~二十の巻~ 河原へ
『何方かのお屋敷をご訪問なさるのではないのですか?』
風矢は、村の中心からどんどん外れへと歩いて行く私達に、怪訝な表情を見せた。
高熱を出してひと月も寝込んでおった風矢は、頬がこけ、ひと回り痩せてしまうた様だったが、少しずつ体を動かして体力回復を図っておった。
斯様な風矢を笹野は心配そうに見上げて、
『道に迷うた私達をお助けくだされた方が、あの森の中の河原にいらっしゃる筈なのです。』
『かなり歩く事になりまするが、お体に支障ござりませぬか?』
と尋ねた。
『私は大丈夫だが・・・。』
何か言いたげな風矢をよそに、私は心が逸って仕方なかった。
出来るなら駆け出したいくらいだったが、風矢の体調もあり我慢しておった。
出掛けに春野に、何かお礼をお持ちしたいと相談を致したところ、其れならば丁度良い物がござります、少々お待ちくださりませ、とにっこり笑うて、何処かに行ってしまうた。
暫くして戻うて来た春野は、屋敷の裏にある竹林で採ってきたばかりの立派な筍を抱えておった。
お持ち致します、という風矢の申し出を丁重に断り、かなり重い筍が入った麻袋を抱え、遠くの林だけを見据えて、私はただひたすら黙々と歩き続けた。




