十二話
仙太郎がそれの接近に気付いたのは、既にその白い牙が肉薄してからの事だった。
「――ッ!?」
間一髪身を躱し、それの襲撃をしのいだ仙太郎。しかし、維持に集中力を必要とする〝風竜の翼〟を解いてしまった仙太郎は、木の葉のようにヒラヒラと地面に向かって落下する。
落下に際し、上下左右の入れ替わる視界に飛び込んできたのは、大狼よりもさらに大きな体躯の狼だった。
小型の像程もあるその巨体に、もはや昼にも夜にも紛れようのない、輝く白銀の体毛。金の双眸はしっかりと仙太郎を捉え、空振りした顎は悔しげに食いしばられ、唸りを声を漏らす。
――おいおい、嘘だろ……。
仙太郎の意識を占めたのは、信じられないという思いだった。これ程大きく、目立つ色の狼に今の今まで気付かなかったという事実に、仙太郎は驚愕していた。
「ゥルルルルゥ…………」
大銀狼が唸り声を残し、仙太郎と同じく重力に引かれて地面へ向かう。仙太郎も動揺から立ち直り、着地の姿勢を整える。
「――ぃよっと!」
仙太郎はビルの四、五階相当の高さから命綱もなしに落下したというのに、危なげなく軽い掛け声で着地した。トンという軽い音が響き、落下の衝撃を膝を曲げるだけでいなし、怪我一つなく仁王立ちする仙太郎。
しかし、だからといって仙太郎の状況は、安全とはとてもいえない。その周囲には数多の大狼が犇いている。これまでは、宙に浮く仙太郎に対して攻撃手段がなく、やられるままに仲間を殺されていた大狼。彼等の殺気は尋常らならざるものがあり、流石の仙太郎も少し気圧された。だが――――
「〝水竜の尾〟」
仙太郎は、焦る事なく水の鞭を生み出すと、それを振りかぶる。――こんなれ連中に、かかずらっている場合ではない。
しなる水の鞭が、再び振るわれる。今度は風を切り裂く鋭い音で一薙ぎにされた魔法は、太陽を反射してキラキラと輝く。〝土竜の踏みつけ〟や〝火竜の顎門〟のような、派手な音や衝撃は発生しない。
しかし、仙太郎の右腕が振るわれて一拍ののち、広がる光景はその二つよりも凄惨なものだった。ずるりと、正面の大狼たちの上半身がずれ、ぼたぼたという音ともに零れ落ちた。周囲にはむせ返るような血潮の匂いが充満する。生々しい、死の芳香。
「邪魔だ!!」
再び振るわれる水の鞭。密度を増す、死の香り。
地面に降り立った事で、先程の大銀狼を見失ってしまった仙太郎は、焦っていた。
もしあれが、仙太郎を無視して民たちの集団へと向かってしまえば、エルミスとタルトではおそらく太刀打ちできない。あれは、普通の大狼ではない。おそらく、あれがこの群れのボスなのだろう。
――……しかし、だからこそわからない。
「なんで、俺はあれに気付かなかった……?」
〝水竜の尾〟をを振るい、近寄る端から大狼たちを毛皮と肉と血へ変えていきながら、仙太郎は呟いた。
普通の大狼よりもはるかに大きな体躯と輝く銀の毛皮は、見落とす方が難しいはずだ。なのに、先程空中で飛びかかってくる直前まで、仙太郎はあの大銀狼の存在に気付かなかった。考えられる可能性は、残念ながら一つ。そのとき――
「――っと!」
やはり背後から迫ってきた大きな銀の影を、今度は余裕をもって躱した仙太郎。再び奇襲される事警戒していた仙太郎は、唐突に現れた背後の気配に、俊敏に対応してみせたのだ。
「やっぱりこいつ、朧月銀狼かよ…………」
