最終話 夢は続く
孔明処断の報告を徐庶から受けた。
本人たっての希望だったので許可したのだが、本当に良かったのだろうか?
表向き普通にしているので大丈夫だと思うが、大丈夫だよな?
しかし、徐庶の心配をしている暇は俺には無かった。
今は劉備を漢中王にする為の式典作業をしている。
来年初頭には劉備は漢中王と成り、俺は王太子になる。
そして、劉備は数年もしない内に俺に王位を譲ると言っている。
どうも早く隠居したいらしい。
劉備が隠居したら、俺に蜀(漢)の全てが掛かってくる。責任重大だ。
だがしかし、俺にそんな大任が務まるのだろうか?
今までは孔明に殺されないように気を張っていたが、今はその緊張の糸も切れているように感じる。
正直、力が湧いてこない。
頭もまるで回らない。
今はただ、与えられた命令を黙々とこなしている。
これで良いのだろうか?
※※※※※※
建安二十三年(218年) 春
劉備 漢中王を尊称する。
劉封 王太子になる。
『後漢書』に書される。
建安二十四年(219年) 春
曹操 魏王に封じられる。
『魏書』に書される。
そして、その年の冬……
「申し上げます。魏王曹操が南下、宛を抜け襄陽城に入ったとの事」
「はあ~!?」
成都で政務をしていた俺に火急の知らせと来たので、報告を受けるとそれはとんでもない物だった。
「関羽はどうしている? 龐統は? 関平は?」
「はは、関羽将軍は江陵を出て迎え撃つとの事、また上庸は既に包囲されておるとの事です」
さ、最悪だ!
「仲謀、裏切ったなー!」
おのれ、孫権め~
王太子に成って浮かれていた訳ではなかったが、まさかここで裏切ってくるとは思わなかった。
それにしても周瑜や、魯粛は何も言って来なかったぞ。どうなってやがる?
いや、そんな事よりも援軍を送らなくては、漢中から上庸に、永安から江陵に送ろう。
いや、もう向かっているかも知れないな。
この知らせが俺に届く前に既に、あいつらは動いている筈だ。
俺がそう思っていたら、あいつが現れた。
そう、俺の張良である劉巴が!
「軍の用意は出来ている。行くぞ」
「は? お前何言ってんの?もしかして付いてくるのか?」
見れば劉巴は既に鎧を着込んでいた。
「腑抜けたお前が心配だからな。今回は付いて行く」
は! 言ってくれる。
「腑抜けてねぇ~よ。それよりもわざと教えなかったな?」
「今のお前には荒療治が必要だろう?」
こいつには絶対にかなわないな。
確かに、王太子に成ってからの俺は腑抜けていた。
何をするにも、気合いが入らない状態だった。
それに、軍事に内政、外交は俺よりも確りしている四賢に任せていた。
四賢、すなわち 劉巴 徐庶 法正 陸遜の四人だ。
それに加えて荊州は龐統に一任している。
だから俺は何も心配してなかった。
そして、今回の事もこいつらが何かやったに違いない。
「はぁ~、それで大丈夫なんだろうな?」
「ふふ、既に種は芽吹き、十分に育った。今が刈り取りの時期だ」
つまり今回で荊州を完全に俺たちの物にしようと言う事らしい。
いやいや、本当に大丈夫だろうな?
孫権が裏切ってるんだぞ?
それに曹操も出てきている。
これで勝てたら奇跡だろうが?
「分かった。じゃあ荊州をぶん取りに行きますか」
「何を言っている。行き先は長安だぞ」
「は?え、は~!?」
え、それって本当に大丈夫なのかよ!
「荊州は? 関羽に任せて大丈夫なのか? 曹操だけでも大変なのに、孫権が裏切ってるんだぞ! 子初! 本当に大丈夫なのか!」
あのプライドの塊の赤鬼だぞ!?
「心配はいらん。士元が万事上手くやってくれる」
あ、そうか。龐統が居たな。
いや、しかしだな。
は、そうだ! 関平は? 関平はどうなんだ!
