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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『灰色の少女』編
93/127

『機械の町』

12月12日21時27分18秒。


これは、俺の腕時計が示す時間。


異世界に飛ばされた時から約二ヶ月が経とうとしていた。


この灰色の地に飛ばされたあの時からは一ヶ月だろうか。


襲いかかる機械の化物。碌な生物の居ない死んだ土地。俺達は果ての見えない道を、樹と共にゆっくりと歩いて来た。




この灰色の土地は、平地だけでなく、高い山のような起状を持った場所もある。


そんな場所は足が疲れる事この上ない。


丁度今、その起状の頂点に達した所。



いつもなら、一息ついて休憩でも入れるところ。


しかし俺達は――その場に立ちつくし、遥か彼方の光景を凝視していた。


まるで、何か信じられないものを見るかのように。



12月12日21時27分30秒。



俺達はようやく、この旅の『変化点』に至ったかもしれない。



「なんだよ、あれは……」



いつもなら夜の曇天のような霧が覆う暗い道。


それが――遠く、目の前の方向の降りた先に、誘うように何かが霧の中で灯っているのが、微かに見えた。






見間違いじゃない。



きっとこの先に、『何か』がある。



「行こう、樹」


「……!」


新たな光へと、向きを変えることはしない。


此処は一体何処なのか?その答えは、ヒントの一つすらも分からないままだった。


我武者羅に強くなる事を考え時間が過ぎていって、この地の謎や抜け出す方法は後回しにして来た。



「樹」


「……?」



俺の顔を、不思議そうに覗き込む樹。



「……俺から、離れるな」


「!う、うん」



真っ直ぐに、俺達は歩いていく。




――――――――――――――――――――





身体の震えに、俺は気付く。


何かが――俺達を待っている。


この感覚は恐怖なのだろうか?期待なのだろうか?



この一ヵ月で、俺と樹は強くなった。


その辺の化け物には余裕の勝利を得られるようにもなってきて。


ようやく俺達は、『進んだ』、だろうか。




身体の震えを、そのままにする。




「……っ」




唾を飲み込む。


さっきの灯りは、俺達の見間違いではない。


証拠にそれは消える事無く、近付いてく度に強く、大きくなっていく。



やがてその灯りの正体は、一つの光でなく大量の光だと分かる。


そうだ、俺達の前方に待ち受けているのは――とんでもない規模の大きさの何か。



歩いても歩いても何も見えなかったのに、その向こうにだけ、確実に何かが存在している。




待ち受ける何かへの感覚は増大していった。



―――――――――――



「……聞こえるよな、樹」



この地で一ヵ月過ごして来た俺達は、当然ながら聴覚が鋭くなった。


魔物や機械達は、僅かながら音を発する。その音を一早く発見し、対処してきたからだ。



……しかし今、それ以外の『音』が微かに聞こえる。



重い重量物を引きずるような音。


プロペラが回るような稼働音。


金属を削るような掘削音。



何も鳴らない無音だったはずの世界に、付加されるのは魔物と機械だけだった。



――確定だ、この音はあの『何か』から。


近付いて来ている、明確な証。


まだ分からない、分からないが……もしかしたら、街のような場所が広がっているかもしれない。


少し見えた希望の音。



足を止めること無く歩いていく。



――――――――――――――――――






やがて。『それ』は見えた。








人など寄せ付けない、独特な雰囲気。決して静かではないが、人の気配もまるでしない。



青の光が存在を見せつけるよう光り、轟轟と動く工場のような場所を照らしている。



中央に聳える、まるでこの世界を監視するかのような巨大な塔。




それを取り囲む、果てしなく続くベルトコンベア。


煙を吹き出す剛鉄の棒。大量の金属の管。


回るプロペラ。時折響く機械の音。



 

その場所だけ、一つの生き物のように逞しく、美しく脈動しているかのように。


それは、『生きていた』。


まるで、『何か』を守るように。



そんな印象。



――言葉にするなら、『機械の町』。



続く灰色の霧の中に見えた、その場所。


今まで見た見事な風景よりも――その規模は大きかった。



「……」


「……」



二人して黙って立ち尽くす事しかできない。


身体が、息をのむほどに壮大な景色に鳥肌を立たせた。



「……本当に、この世界は分からないな」



転移した時から、元の世界で中世と呼ばれるような世界で驚いてばかりだった。


やっと慣れたと思えば――今度は『こんな』、光景だ。



機械の化け物へやっと俺達も適応した所で、今度は機械の町か……



「……藍、君?」



俺の顔を見て、不思議そうにそういう樹。


俺は……今、どんな表情をしているのだろう。



前にいた世界からずっと、俺は自分の知らない世界を見て憧れていた。



エジプトのピラミッド。


フンザの桃源郷。


南極大陸のオーロラ。



父さんの影響か、昔はそんな本ばっかり読んでいた気がする。



遥か遠くの光景は……見れないからこそ心の中で憧れる。



そして今――



そんな光景が、今、目の前にあるような気がした。



ああ、分かるよ、今なら。あんたの気持ちが。





「ごめんごめん、ちょっとな」




そう言って、俺は目をこする。


この光景を――今は、感じていたい。



本当に、綺麗な場所だ。



「……ああ、そうだ樹、ちょっといいか」




――――――――――




「……撮れた、かな?」


「うん、良い感じだ」



向かう前に、この機械の町の写真を撮っておいた。


もちろん写真を残したい、ってのもあるがメインは違う。


こんな上から見れるのは運が良い、全貌とは言えないがある程度の地図として使えるからな。



「こんなもんかな」


「……藍君、地図書くのうまい、よね」


「はは、樹は褒めるのが上手いな。樹の絵には勝てないよ」


そう言えば樹はぶるぶると首を横に振る。本当に上手いと思ってくれてるのかな?



……今俺が何をしているのかといえば、写真とは別にまた地図を作っている。


この未知の場所を闇雲に歩くのは絶対にしてはいけない。ある程度のルートを作っておかなくては。


その為の簡易的な地図だ。



「……樹、この場所で一番重要そうな場所ってどこだと思う?」


「ここ、かな……?」


「だよな」



樹の指す先は、中央に聳え立つ塔。


この場所を象徴するそれは、見るからにといった感じだ。


やっぱりここだよな……ここをゴールとして良いだろう。



「んじゃ、ここが目標地点でいいな」



頷く樹を確認して、適当にルートを作っていく。


……さて。


そろそろ俺の心臓も落ち着いただろう。



「行こうか。 ……『あの』場所に」


「……」


頷く樹。


樹もまた、進もうとしている。



俺達は、未知の場所へと足を踏み出す。

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