朧月銀狼。仙太郎でも知っている程、この世界では伝説的な魔物だ。その力は並みの大狼など比較にもならず、たった一頭で数万の軍勢を壊滅させ、一夜で一つの街を滅ぼしたといわれる、おとぎ話の怪物である。なにより厄介なのが――
「うわぁ……、……本当に消えやがった……」
周囲の景色に溶けるように、ジワジワと姿を消していく朧月銀狼に、心底辟易とした声を上げる仙太郎。伝説通りのその能力に、嫌気がさすのを禁じ得ない。
この能力こそ、朧月銀狼が恐れられる所以である。
ただでさえ、厄介な膂力と鋭い爪牙を持つ魔物だというのに、この朧月銀狼は高い隠密性までをも有しているのである。接近戦をしていても姿を見失ってしまう程の見事な隠行と、元々もっている狼としての気配を殺す本能が合わされば、一度姿を消した朧月銀狼を見付ける事は難事を極める。
――気付けば、既に腹の中。
などと、おとぎ話では子供を怖がらせる化け物だが、こうして実際に目の当たりにすれば、いい歳をした大人でも恐れ戦くというものだ。
「はぁ……。やだやだ。おとぎ話の怪物が、ポンポンでてくんじゃねーよ」
「グルルルゥゥゥ…………」
仙太郎の嘆きに対し、まるで返事をするかのように、どこからともなく唸り声が返ってくる。その声が聞こえてか、再び普通の大狼たちが仙太郎へと襲いかかってきた。
「おいおい……。もしかしてとは思ってたが、こいつらは囮の目眩しかよ……」
仙太郎は呆れるような声を上げつつ、迫る大狼たちを水の鞭で薙ぎ払う。たしかに、こうして四方八方から襲いかかられ、全方位から殺気を放たれていると、次に朧月銀狼がいつ、どこから襲いかかってくるか、見当もつかなくなる。だがそれは、群れの仲間の命をあまりにも軽視した行いだ。
よくこれで、群れが維持できるものだと、仙太郎はむしろ感心してしまった。
仙太郎が大狼たちを殺していた事に、他の大狼たちが憎悪を抱いていた事からもわかるように、大狼は仲間意識の強い魔物だ。そんな大狼たちが、朧月銀狼の攻撃の為だけに、流れ作業のように死んでいく。おそらくは、朧月銀狼が、群れのボスとして指示するままに。
「恐怖政治――ってかッ!!」
仙太郎が水の鞭を振るった隙を突いてきた大狼を、仙太郎は正面から蹴り上げる。大きく開いていた顎を下から蹴り上げられ、くるくると錐揉みしながら群れの中へと戻っていく茜色の大狼。
あれもまた、朧月銀狼が指示した結果なのだろうかと考え、少々同情してしまう仙太郎。しかし、いくら命じられるままにその命を散らす大狼たちが哀れでも、それで妻や仲間たちの危機を、見逃せるはずもない。
仙太郎は再び、その透明な鞭で狼たちの命を摘んでいく。
だがこれで、仙太郎がいくら力を見せつけても、大狼たちが遊牧民たちに対する襲撃を諦めなかった理由もわかった。大狼の群れは、この朧月銀狼に恐怖で支配されていた、という事だろう。
ならば、話は簡単だ。
仙太郎が朧月銀狼よりも、さらに恐ろしい存在だと大狼たちに見せつければ、彼等はこの無謀な進撃を諦めて散り散りになるはず。その為には、やはり朧月銀狼を倒さなければならない。
出鼻こそ挫いたものの、今まで仙太郎が倒した大狼たちの数は、〝土竜の踏みつけ〟で約二百に〝水竜の尾〟で約五十。まだまだ大狼は、千五百頭以上も残っているのである。二千頭全てを倒しきるには、仙太郎の魔力がいくらあっても足りない。
だからこそ――
