~二十一の巻~ 再会
中々先に進めぬ己の小さな体がもどかしくて仕方ない。
初めて私は早く大きく成りたいと思うた。
森まで辿り着いた時には、もう我慢が出来なかった。
『先に参ります!』
そう申して突然駆け出した私に、
『『姫様!?』』
二人は仰天して、
『姫様!お待ちくださりませ!』
『姫様!お待ちください!』
と慌てて追い掛けて来ようとしたので、私は振り返って、
『ゆっくりで構いませぬ!』
と叫びながら、“神々の沐浴場”を目指して、足を縺れさせながらも必死に走った・・・。
あの日は短く感じられた距離が、今日はとてつもなく長く感じられる。
漸く大きい岩が遠くに見えてくると、シンと静まり返った林の中に、
カツーン、カツーン
という何かがぶつかり合う様な音が聞こえだした。
立ち止まって目を凝らして見てみると、河原で剣の稽古をしておる二人の男の方が目に入った。
(青馬様!)
其の途端、私の体は、青馬様目がけて勝手に走りだしておった・・・。
何処かに下に降りられるところは無いかと、もどかしく走りながら、人一人分だけ草が掻き分けられた、恐らく誰かが通った後を見付けると、其処から一目散に滑り降りる様にして河原に降り立った。
再び見ると、丁度剣を打ち終わったところで、二人共、肩を激しく上下に揺らして膝に手をついておった。
『青馬様~!』
其の瞬間私は、声を限りに叫んでおった。
私の声に気付かれた青馬様は、ゆっくり此方を振り向かれて、
『遅い!』
と一言申されたが、言葉とは裏腹に、私に向けられた其のお顔は、晴れやかな初夏の青空の如き爽やかな笑顔だった。
其の瞬間、私の中から周りの景色も音も全て消えた。
私の目に映っておるのは、青馬様の眩しい笑顔だけ。
(私の事を覚えていてくだされた・・・!)
其の事に私は胸がいっぱいになり、何故だか泣きそうだった。
すると突然胸の奧がきゅうんとなって、息苦しい様な、今迄に感じた事の無い不可思議な痛みを覚えた。
(この痛みは何?)
私は先程迄少しでも早く青馬様の元へ参りたかった筈なのに、急に其の場に縫い付けられた様に足が止まってしまうて、其処から一歩も前に進めなくなってしまうたのだった・・・。




