表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレムコンプライアンス  作者: 日曜
一章 大氾濫
17/17

十七話

 当初、遊牧民の戦士団は、大狼の群れとの戦いを有利に進めた。

 短弓騎兵と呼ばれる、機動力の高い兵科で敵を牽制しつつ誘導し、狭隘地へと誘い込み、待ち伏せしていた長弓騎兵と呼ばれる、射程の長い兵科で側面から迎撃する。さらに、短弓騎兵たちもそのタイミングで反転し、攻勢にでる。

 大狼たちは、狩る側から一転、狩られる側へと立場を変える。後方から迫る仲間に押され、降り注ぐ矢の雨に混乱し、曲刀を片手に迎え撃つ短弓騎兵たちの猛攻に、為すすべもなく討ち取られていった。

 彼等大狼には、大狼の習性がある。例えば、仲間の損害を厭い、確実に狩れる獲物を狩ろうとする事。つまり、自分たちより大きな群れを襲わず、小勢に誘い出されやすい事。さらに、多勢に無勢の戦いに慣れていない事。

これを逆手に取った遊牧民たちの作戦は、大狼にとって致命的なまでに有効な策となった。逃げ惑う大狼には、襲いかかる遊牧民に反撃することもできず、刈り取られていった。

 いかに、魔物にしては知能の高い大狼でも、人間並みにものを考えられるわけではない。本能と習性のまま、遊牧民の戦士団の手の平で踊らされ、大狼たちは狼でありながら、あるいは狼らしく狼狽し、その頭数は目減りしていった。また、少数ながらもその作戦の思惑から逸脱しようとした大狼については、経験豊富な遊牧民の戦士が即座に討ち取り、支障を生じさせなかった。


 しかし、状況が変わったのはその後間もなく。


 倒した大狼が、千に上ろうといった頃である。大狼たちの動きが変わってきたのを、パテラスは鋭敏に感じ取った。

 短弓騎兵を追いかける大狼の群れが、作戦の思惑から外れるパターンが増えたのである。対応には経験豊富な戦士が必要とされるが、今の戦士団はひよっこの方が多いのである。自然と、歴戦の猛者たちに疲労が蓄積していく。そして、戦士以上に問題だったのが、馬の疲労だ。いまだ、目に見える害はなかったが、パテラスはそれを深刻に受け止めた。

 族長のパテラスは、即時撤退を命じた。これには当初、多くの反対が寄せられた。

 ここは平原であり、狭隘地はなかなかあるものではない。同じ作戦を別の場所で行うのは、困難だった。また、この戦場を放棄するという事は、上首尾に運んでいる戦況をゼロに戻し、仕切り直すという事に他ならない。せっかく優勢なのだから、このまま押し切ろうとする者が多数だったのである。

 しかし、パテラスは頑として撤退を指示した。族長の命令である。そして、戦場においては、族長の命令は絶対である。他の者は、その命令に従い、戦場からの離脱を始めた。

 パテラスは最初から、この大氾濫はおかしいと感じていた。だからこそ、大氾濫に対しゾル族の持てる戦力のほぼ全てをつぎ込み、撤退する民たちの護衛は、仙太郎に一任したのだ。その仙太郎の方にも、大氾濫クラスの魔物の群れがいた事は、完全にパテラスの想定外ではあったものの、そんな事を予想している方がどうかしている。

 ともあれ、最初から不安を持っていたからこそ、パテラスはその逸早く異変に気付き、結果として危機を脱する事ができたのである。


――――それは唐突に、撤退する短弓騎兵たちに襲いかかった。


 それがなんであるか、最初は誰もわからなかった。突然、黒い霧とでもいうような漆黒のもやが、撤退を始めた短弓騎兵たちの背後に現れたのである。

 先を見通せぬ闇の塊が、通常の霧と違うのは、その色だけではなかった。闇の靄は、短弓騎兵たちに向かって、草原を移動し始めたのである。闇の中からは、夥しい程の足音が響く。急速に、そして着実に短弓騎兵たちに、それは迫る。いかに戦士団といえど、その大半はひよっこの新兵たちだ。そのような正体不明の接近に動揺し、浮き足立つ。