再び、仙太郎が鞭を振った隙を突こうとする大狼。だが、それは二番煎じだ。同じように、仙太郎は襲いかかってきた茜色の大狼を、蹴り飛ばす。——すると、仙太郎の背後で、殺気が膨れ上がる。
顔だけで振り返る仙太郎。その視線の先で、大きな金の双眸が爛々と輝いていた。
今まさに、朧月銀狼は、仙太郎に喰らいかかろうとしていた。
「――そう何度も、同じ手を食うかってのッ!!」
しかし、三度背後から襲いかかってきた朧月銀狼を、仙太郎は崩れた体勢のまま対応する。蹴り上げた足を戻す勢いを利用し、宙返りするようにもう片方の足で朧月銀狼の鼻面に痛烈な反撃を見舞う。
同じ手を食うといっても、今まで朧月銀狼の攻撃は、仙太郎に対して有効な成果を上げていない。言葉を発する事のできない狼は、悲痛な鳴き声で、それを訴える。
「ギャン!!」
手痛い反撃に、朧月銀狼は咄嗟に距離を取ると、憎々しげに仙太郎を睨む。
「はぁ……」
しかし、その視線の先にいる仙太郎は、朧月銀狼の前で面倒臭そうにため息を吐く。まるで、朧月銀狼など敵ではないと言わんばかりに。その事に、大群の主としての矜持は酷く傷付けられ、より一層強くなった敵意が、仙太郎に浴びせかけられた。
だが仙太郎は、その敵意も意に介さず、空を見上げると小さく呟く。
「なにが、勇者として異世界に送るわけじゃない、だよ……」
仙太郎の愚痴は、目の前の朧月銀狼ではなく、どこか遠くで自分を観察しているであろう悪魔に向けられたものだった。
たしかに、伝説に語られるような厄介な魔物を前にして、背後には妻と世話になった遊牧民たちを庇っている。どう見ても、仙太郎が戦わざるを得ないような状況だ。まるで誂えたかのような、危機的状況である。
「つーか、誂えたんだろ!? 聞いてんのか、コラァ!! 返事しやがれ、ダンタリオンッ!?」
仙太郎の怒声に、答える声はない。当たり前だ。
「クソッ。こんな事なら、ケータイ壊すんじゃなかった……」
仙太郎は一抹の後悔とともに呟き、正面の朧月銀狼を見る。
「お前に恨みはない。あの悪魔のせいで命を散らす事に、多少の哀れみも覚える。でも、だからって助けてやるつもりはない」
仙太郎は宣言する。命を奪う、と。
「俺には、世話になった遊牧民たちの方が、お前より大切だ。妻の方が、お前より大切だ。だから殺す。恨んでいい。できれば、あのクソ化け物の方を恨んで欲しいが、注文つけられた立場でもねーしな」
「グルルゥッ!」
「そうか。まぁ、そうだよな。弱肉強食の自然界の住人に、こんな事を言っても意味ないか。だからまぁ、これは俺が自分に対してついた、言い訳だ。気にすんな」
お互いにダンタリオンに運命を弄ばれた者として、仙太郎は目の前の朧月銀狼に対して、僅かなシンパシーのようなものを覚えていた。そのような者の命を奪うという事に、一抹の罪悪感を覚えた仙太郎は、自分の意識にけじめをつける為、先程の宣言をしたのである。
これから――命を奪うというけじめを。
「いくぜ化け物。化け物同士の殺し合いだ」
「っルルルルルル!! グルゥゥッ!!」
飛びかかる朧月銀狼に、仙太郎は水の鞭を振るう。
視認しにくく、また高速で振るわれた鞭を、しかし朧月銀狼は空中で身を捻り、危なげなく躱す。その巨体にあるまじき素早さと、身の軽さである。
着地したその脚で、再び駆ける巨大な銀狼。あっという間に、仙太郎との距離を縮める。
丸太のような前脚が唸りを上げて振り上げられ、太く鋭い爪が仙太郎へと襲いかかる。
