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辺境の村の英雄、四十二歳にして初めて村を出る  作者: 岡本剛也
第3章

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第218話 仕事量


 トレイシーたちが新しくこの場の一員となってから、あっという間に一週間が経過した。

 早く慣れてもらうためにいろいろと手を尽くしたこともあり、この一週間でかなり馴染んでくれたように思う。


 この人数分の食事を用意するのは簡単ではないため、料理が得意なピーターとマルには食事の準備を、トレイシーとヘイデンには掃除の手伝いをお願いしている。

 人が増えたことで手間は増えているものの、みんながしっかりと手伝ってくれているおかげで、一人あたりの負担はかなり軽減された。


 これまではトリシアとモードに頼りきりだったため、彼女たちの負担が減ったのは本当に良かった。

 今回は年齢の高い子どもたちを引き受けたため、結果として負担が軽くなったが、もし幼い子どもを引き受けていたら、逆に負担は一気に増えていただろう。


 このあたりのバランスは、今後もしっかり見極めていかないといけないな。

 そんなことを考えながら、俺が遅めの夕食を取っていると、思いつめた表情をしたトリシアとモードがやってきた。


「グレアムさん。お食事の後で、少しだけお時間をいただけますか?」

「もちろん大丈夫だ。というか、今すぐでも構わないぞ」


 ギルド長との話し合いで少し帰りが遅くなり、一人で夕食を取ることになってしまったからな。

 黙々と食べるのも味気ないし、トリシアとモードがよければ、食事をしながら話を聞きたい。


「このタイミングでもご迷惑ではありませんか?」

「まったく問題ない。むしろ暇なくらいだったし、今聞かせてくれ」


 というわけで、二人に向かいの席に座ってもらい、話を聞くことにした。

 なんとなく思いつめた様子だったから、トレイシーたちとうまくいっていないのか……と考えていたが――。


「それで、話というのは何だ? トレイシーたちとうまくいっていないのか?」

「違います! ……その逆で、仕事量が減ってしまって、これでいいのかと本気で悩んでいるんです」

「……ん? 仕事量が減って悩んでいるのか?」

「はい。真剣に悩んでいます。グレアム様には命を助けていただいたので、もっと恩返ししないといけないって思っているんです」


 トリシアもモードも真剣な表情で、本気で悩んでいる様子だ。

 普通なら楽になるのは喜ばしいことのはずだが、二人はその楽になったことで悩んでいるのか。


「恩を感じてくれるのは嬉しいが、もっと気楽に考えてもらって構わないんだぞ。休日も何かと仕事を見つけて動いてくれているみたいだが、俺としては、二人には普通の生活を送ってほしいと思っている」

「それはできません。今の環境にいるだけでも、私たちは幸せすぎるくらいです。できることがある限り、私とモード、それからリアが大きくなったら、死ぬまで尽くさせていただきます」

「トリシアの言う通り。それが私たちの幸せだから」


 俺のことを慕ってくれているとは思っていたが、まさかここまで深い忠義を抱いていたとは……。

 ただ、俺は三人に幸せになってほしくて、奴隷から解放したんだ。

 俺のもとで尽くすことだけで人生を終えてしまったら、それは本当の幸せとは言えないと思っている。


「気持ちはありがたいが、俺はトリシア、モード、リアの三人にも普通の幸せを送ってほしい。それが俺の願いだ。だから、休めるときはしっかり休んでほしいし、休日にはどこかに遊びに出かけてほしい。……ところで、給料はちゃんと使っているのか?」


 俺がそう尋ねると、トリシアとモードはバツが悪そうに目を逸らした。

 まぁ、買い物以外で家の外に出る様子もなかったし、一切手をつけずに貯めているのだろう。


「……お給料なんて、いただける立場ではありませんので、一切手をつけていません」

「私も。同じく、貯めておいて、いつかグレアム様に返すつもり」

「それじゃあ給料の意味がないだろ。いろいろ悩んでくれているのはありがたいが、まずは普通に遊ぶことから始めよう。次の休日は二人とも同じ日にするから、一日かけて遊んできてくれ。それが俺からのお願いだ」

「一日遊ぶなんて……絶対に無理です」

「私も……遊べない」

「さっき、俺の言うことなら何でも聞くと言ったよな? 俺の望みは、二人に普通の幸せを手にしてほしいということだ。そのための第一歩として、まずは一日、思いきり遊んできてくれ」


 俺がそう言うと、苦悶の表情を浮かべながらも、トリシアとモードはゆっくりと頷いた。

 遊んできてと伝えて、こんな表情をされるとは思わなかったが、それだけ彼女たちにとって過去の経験が重くのしかかっているということなのだろう。


「わかってくれたならよかった。次の“命令”も考えておくから、まずは遊ぶことを実行してくれ」

「……グレアム様。本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

「私もです。グレアム様の願いが“幸せになること”なら、それを目指します。でも、命をかけてでも尽くすつもりです」

「そんなに気にしなくていい。俺が救ったんじゃなくて、二人のこれまでの環境が異常だっただけだ。俺はただ、二人が本来送るべき人生に戻しているだけさ」


 当たり前のことを、当たり前に伝えているだけなのに、二人の目には涙があふれていた。

 暇になることすら怖いと思ってしまう——


 そんな心境にならざるを得なかった二人を、改めて本当に救いたい。

 そして、彼女たちをこんな思考に追い込んだ人間を、やっぱり許せないと改めて思う。


 とりあえず……次の二人の休日には、アオイとジーニアにも同行してもらおう。

 きっと喜んでエスコートしてくれるだろうし、トリシアとモードも少しずつ息の抜き方を学んでくれるはずだ。



ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

書籍版の第2巻が7/25に発売しております!!!

Web版をご愛読くださっている皆さまにも楽しんでいただけるよう、加筆修正を加えたうえでの刊行となっております。

ぜひお手に取っていただけますと幸いです!

引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします!!

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