第174話 催眠魔法
ぼーっとしたのを見て、俺は捕らえた人型の魔物に更なる催眠魔法を唱えた。
目は開いているのだが瞳に光がないため、完全に気を失っているのが分かる。
「俺の質問に答えてくれ。分かったか?」
「……はい」
数分前まで絶対に口を割らないと言っていた者と同一人物とは思えないほど、淡々と返事をしてくれた。
後はこの人型の魔物から情報を聞き出すだけの作業となる。
「まずお前の名前はなんだ? 名前を持っているなら教えてくれ」
「俺はクーガー」
「クーガーか。種族名はなんだ?」
「鬼人族」
この魔物は鬼人族だったのか。
ビオダスダール近辺でも戦った、レッドオーガの上位種。
種族名に『オーガ』がついている間は、強くなるにつれてとにかく体が大きくなるのだが、鬼人族に進化を遂げるタイミングでシャープになると聞いたことがあったが……。
クーガーを見る限りでは、その情報は正しかったと言える。
「なるほど。魔王の領土にいる鬼人族はお前だけか?」
「違う。俺を含めて五人」
「五人もいるのか。リーダーはお前か?」
「俺達のリーダーは今でもラセツ様だ」
「ラセツ……様? そのラセツとやらは、鬼人族の中でも格が違うのか?」
「ラセツ様は鬼人族じゃない。鬼神だ」
鬼神。聞いたことのない種族名だな。
名前からしても、確実に鬼人族よりも上の種族なのは確実だし、そんな魔物が控えているのだとしたら、まだまだ驚異でしかない。
「そのラセツとやらはどこにいるんだ?」
「もうこの世にはいない。この間の人間との戦いで命を落とした」
クーガーのその言葉を聞き、俺はナギとランと顔を見合わせる。
そのラセツとやらが命を落としたという戦いは、俺が腕を失くしたフーロ村での戦いのことだろう。
クーガー達のリーダーだったラセツを殺したのは、俺であることに気づいたことで少し気まずくなったが、そもそも攻めてきたのは魔王軍。
悪いのはどう考えても魔王軍のため、気まずいと思うことを止めた。
「それは災難だったな。それで、クーガーはここで何をしていんだ?」
「見張りと視察。人間が攻めてこないかどうかを確認しに来ていた」
「攻め込む算段を立てていた――わけではないってことか」
「今の魔王軍にその戦力はない。今は他方から魔物を集め、戦力を溜め込んでいるって話をよく聞く」
フーロ村のみんなが平和だと感じていたのは、気のせいではなかったということか。
あの戦いに、魔王軍が全戦力を投入していたことが分かったことだけでも、こうして無理やり情報を聞き出した価値があった。
「その他の魔王軍、もしくは魔王に関する情報は持っているか?」
「いいや、知らない。雑な命令が来るだけで、俺達は中枢の人間じゃないからな」
「魔物に指示を出していたから幹部クラスかと思っていたが、クーガーは重要なポジションにいないのか」
「あの魔物はオーガ種が飼い慣らしているハングという魔物。魔王軍からは月に一度ほど使いがやってきて、安否と異常がないかの確認が来るだけだ」
情報を聞き出したら殺すのが得策だと思っていたけど、中枢の人間じゃないなら記憶だけ消して帰す方がいいかもしれない。
感覚的に、クーガーは魔王軍に撒き餌として使われている節があるからな。
常に異常がないかの確認を行わせながら、クーガーの安否が確認できなくなった段階で人間が動いていると魔王軍は判断するだろう。
こっちとしても動いたことがバレるのは面倒くさい。
「色々と情報をくれて助かった。クーガー、お前は――『俺達とは出会っていなかった』『ハング達は魔物に襲われてやられた』」
「……はい」
追加で催眠をかけてから、俺は催眠魔法の発動を止めた。
催眠魔法が解かれた瞬間、クーガーは糸の切れた人形のように力なく地面に倒れた。
それから完全に気絶したクーガーを連れ去った場所まで運び直し、寝かせた状態で放置。
あとは催眠が効いていることを祈るだけだな。
本当は起きるところまで様子を見たいところだけど、これ以上は俺にできることがないため、その場を後にしてフーロ村に戻ることにした。
「もうここまでくれば安全だよね! ――すっごくドキドキした! 魔物を連れ去るって初めてだったし、グレアムがあんな魔法まで使えるの知らなかったもん!」
「私も。最初に言っておいてほしかった」
「俺も魔物に使ったのは初めてだったし、あそこまで上手くいくとは思わなかった。相手が直情的だったというのも大きいな」
「直情的? よくわかんないけど楽しかった!」
簡単に説明するならば、アオイやランが直情的な性格。
逆にジーニアやナギは理性的な性格といえば、分かりやすいと思う。
そして、催眠魔法は直情的な性格の相手の方がかかりやすい。
「あれだけ上手く情報を引き出せるなら、もっと前からやればよかったのに」
「実際にやってみないと分からない部分が多いからな。それに催眠魔法は本当に発動条件が厳しい。催眠のかかりやすさに関しても、相手の性格次第って感じだし、以前のようなギリギリの状態の時には決して試せるものじゃなかった」
今回は上手く行き過ぎた感じがあるし、目覚めたクーガーがどうなるのかはまだ予想もつかない。
記憶操作の催眠が効いておらず、魔王軍に俺たちのことが伝わってしまう可能性だって十分にあるわけだからな。
「ふーん、そんな危うい魔法なんだ」
「私的にはもっと調査したいけどなぁ!」
「こっちから下手に動く必要はない。魔王軍もかなりギリギリの状態であることは聞き出せたからな」
「ね! グレアムが壊滅させたのが大きかったんでしょ! 特にあのドラゴンは本当にヤバすぎたもん!」
「あのドラゴンが魔王軍の中で一番強い魔物って分かったのも安心した。夢に見る回数もきっと減る」
二人には言わないけど、俺もエンシェントドラゴンに関しては俺もたまに夢を見る。
火事場の馬鹿力を出せていなかったら俺は確実に死んでいたし、うなされるときの夢は大半がエンシェントドラゴンに負ける夢。
あれ以上の魔物がいないと分かったのは、俺にとっても非常に良かった。
とにかく……魔王軍が変な動きをしているように見えたのは、ギリギリの状態だからというのが分かっただけで大きな収穫だろう。
改めて得た情報の精査を三人で行いながら、俺たちはフーロ村へと戻ったのだった。
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