 撤退する遊牧民たちは、一見一糸乱れぬ足並みで駆けているようにみえた。しかし新米の一騎が、手綱の操作を誤り、棹立ちになってしまう。高らかに嘶く馬と、それを絶望の表情で見る少年。一人と一頭は、数秒の後に闇に呑み込まれた。闇の中から一瞬聞こえた馬と人の悲鳴。しかしそれも、一瞬だけの事だった。その後は、まるで何事もなかったかのように、闇は短弓騎兵たちを追走した。


 一人の少年の命など、初めからなかったかのように。


 多くのひよっこたちは、熟練に時間を要する長弓騎兵ではなく、短弓騎兵に属している。だからこそ、彼等は仲間の命があっさりと失われた状況に、心胆を凍えさせる。

 冷たい汗が背を伝い、手綱を握る手が震える。落ち着け、落ち着けと、自らに言い聞かせるも、騒ぐ心は恐怖を訴える。

 馬との意思疎通に齟齬が生まれれば、先の者の二の舞だ。そう思えば思う程、手綱は重くなり、感触は固くなる。物心つく前から握っていたはずの手綱が、まるで今初めて握ったかのようだ。今まで自分は、どうやって馬に乗っていたのだろうか。

 混乱するひよっこたち。追う闇。

 先程までの優勢な戦況が、一変した。追う側から、追われる側へと。

新兵たちは思う。まるで、自分たちの作戦をそっくりそのまま返されたようではないか。

 だとすれば、この先は――――

 そんな絶望が、短弓騎兵のひよっこたちに蔓延しようとした、そのとき――――黒い靄へと矢が降り注ぎ、幾つかの悲鳴が鳴り響いた。

空を見上げる新兵たちの目には、天馬に跨った一族の中でも生え抜きの戦士たち——天馬騎兵が写った。


 天馬騎兵はその名の通り、翼を持つ天馬ペガサスを駆る兵科である。天馬ペガサスに乗れるのは、馬術に長けた遊牧民の中でも、特に優れた者だけだ。また、天馬ペガサスの頭数も少なく、少数精鋭の部隊である。その隊長は、族長であるパテラス本人であった。

 青い空を遊弋する天馬ペガサス。その数、約二十。全員が過去の、帝国・王国連合軍との戦争経験者であり、その戦で名を馳せた名将揃い。これが、ゾル族が持てる空中戦力のすべてであり、また最高戦力でもあった。

 ちなみに、航空戦力という点では、帝国や王国も遊牧民と大差がない。ゾル族を含む、平原の遊牧民三氏族が持つ天馬騎兵が約百騎であるのに対し、帝国は天馬騎士と竜騎士、合わせて百から百五十騎程度を保有しており、王国に至ってはさらに少ないと言われている。

 天馬ペガサスや下級竜といった幻獣は、それだけ希少な存在だった。むしろこの場合、遊牧民たちの持つ航空戦力の方が、過剰であるともいえる。


空を飛び、闇に射かける一族の精鋭に、恐怖に心折られかけていた新兵たちは勇気付けられ、多少の落ち着きを取り戻す。

 しかし、いかに歴戦の天馬騎兵であろうと、正体不明の靄に対して攻撃するという経験はなかった。闇に対して射かけても、最初の不意打ち以外ではあまり手応えがない。時折大狼らしき悲鳴は聞こえるものの、射かける矢は、その多くが外れている感触があった。この闇の靄の中には、多くの大狼が犇いている。その事はわかるものの、相手が見えないのでは、結局対処のしようがない。

