ぶグリー。
荷物に紛れ込んでまでついてきたくらいだし、本当にダンジョン攻略がしたかったんだろうな。
そんなグリーを見て微笑ましい気持ちになりつつ、早速ダンジョンの中へ入った。
入るまではワクワクしていたグリーだったが、足を踏み入れた瞬間、体も表情も強ばっている。
ダンジョン特有の雰囲気に加え、これから初めて魔物と戦うという緊張が大きいのだろう。
そつなく戦えてもいいし、大敗してもそれはそれで貴重な経験になる。
「おっ、グリー! もう魔物が見えたよ! あれはゴブリンかな?」
「ご、ゴブリン……。聞いたことのある魔物」
遠くに見えているのは、ガリガリなのに腹だけぽっこり出た緑色の魔物。
多種存在するゴブリンの中でも最弱であり、魔物全体を見ても最弱といっていい通常種ゴブリンだ。
普段通りなら、グリーでも片手で捻り潰せる相手。
だが今回はガチガチに緊張しているし、しかも初めて自分を殺しにくる敵だ。
ゴブリン対グリーの一戦は、なかなか見ものになりそうだな。
「準備できたら言ってね! 小石をぶつけて、こっちの存在に気づかせるから!」
「グリー君、リラックスしてください。ゴブリンは非力ですし動きも遅い。体も小さいのでリーチも短く、武器はせいぜい木の棒。全く怖い相手じゃありません」
「……ふぅー。ジーニアさん、ありがとう。気持ちの準備ができた」
「よーし! それじゃあ、初めての魔物との戦闘いってみよう!」
ノリノリのアオイはそう宣言すると、少し離れたゴブリンに小石をぶつけた。
小石を当てられたゴブリンは、こちらに気づき走って襲いかかってくる。
一直線に迫り、手に持った木の棒で殴りかかる。
それしか考えていないのが丸わかりの動きで、戦う前から勝利を確信していたのだが……。
「や、やばい! く、くる!」
「来るけど遅いから! 倒せるって!」
「何かあっても助けますから、落ち着いてください!」
迫ってきた瞬間、再び体が硬直するグリー。二人は必死に声をかけている。
だが、その声すらプレッシャーになり、グリーの心は逃げに傾き始めていた。
全力で逃げ出したいけれど、状況的に逃げられない。もう戦闘どころではない。
これは、俺からもアドバイスしてやるべきだな。
「グリー。今は何も考えず、ゴブリンの攻撃を受けることだけ考えろ。いいか、攻撃を受けるんだ」
「攻撃を受けたら……し、死んじゃう!」
「俺を信じて攻撃を受けろ!」
強く伝えたことで覚悟が決まったのか、グリーは自ら攻撃する意思を捨て、ゴブリンの攻撃を受けることだけに集中し始めた。
考えることが多いからパニックになる。なら、一つのことだけに絞れば自然と落ち着く。
攻撃を受けるだけなら、誰にでもできることだからな。
「えっ! 本当に攻撃を食らっちゃうけどいいんだよね!?」
「ああ、大丈夫だ。多少は痛いかもしれないが、所詮ゴブリンの攻撃だからな」
頭を何度も殴られれば別だが、一発くらいなら怪我すらしない。
実際、指示通り攻撃を受けたグリーはピンピンしていた。
「どうだ? 攻撃を受けて死にそうか?」
「ううん! グレアムの攻撃を剣で受けてるときの方が痛い!」
「だろ? いくらでも攻撃を受けていい。ゴブリンの攻撃なんか気にせず、自由に戦え」
「分かった!」
そう言ったものの、そこからグリーは一発も攻撃を受けることなく、 さっきまでの緊張ぶりが嘘のようにあっさりとゴブリンを倒してみせた。
色々とあぶなかっしい部分はあったが、グリーは冒険者としての第一歩をしっかりと踏み出したのだった。
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