「――ッ」
鋭く息を吐いた仙太郎が、仰け反るようにその爪を躱すが、前脚を振り抜いた朧月銀狼はさらなる攻撃を加えるべく迫る。ゾロリと並んだ鋭い歯と、上下合わせて四本の牙が、仙太郎の目に飛び込んでくる。本当に、成人男性を一呑みにできそうな、大きく暗い口腔。
仙太郎を咬み千切らんと迫る、無数の鋭い歯。仰け反った姿勢のまま、それを躱すのは困難だった。ゆえに、先程と同じ方法で、その攻撃をしのぐ。即ち――反撃である。
「ギャン!!」
仰け反った姿勢のまま、横方向に身を捻ってその大顎を横から蹴り飛ばした仙太郎。堪らず、再び悲鳴を轟かせる朧月銀狼。
再び距離をとって対峙する一人と一頭だが、それもほんの僅か。
「アォォオオオオ————ン!!」
朧月銀狼が上げた咆哮。耳をつんざくようなその遠吠えに反応し、これまで仙太郎の周囲を囲んでいた大狼たちが、円を描くように動き始める。
「……ホント、狡猾なやつだな……」
当然ながら、朧月銀狼に正々堂々という意識など存在しない。自然界においては、勝てば肉を食み、負ければ貪られるのが当たり前の日常なのだ。どのような手を使おうとも、勝者が――強者が正義なのである。
ただ一つ、朧月銀狼に誤算があったとするならば、目の前の小さな存在が、理不尽な程の圧倒的強者だった事だろう。
周囲を取り巻く大狼と朧月銀狼を一瞥した仙太郎は、右腕の水の鞭を消し去る。好機と見た大狼たちが、一斉に襲いかかってくるが——その一瞬前——
「〝風竜の翼〟」
仙太郎の飛行魔法が発動し、その身を空中へと浮かべる。といっても、浮き上がったのはほんの僅か。しかし、それで十分だった。
「〝土竜の踏みつけ〟」
十分な高度を取る事もなく、仙太郎が口にしたもう一つの魔法。それが発現すると同時に、轟音が振動となって仙太郎に襲い掛かり、空中にあるにもかかわらず、その身をおおいに揺さぶられた。
しかし、地に脚を着いていた大狼たちに比べれば、仙太郎の被った被害など、台風とそよ風程も違う。
濁流のような土砂の波に呑まれ、揉まれ、グシャグシャの肉塊へと変じ、土へと還っていく大狼たち。それを眼下に眺めながら、仙太郎は細心の注意を払って、周囲を探る。
先程、肉塊と毛皮に変えた大狼たちの死体が地面に呑まれる。仙太郎は周囲を探る。まだ生きていた大狼が、悲痛な鳴き声を残して、黒の波濤に呑まれて消える。仙太郎は周囲を探る。地中にあった大きな岩が一瞬地上に露出し、再び地面の中へと消えていった。仙太郎は周囲を探る。
轟音と振動の渦中にあって、仙太郎の周囲には不思議な程、静かな緊張に包まれていた。そしてついに——
「〝火竜の顎門〟」
仙太郎の背後、約五m程の地面を割り、炎の柱が立ち昇る。溶けた土まで一緒に吹き上げたその炎の柱は、今まさに仙太郎へと躍りかかろうとした朧月銀狼に襲いかかる。完全に気配を消し、姿まで消していた朧月銀狼の目論見は、見事に打ち砕かれた。万全を期したはずの狩人は、「キャン」という情けない声を上げて炎から逃れる。
崩落を続ける大地に点在する、それなりに大きな岩や、ときに大狼たちを踏み台にして、〝土竜の踏みつけ〟の効果範囲外へと退避する朧月銀狼。やはり、その巨体ではあり得ない程の、身の軽さである。
「単体攻撃力なら、俺の持ってる魔法の中で最高の威力だぞ……。なんでピンピンしてんだよ……」