 歴戦の戦士たちで結成されている天馬騎士でも、その闇には攻めあぐねる結果となった。

 だが、結果として、彼等の奮戦が功を奏し、闇の靄の進行速度は遅くなり、短弓騎兵たちは確実に、闇との距離を空けていく。逃走支援は、成功しつつあった。

 そこで――――業を煮やしたのか、単に他の手段がなかったのか、状況は変化した。


「な、なんだっ!?」


 唐突に、闇から突出してくる、大きな影。

 額に大きな宝石を持ち、そこから目、首、背を回り、再び首、目、額の宝石へと戻ってくる、白い環状の模様が特徴的な、一頭の黒い狼。その巨体は、伝説に伝え聞く朧月銀狼シルバームーンハティよりもさらに大きい。漆黒の体毛は艶やかに光を反射し、太陽の下で綺麗に輝いている。しかし、ギラギラと空を飛ぶ人馬を睨む金色の瞳は、敵愾心と食欲に満たされていた。成人男性の背丈程もある、大きな牙を剥いて迫る巨大な黒狼。

 空中に飛び出した黒狼に、天馬騎士たちは咄嗟に対処し矢を放った。王国騎士が目にしたならば、惚れ惚れするような応戦も、しかし黒狼には通用しない。美しい体毛は、降り注ぐ矢の雨を一身に受けても、そのすべてを鋭い金属音で弾き飛ばした。

 巨大な黒狼は、一騎の天馬へと襲いかかる。開かれる口。まるで薄暗い洞穴の入り口のようなその口腔に、鋭く大きな歯がゾロリと並ぶ。

 対する戦士は勇敢だった。悲鳴を上げず、その口腔目がけて矢を放つ。硬い体毛よりも、口内ならば攻撃も通りやすいという判断からだった。それは、概ねその通りだった。ただ、惜しむらくは、その口が開かれて閉じるまでに戦士が放てた矢は、たったの三矢。巨大な黒狼にとっては、魚の小骨が歯茎に刺さった程度の痛痒でしかなかった事だろう。

 ばきりという、人と天馬ペガサス骨の砕ける生々しい音が響くと、黒狼は重力に引かれ、大地へと戻っていった。闇の晴れたそこには、先程までの確認できなかった、幾頭もの大狼の姿。内二頭は、人と馬を咥えている。

 黒狼が着地すると、大狼たちは一斉に、その元へと馳せ参じる。咄嗟に矢を射かける天馬騎士だったが、大狼を守るように、黒狼は我が身を盾に矢を防ぐ。甲高い音共にバラバラと、虚しく矢が地面へと落ちる。多くの大狼が黒狼に守られて一塊になると、黒狼から染み出すように黒い靄が広がっていき、再び闇の靄が周囲を覆い隠した。

 これで再度、天馬騎士たちは闇雲に矢を射かけるしかなくなったのである。それもおそらくは、危険なものは黒狼が防いでしまうのだろう。また、どのタイミングで、再び黒狼が飛び出してくるのかが不明である。遊牧民たちは、圧倒的不利な状況へと追いやられた。

 パテラスは、迷わず撤退を指示した。それに意を唱える者は、いなかった。


 ●○●


「黒い大狼か……」


 呟く仙太郎に、合流を果たしたパテラスは頷く。


「ああ、そうだ。大狼つーより巨大狼だな、ありゃあ。俺たちぁ便宜上、日蝕黒狼ブラックエクリプススコルと呼ぶ事にした」

「スコル? ハティじゃないのか?」


 スコルは日中活動する為、その体毛は明るいのが普通だ。逆に、ハティは夜行性なので、暗い色が多い。この場合、体毛が黒いならスコルではなくハティになりそうなものだがと、仙太郎はパテラスに尋ねた。


「いや、ありゃあスコルだ。たしかに体毛こそ黒いが、その毛は僅かな月光、星明かりまで反射する。夜に紛れるつもりなんざ、はなからねえって色だった。なにより、闇を生みだすなんて能力は、夜にゃあほとんど必要ねえだろうが」

「それもそうか……」


 実際は、より隠密性を高めるという利点もあるだろうが、そんなものは体毛がより黒ければいいだけの話だ。わざわざ闇を生み出す必要性などない。日蝕黒狼ブラックエクリプススコルの闇を生み出す能力は、太陽の下でこそ真価を発揮するといっていい。


