~四十の巻~ 意識
『こら珠、どうした?』
『こら、暴れるな!』
『おい、珠、落ち着け!』
『落ち着けと申しておる!』
『うわっ!危ない!』
『きゃあ!』
(バシャ―ン!!!)
『『・・・』』
◇◇◇◇
『はぁ~。』
セイは何も申さず大きく溜め息を一つ吐くと、川の中からゆっくりと立ち上がった。
私は居たたまれず、
『セ、セイが急かすから!』
と尻餅をついたまま其の場でそっぽを向いておると、
『お前の様にのんびりしておったら、釣れる魚など一匹も居らぬわ。』
魚とて必死なのだから。
『ほら、早く立たぬか。』
『ずぶ濡れではないか、早く立たぬと衣がどんどん染みてくるぞ。』
そう申して手を差し出してくれたセイに、素直になる事が出来ず、
『己で立てまする!』
と顔を背けて起き上がると、
『はぁ~。』
と、セイは更に大きな溜め息を吐くと、徐に私を担ぎ上げた。
『きゃあ!』
『な、何す、降ろして!』
私はセイのお腹の辺りで、足をばたつかせて必死に暴れたが、
セイは、
『暴れると再び川に落ちる事になるが・・・。』
と、がっしり私を押さえつけて、濡れついでだ、と申して、川の浅瀬をずんずん歩き出した。
漸く途中で河原に上がると、今度は草木を掻き分け河原を進んで行く。
其の時、何故か私には枝も草も一切当たらぬ事に気付き、ちらりとセイを見上げると、セイが自らの腕で私を庇ってくれておるのが目に入った。
セイのさりげない優しさが身に染みて、涙が溢れてきて止まらぬ。
次第にしゃくり上げ出した私に、
『何故泣く?』
セイは静かに問いかけてきた。
『わ、解りませぬ。』
『涙が・・ひっく、勝手に溢れて・・ひっく、止まらぬだけ・・ひっく、ですから・・ひっく・・・。』
必死に言葉を紡いでそう答えると、
セイは何故か寂しそうに笑うて、
『そうか、又解らぬか・・・。』
珠はまだまだ子供だなぁ、と申して漸く私を降ろしてくれたのだった。