「上庸は! 関平は!」
「そっちも大丈夫だ」
駄目だ。全然状況に付いていけない。
「本当に、本当に、本当に大丈夫なんだろうな?」
「お前は旗印だ。全て我らに任せておけ。それとも、俺たちが信用出来ないか?」
劉巴の自信たっぷりな顔を見ると少しだけ落ち着けた。
「いや、信用している」
今、俺がこうして生きていられるのも、劉巴とあいつらが居たからだ。
信用しているに決まっている。
でも、せめて作戦内容ぐらい教えて欲しかったぞ。
建安二十五年(220年) 夏
劉封 長安に入る。
後漢書に書される。
翌建安二十六年(221年) 秋
劉封 潼関にて魏王曹操と対峙する。
「壮観だな」
今、俺の目の前には魏軍三十万が居る。
対して俺達蜀軍は十五万。
半分しか居ないが、負ける気がしない。
何故なら俺の周りには……
張飛、陳到、趙雲、馬超、黄忠、魏延、黄権、呉懿、馮習、張南、霍峻、傅彤、龐徳、馬岱、
王平、張翼、張衞が居る。
そして、参謀に劉巴、徐庶、法正、陸遜が俺を支えている。
これだけの陣容で負けたなら、後世の歴史家達に『劉封は配下の将を扱えなかった無能者』と書かれるに違いない。
「ここで勝てば、洛陽まで後少しだ」
「そうだな。子初の夢が叶うな」
「何を言うか。我らの夢だろうが?ははは」
そう言って笑う劉巴を見てから俺は改めて周りを見渡す。
張飛は『がはは』と大声で笑い、陳到と趙雲は無言で頷き、馬超は清ました顔をしているがその顔色は赤く怒気を放っている、その彼の後ろには龐徳と馬岱が心配そうな顔で控えている。
黄忠は『若いもんには負けんわい!』と言い、魏延と王平、張翼はそんな黄忠を見て笑っている。
黄権と呉懿に張衞は魏軍を睨み、馮習、張南、霍峻、傅彤は俺に熱い視線を送っている。
徐庶は『油断なさらぬように』と俺に苦言し、法正は『これだけの大軍、罠に掛けるは一苦労ですな』と言って口を三日月の形にして笑っているように見える。
そして、陸遜は……
「さぁ、皆に命を」
俺は頷くと俺に従う皆(将軍達)と兵に声をかける。
「この戦、俺は負ける気がしない。皆はどうだ?」
「大漢!大漢!大漢!」
兵の大きな声が響く。
「相手は魏王曹操だ。相手にとって不足なし。以前俺は曹操と戦い負けた。あの時は完全に負けた。だが、今!俺にはお前達が居る。俺では曹操に勝てなくても、お前達が居れば曹操に勝てる!いや、勝つんだ! 勝って洛陽に入るぞ!」
「大漢!大漢!大漢!」
張飛を筆頭に皆の歓声が地響きのように響く。
さぁ、戦いの用意は整った。
天下を掴むのは俺達だ!
「さぁ、天下を我らの手に!」
俺は自らの手を上げて高らかに叫んだ。
※※※※※※
荊州のとある場所にある学舎にて
多くの若き者が集まって勉学に励んでいたところに駆け込んで来た者が居た。
「先生! 漢中王の軍が勝ったよー!」
「勝った、勝ったー!」「漢中王つえー」
「馬鹿、漢中王じゃなくて、王太子が強いんだよ」
「へー、そうなんだ」
周りは漢中王の軍が魏軍に勝った事を喜んでいたが、先生と呼ばれた人物はその事を驚くこともなく、また喜ぶ事もなかった。
「ほう、そうですか」
「なんだよ先生。嬉しくないの?先生の知り合いが居るんでしょ?」
「そうですが…… ごほん!それよりも皆、手が止まっていますよ。それに遅れて来た者は後で掃除して帰るように」
「そ、そんな~」
掃除を言い渡された者は皆から笑われ学舎の中は笑い声に包まれた。
「そうですか、勝ちましたか。やはり私は間違っていたのですね」
「先生、何か言いましたか?」
「いえ、何でも有りませんよ。何でも」
そう言うと彼は皆に顔を見られないように窓に向かい、眩い天を見上げるのであった。
『逆襲の劉封』はこれにて終わりです。
この後、劉封君がどうなったのかは皆さんのご想像にお任せします。
長い間お待たせしました事、誠に申し訳ありませんでした。
そして、最後までお読み頂きありがとうございます。
次回作で会えるようにこれからも創作活動をつづけて行きたいと思います。
応援よろしくお願いいたします。