「それで、黒い靄の利点は、群れの規模を隠し、攻撃のタイミングを読ませない事、だったか?」

「ああ、それが一番厄介だな。副次的には、闇っつー正体不明の存在に追いかけ回される事で、こっちの士気を削ってくる。逃げ延びた直後の、小僧どもの狼狽ぶりつったらなかったぜ」

「ふーん。こっちのタルトは、結構頑張ってたぞ?」

「まぁ、そっちはそっちでいい経験ができたんだろうな。こっちはこっちで、ガキどもに挫折の苦渋を味あわせるっつー、いい経験ができたってこった」

「厳しいねぇ」


 遊牧民の教育方針に、仙太郎は肩を竦める。そこでパテラスは、それまでのどこかおどけるような顔から、戦場の埃に汚れた顔を、真剣な面持ちに変えて尋ねた。


「で? もう本題に移ってもいいのか?」

「別に、俺は最初から本題でもよかったんだが?」

「……本当に、いいのか?」

「ああ」


 深刻そうな声音のパテラス。しかし、その腹にズシリと響く声に答える仙太郎は、事も無げに頷いた。


「…………」


 押し黙り、逡巡するパテラス。対する仙太郎は、はたから見ればなにも考えていないような、抜けた表情だ。だが、仙太郎は考えなしに提案したわけではない。

 仙太郎の持つ戦闘力は、一軍にも匹敵し得る。攻撃という一面においては、戦士団を上回ると言っても過言ではない。しかし――当然欠点だってあるのだ。


「悩んでたって仕方ねえだろ。俺に任せて、民を守れ。それが族長の仕事じゃねーのか?」


 そう言われれば、パテラスは頷かざるを得ない。たしかに、戦士団が守るのであれば、目的地までは比較的安全に到達できるだろう。おそらく、民にも戦士団にも、死者はでない。だがそれは、仙太郎があの日蝕黒狼ブラックエクリプススコルを倒せればの話だ。

 もし仙太郎が敵に敗れ、大氾濫の群れが遊牧民たちを追跡してくれば、もはや乾坤一擲の反撃を以って、伸るか反るかの総力戦以外に活路はない。まさに万事休す。


「たしかに、おめぇの力は、俺たち戦士団全員に匹敵するだろう……」


 そう言って一拍置いたパテラスは、渋面のまま続ける。


「だが、攻撃に反して、守りはてーしたもんじゃねーだろうが」

「…………」


 そう。パテラスの危惧は、まさしくそこにあった。

 仙太郎が優れているのは、瞬発力と持久力、そして、長年の素振りで鍛えられた腕力くらいのものだ。当然ながら、この世界に来る前の仙太郎の皮膚は人間のものであり、《レベル》という恩恵がもたらした能力も、十人並みの防御力に準拠したそれであった。

 つまり、今の仙太郎のレベルでは、ゲームでは《防御力》などと称される数値は、化け物基準に達していない。所謂、攻撃特化の紙防御なのである。

 仙太郎は攻撃において、この世界の人類の中では最高峰だろう。強く、速く、おまけに強力な魔法まで使える。だが、仙太郎を殺せる者が皆無かといえば、そうではない。それこそ、目の前のパテラスですら、仙太郎が無抵抗でさえあれば、彼を殺す事など造作もないのである。


「そっちの朧月銀狼シルバームーンハティがどうだったかは知らねえが、こっちの日蝕黒狼ブラックエクリプススコルは、群れでの戦いに慣れている。仲間を隠す闇と、身を挺してまで仲間を守る事を踏まえれば、日蝕黒狼ブラックエクリプススコルの群れの長としての資質はなかなかのもんだ。そんな日蝕黒狼ブラックエクリプススコルを頭として、絶対の信頼を寄せて動く大狼の群れ。ハッキリ言って、厄介極まりねえ存在だろうぜ」

