~十四の巻~ 野苺の園
少年を綺麗と表現するのはどうかとも思うが、やはり其の少年は綺麗だった。
身に付けておるのは何の飾り気も無い平服だったが、其れが反って、其の少年の整った顔立ちを際立たせて見せておった。
鋭く私達を見据えた黒く大きな目、きゅっと結ばれた唇は少年の意志の強さを表しておるようだった。
其の少年の瞳が私を捉えると、何故か少しだけ表情が崩れたのが分かった。
其れはほんの一瞬の事だったが、何事にも動じる事など無さそうな黒く大きな目が更に見開かれ、形の良い唇は少し開いて、何かに驚いておる様に私には感じられた。
『・・・』
黙してしまわれた少年に、私が遠慮がちに、
『あの、何か・・・?』
と伺うと、
直ぐに表情を引き締めて、
『道に迷うたのか?』
と再びお尋ねになられたので、
『野苺を採りに行く途中で道に迷うてしまいまして・・・、其の上、帰る道も見失い、途方に暮れておりました。』
『この辺りに野苺の群生地があったと思うのですが、ご存知ありませぬか?』
私が思い切ってそうお尋ねしてみると、
『何だ、其れなら私も丁度今から行くところだ。』
『付いて参れ!』
其の様に申されて、其の少年はさっさと歩いて行かれてしまうたので、私達は慌てて後を追い掛けたのだった。
『随分横柄な人ですね!』
『し―っ!』
笹野が腹を立てておるが、私は何故か気にならなかった。
其の少年の自信に満ちた背中が、頼もしく思えたからだろうか・・・。
其れとも?
そうして暫く鬱蒼とした林の中を右に左に進んで行くと、突然開けた場所に出た。
其処は正に昨年風矢と私達が一緒に見付けた、一面に野苺が群生した、まるで神の国とは斯くの如しと思しき美しき場所だった・・・。