〝火竜の顎門〟は、その攻撃範囲こそ狭いものの、攻撃力だけならば〝土竜の踏み付け〟〝水竜の尾〟を凌ぐ。しかし、そんな高威力の魔法を浴びてなお、その毛皮には焦げ跡すら残っていない。信じられない防御力を誇る朧月銀狼に、仙太郎が愚痴をこぼす。
それも当然で、仙太郎の持つ魔法の中で最も攻撃力の高い〝火竜の顎門〟が効かないという事は、目の前の巨大な銀狼に対し、魔法では一切の効果を期待できないという事だ。
「まぁ、炎は効かなくても、切断なら効くって場合もあるけど……」
しかし、先程〝水竜の尾〟は呆気なく躱された。〝土竜の踏みつけ〟もまた、その上を軽やかに飛び跳ねる様を目にしている。無鉄砲に攻撃を繰り返し、魔力を消耗するのは得策ではなかった。
というよりも、既に仙太郎の残存魔力は、かなり心許ない状態だった。
〝土竜の踏みつけ〟と〝風竜の翼〟の乱発により、かなりの魔力を消費してしまっている仙太郎。勿論、まだ魔力が枯渇したわけではないが、このまま魔法で戦い続ければ、それも時間の問題だ。しかもそれは、勝率の高い戦い方ではない。
仙太郎の持つ魔法は六つだが、そのうち攻撃に使えるのは〝火竜の顎門〟〝水竜の尾〟〝土竜の踏みつけ〟の三つのみ。〝風竜の翼〟と〝白竜の息吹〟は攻撃魔法ではないし、〝黒竜の爪〟もまた、この状況で役に立つ魔法ではない。
「はぁ……」
仙太郎は、重く深いため息を吐く。
眼下の崩壊はようやく治まりをみせ、掘り起こされ耕された周囲の地面には、仙太郎以外のなにもいない。朧月銀狼ですら、土竜の足の効果範囲外から遠巻きに仙太郎を眺めている。
魔力の節約の為、仙太郎は風竜の翼を解き、地面へと降り立つ。そして、口を開く。
「あぁ……。……嫌だ……」
嘆きである。
仙太郎の口から漏れた、忸怩たる思いの発露。心底嫌そうな嘆き声が、なにもない周囲に溶ける。
魔法という超常の力の使用を、直前まで忌避してきた仙太郎。だがその魔法は、この状況では目ぼしい成果を望めない。
幸いにして、仙太郎にはまだ奥の手はある。
だが、それは、魔法以上に気乗りしない――仙太郎にとって、本当に嫌な戦い方だった。
「はぁ……、……でも、仕方ないよな……」
しかし、仙太郎は現実主義者である。それ以外の方法がないというのなら、それがどれだけ気乗りのしない行為であろうとも、妻の為、仲間の為に、それを是とする。
仙太郎は、正面を見据える。そこにいるのは、倒さなければならない敵だ。敵の群れだ。
多くの人々の為――といえば、少々ヒーロー染みていて偽善臭いと感じるだろう。だからこそ仙太郎は、改めて目の前の命を刈り取る意味を確認する。それは――
「位置について……――」
――それは実に子供染みていて、だからこそすんなりと、仙太郎にも肯定できる理由。
「――よーい」
――どれだけ朴念仁で、色恋沙汰に疎い、草食男子の仙太郎にもある、そんな理由。女の子の前で格好をつけたいという、ごくごく普通の男な欲求。
「ド――」
仙太郎の蹴り出した足は、大きく地面を抉る。砲弾でも着弾したかのような爆音が轟き、仙太郎と朧月銀狼の距離は、一瞬でゼロになった。
「――ンッ!!」
仙太郎が拳を握り、振りかぶる。そこに蓄えられたエネルギーを感じ取ったのか、明らかに怯む朧月銀狼だが、既に事態は手遅れである。
真正面から巨大な狼に殴りかかった仙太郎は、その鼻に狙いを定め、拳を振り抜く。
仙太郎にとって、魔法以上の威力を有する奥の手。それは――肉弾戦である。




