作戦会議
エリーゼになったエリック視点
僕は己の心の狭さを恥じた。
そして、アキラの志と器の大きさを目の当たりにした。
そうだよ。
エリック、つまり過去の自分自身と決着をつけるいい機会じゃないか。
しかも、オフィシャルの場のバトルなので誰も文句を付けない。
アキラのことを見下して、こんな入れ替わりをしかけてきたあいつを見返してやるチャンスじゃないか。
あいつが思ってるよりもアキラは優秀であること。
そして、どんな境遇でも、努力と知恵があれば、こうして地の底からでも這い上がれること。
世を呪うだけが人生じゃないんだってこと。
いろいろとこの機会に見せつけてやる。
「アキラ?勝算はあるの?」
「実はない。だけど、あいつには、かつて、ショパンにやってやったように、一矢報いたい」
「わかった。私にも作戦がある。勝てるかどうかわからないけど、やってみよう」
グータッチをする。
体は男と女だが、恋人関係ではあるが、この瞬間だけは男の友情に似た感情が湧き出る。
数々の冒険を通して、戦友のような信頼関係が僕たちの間にはあった。
僕たちが、首席ペアに挑むという情報は、あっという間に学園内に駆け巡った。
「無謀すぎる」「悪い意味でアホ」というネガティブな意見から「男らしい」「勝てるかも」といったポジティブな意見まで多種多様な意見が頭上を飛び交った。
というか、みんな好き勝手言い過ぎ!
こっちも不安なんだから。
僕はアキラと一緒に作戦会議をするべく、学校の小会議室を借りることにした。
盗聴防止魔法などがかけられていて内緒の話をするにはもってこいだ。
「偉そうに言ってしまったけど、はっきり言って勝算はない」
アキラはあっけらかんと言い放つ。
「ははは」と笑うしかなかった。
「でもさ」
僕は続ける。
「実力差は確かにあるけど、勝ち目がゼロなわけじゃない」
「と、いうと?」
「相手の弱点を突いて自分たちに有利に進める。まあ、あらゆるゲームの基本ね」
僕はホワイトボードに全音符を2つ書き、それをタイでつなぐ。
「エリックは、おそらく、ロングトーンの練習をする習慣がない」
アキラは、きょとんとした顔つきになった。
「それ、どこ情報?まあ、それはいいや。なるほど?ということは、息が長く続かないと。これは魔法的な意味でいうと……そうか!」
アキラも気づいたようだ。
「魔法の効果持続時間が短く、遠距離攻撃の威力も弱まる。つまり、近接戦ではなく、遠距離戦、を挑めばいいってことか」
「そう。そして、エリックの相棒のクララがここで鍵を握ることになる」