「…………」

「狩るのは、容易じゃねえぞ?」

「わかってる」

「いいや、わかってねえ! お前の思ってる、三倍は面倒くせえ相手だ!」


 仙太郎の肯定を、しかしパテラスは即座に否定する。

 その顔に浮かんでいるのは、焦燥にも似た苛立ちである。


「なんで、一緒に戦わねえ? 俺たちとお前で、敵の大群を相手にすればいいだろうが!」

「……わかってんだろ……」


 パテラスの追求に、仙太郎は投げやりに言い捨てた。


「俺の魔法は、周囲を巻き込んじまう」


水竜の尾(ネロ・マスティギオ)〟は、水の鞭を操る魔法だ。だが、それは周囲に仲間がいない状況でこそ、真価を発揮する。もし周囲に仲間がいれば、巻き込むのを恐れて、直線的な使い方しかできない。

 また、〝火竜の顎門(フロガ・エクリクスィ)〟は炎の柱を生む魔法である。攻撃の範囲こそ狭いものの、その威力は仙太郎の持つ魔法の中でも随一のものである。どのような二次被害を生むか、わかったものではない。また、炎というものは、馬を怯えさせ、人をも怯ませる。

土竜の踏み付け(エザフォス・アディス)〟など、言うまでもない。

黒竜の爪スコタディ・ディリティリオ〟に至っては、周囲に仲間がいては絶対に使えない魔法である。

 ことほど左様に、仙太郎の持つ魔法は、仲間とともに戦うには不向きなものであった。


「俺がちょっとミスすれば、巻き添えで誰かが死ぬ。そんなのはゴメンだ」


 心底ウンザリと言わんばかりといった口調の仙太郎に、パテラスはなおも食い下がる。


「んなもん、当たり前の事じゃねーか。今回だって、俺の指揮の元、何人も死んでんだぜ? 雑兵だって同じだ。ミスすりゃ、仲間が死ぬ。要は、ミスをしなけりゃいい話だ」

「そんなの、できるわけないだろ?」

「できなかったら、できなかったときに反省しやがれ!」


 仙太郎の感覚では、パテラスの言は無茶苦茶に思えた。しかし、手をこまねいて手遅れになるくらいならば、悪手を打ってでも対応するというのは、そうおかしな話ではない。

 なにより、パテラスの真剣な眼差しは、いい加減なつもりで言っているのではないと、仙太郎にはわかった。死した者に対して抱く痛惜の念と、生き残った者たちに対する責任が、その瞳が語っていた。


「あんたの考え方、生き方には感服するが、俺にはそんな重責は、担えないって話だ。俺はあんたみたいにカッコよくない、ヘタレなんだよ」

「今後お前が、人の上に立つような場合、してなきゃならねえ覚悟だ。今ここで覚悟を決めちまえ」

「だから、そんな立場には立たないっての……」


 仮に、ゾル族の族長に自分が推されたら、即座に辞退し、なにがなんでも拒否し続けるだろう。この世界において、仙太郎が責任を持って守るのはエルミスだけである。その他の者に対し、必要以上の責任を負うつもりはない。なにより、自分は元の世界に帰るのだという思いが強い。


「それより、早く準備しろよ。俺が負けたら、今度はパテラスたちが戦う番なんだからな?」

「……はぁ……。まぁ、釈然とはしねぇが、それがお前の決めた事だっつーんなら、これ以上野暮は言わねえよ。ったく、頑固野郎が!」


 悪態を吐くパテラスに、仙太郎は苦笑する。


「悪いな」

「おう、悪い。だからまぁ、あのちょっとデカイだけの狼を倒したら、一緒に酒を飲むぞ。説教しちゃる! 拒否は許さん!!」


 パテラスが口角を上げ、ニヤリと笑って言った言葉。それに対し、仙太郎は片手を上げ、口を開く。


「いや、二十歳未満の飲酒は法令で禁止されてるから」

「…………」

「あと、高野連にバレたらシャレにならんから」

「…………」


 拒否は許さんと言われた言葉を、言われた端から拒否する仙太郎だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