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~九十一の巻~ 後悔と計略

 「先日も申しましたが、私には、まだ学びたき事、せねばならぬ事が山積しております。」


「故に、婚姻など其れらが落ち着いてからで良いと、真にそう思うておりました、あの日、貴女にお逢いする迄は。」


「あの日貴女と別れた後、多くの方とご挨拶させて戴いた筈なのですが、正直全く覚えておらぬのです。」


私の心は、ずっと貴女を捜しておりましたから・・・。


「はっ?」


「おかしいですよね?つい今し(がた)初めてお会いして、つい今し(がた)お別れしたばかりの方の事を・・・。」


然れど其れが事実でした。


「私は、貴女と離れて直ぐに後悔致しました。」


「他の姫君からお声掛け戴いても上の空で、いつの間にか私の視線は、貴女を捜して彷徨うておる始末。」


「斯様な事は、私には生まれて初めての経験でして、己が一体どうしてしまうたのか、情けない事にさっぱり解らなかったのです。」


其の時、左大臣殿が姫君をお連れになられて私の前にお出でになられたのです。



◇◇◇◇


 『斯様なところにおいででしたか大海皇子様、お捜し申し上げておりましたぞ。』


そうにこやかに近づいて参った親子は、私の前に来ると優雅に礼をとり、


『皇子様、以前より皇子様にお目通り願うておりました娘の志摩を、本日は連れて参りました。』


『ささっ、志摩、皇子様にご挨拶申し上げなさい。』


『大海皇子様、お初にお目に掛かります、左大臣家息女・志摩にござります。』


『本日はお目通り叶いまして、大変嬉しゅうござります、今日という日を志摩は、幼き日より心待ちに致しておりました。』


気付けば、いつの間にか、辺りに居った筈の大勢の他の参加者達は()()りになり、私達の居る其の一帯のみ誰も居なくなっておりました。


然れど、ちらちらと他の参加者達が、遠巻きに此方の様子を伺っておるのを感じました、まるで見世物の様に。


直ぐに計られたのだと解りました。


どおりでいつに無く父上が、何度も私に参加を促してこられた訳だと、其処で漸く思い至ったのです。


恐らく左大臣殿が裏で手を回されていらしたのでしょう。


然らば、そもそも本日の花見の宴自体が仕組まれたものだったのかと、合点がゆきました。


己の娘の為に其処迄する左大臣殿が、酷く愚かしく滑稽に思えました。


私は自然と湧き出てくる嘲笑を隠す事もせず、既に冷めきった目で、目の前の二人を改めて見据えておりました。


然し当のお二人は、其の様な私の刺す様に冷たい視線に気付きもせず、相変わらず作り笑いを浮かべておられましたが・・・。


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