お菓子作りのキホン
エリーゼになったエリック視点
朝、太陽の光に照らされ目が覚める。
時計を見ると5時半。
ふと傍らを見ると、アキラのお姉さん、涼子さんが立っていた。
「何、ぼーっとしてるの。早く起きるんだよ」
そう言って、僕に見慣れぬ伸びる服、ジャージなるものを手渡した。
「それ、アキラの中学の時のだから、着て」
「なっ」
アキラの服だなんて言われると、何か変なことを意識してしまう。
「何、もたもたしてるの?返事は?」
「はいっ」
僕たちは河川敷をジョギングする。
「意外と走れるじゃない?普段から運動してる?」
「魔法のためには、ボイトレと基礎体力作りは欠かしていないので。長距離走は、肺活量、ロングトーンにもつながりますし」
「ふーん。見た目ほどは、苦労知らずのお嬢ちゃんじゃないってわけね」
家に帰ると、朝ごはんの配膳をし、終わると、食器洗い、洗濯をする」
「なにぼーっとしてるのしてるの?次は部屋のかたずけよ。日本の暦だとお正月だから、親戚がたくさんやってくるんだから。それが終わったら買い出し」
と、こんな具合に、音楽で夢の世界に旅立てつことのできた昨日とはうってかわって、涼子さんの命令口調で家事の手伝いをこなすことに。
涼子さんは僕の働きぶりをじっと見ていることがあり、その視線には厳しさと、どこか試しているような感じがあった。
あれよあれよと時は過ぎ夕方となった。
「ごめんねえ。エリーゼちゃん。涼子が無茶言ってるみたいで」と母親。
「いいんですよ。居候させてもらってるので」
「そうだ。一緒にお菓子を作らない?」
「お菓子?」
「日記を読んでたら、エリーゼちゃん、クッキーを作るのに失敗したって書いてあったから、一緒にチャレンジしてみようって思って。アキラにお菓子食べさせたいんでしょ?」
温かい申し出に思わずじーんとなる。
この国では2月14日はバレンタインデーと言って、女の子が好きな男の子にチョコーレートなるお菓子をプレゼントするのだとか。
主たる材料は、カカオ、ココアパウダー、砂糖。
ミラヴェニアにも探せば似たような素材はなくもないものだった。
作ってみて、アキラに食べてもらえたらうれしいな。
と考えてふと、自分が男であることに冷静になって恥ずかしくなる。
「エリーゼちゃん。分量はちゃんと、教えられた通りに入れなきゃだめよ。あと、最初から。変なオリジナリティを出さないこと。守破離といって、最初は型を守って基本を覚えてから、後からオリジナリティを出せばいいの」
守破離という言葉は初めて聞くが、同じような概念は知っている。
ベーシックに笑うものはベーシックに泣く。
アキラに魔法を教える上での基本方針だ。
徹底してベーシック魔法を固めてはじめて、応用魔法が花開く。
アキラのお母さんに対してシンパシーを感じた。




