第三章 プロローグ
ハルマスク王国では、帝国へ宣戦布告してからというものの朗報が少なく陰鬱とした空気が漂っていた。
帝国西部を落とすつもりで四天のうち3人を送り出したのにも関わらず数日が経っても領土を制圧したという報告がなかったからだ。
「一体どうなっている!!!」
ギデオン・ハルマスク国王は椅子から勢いよく立ち上がり拳を机に叩きつけ怒りを露わにした。
戦略会議の為士官や大貴族が複数人会議室に集められたと思ったらいきなり怒りをぶつけられたのだ。
当人達からすればたまったものではなかった。
「四天まで動かしたにも関わらず何故未だたった一つの街すら落とせておらん!?」
怒り狂う国王を窘められるのはただ一人。
傍で王を守る四天の一人、雷天ジェイド・ストラトスだけであった。
「陛下、みなが驚いていますよ。落ち着きましょう。」
「分かっておるわ!!」
それでも窘めきれない程に国王は怒りが溜まっているようだ。
ただ国王自身も怒ってばかりだと会議が進まないと思ったのか落ち着きを取り戻し椅子に座り直した。
「誰でも良い、報告しろ。」
国王が促すと、一人の士官が口を開く。
「はっ。では私からご報告させて頂きます。現在帝国西部にて領地を制圧しようと数千の兵が動いておりますが、未だ成果は出ておりません。ですが一つ興味深い情報が上がって来たのです。」
「興味深い?なんだそれは。」
「はい。あの炎天ムーアが敗れたとの事です。」
「何だと!?」
四天が敗れるなど聞き慣れない言葉に国王は目を見開いて聞き返した。
「それは、あのクレイが出てきたからか?」
帝国最強、五色魔導師の事は王国でも有名人であり、国王はクレイに敗れたのかと予想する。
しかしながら士官から帰って来た言葉は予想もしない言葉であった。
「いえ、違います。何やら仮面を着けた男が炎天を下したとの事です。」
「仮面だと?それは有名な奴か?」
「いえ、私も存じ上げません。狐のお面に黒いローブ姿であったと逃げ帰った兵士から聞いております。」
見た事も聞いたこともない者に炎天が敗れるだろうか、と国王は訝しむ。
しかし結果は実際に負けている。
他の者に聞いても誰も知らない存在のようであった。
「陛下、その者の調査、私にお任せ下さいませんか?」
雷天ジェイドは柔らかな声色で国王に願い出た。
見た目や口調からは王国最強などとは到底思えないが、ジェイドは正真正銘最強の名を冠している。
「良いだろう……お前にも動いてもらうとしよう。その謎の男を徹底的に調べ上げよ。もしこちら側に引き入れる事が可能であれば引き入れよ。」
「お任せ下さい。」
優しそうな笑みを浮かべるジェイドは綺麗な一礼をし定位置に戻った。
「次は私がご報告を。現在の被害報告ですが、帝国西部のドレッドムーン領ヘ送り込んだ約1000人の兵士ですがほぼ壊滅しました。恐らくその狐面の男が暴れたのだと思いますが、詳細は分からずでございます。」
「私からの報告は一つだけでございます。姫が帝国へ向かいました。」
聞き捨てならない言葉を聞き、国王は立ち上がった。
「ま、待て待て!なんと言った!?姫が帝国へ向かいましただと!?」
「は、はい、先日炎天を倒した者がいると小耳に挟んだらしく完全武装で兵も連れずたった1人で向かわれたのです。」
「何故止めなかった!」
「止めましたが、我々兵士では歯が立たず……申し訳ございません。」
国王の娘であるシルビアは気が強く好戦的で有名だった。
戦闘能力も高く四天を除けば王国最強と呼ばれるほどでもある。
そんな暴れ姫を止めることなどただの兵士には難しく簡単に包囲を突破され今に至る。
「シルビア……何故落ち着けんのだ!!もう良い歳であろう!!何としてでも連れ戻せ!!」
「は、はいっ!既に精鋭の兵士数人に追わせております。」
「うぐぐ……お転婆娘め……そんなだから未だに結婚できんのだ!!」
シルビアは20の歳になる。
貴族や王族であれば20歳までに結婚しているのが普通であり、それをすぎると遅れていると言われてもおかしくはなかった。
ただ性格があまりにも歪であり、見合い相手には必ず喧嘩を吹っ掛ける始末。
もちろん王国で最強クラスのシルビアに勝てる者などおらず見合い相手はボコボコにされ逃げ帰るしか出来なかった。
そんなシルビアが自身より強い炎天のムーアを破った相手が現れたと聞けば、挑戦しないわけがなかった。
「最後に私からの報告ですが……」
別の兵士が手を挙げ発言する。
「クレイは国境付近から一切動く気配がありません。その為そちらの方向から進軍した兵士にはあまり被害はありませんでした。」
「四天の2人はまだアレと戦闘はしていないな?出来るだけクレイは避けろ。五色魔導師は正真正銘の化け物だ。下手に戦えば無駄に被害を増やすだけだ。」
クレイの戦闘能力はあまりに高く、四天2人がかりであっても危険が伴うと判断した国王は士官にそう指示を飛ばす。
「全員良く聞け。此度の戦いは負けるわけにはいかぬ。何としても帝国西部を制圧せよ!」
「「「ハッ!!」」」
会議室を出た国王は自室に戻り連絡用魔道具を机の引き出しから取り出した。
おもむろに何処かへ連絡を入れると、少し間が空いた後、男の声が聞こえてきた。
「ああ、アンタか……。何の用だ?滅多な事がなければ連絡してこなかったんだ。何かあったんだろう?でもいいのか?俺らと繋がってるなんて知られたらアンタは終わりだぜ?」
「……分かっておる。それを承知で連絡したのだ。……緊急事態が起きた。炎天が帝国に敗れたのだ。」
「何?炎天が負けただと?誰にやられた。」
「分からん……ただ狐面を着けた黒いローブを着た者らしい。」
「……顔を隠してるってわけか。例のヤツかと思ったがまた別のやつか?……まあいい、こっちからも1人帝国西部に送ってやる。」
「すまぬな……だが例のヤツとはなんだ?」
「アンタはまだ知らなくていい。ただそうだな……グランバード学園にいる化け物には気を付けろよ。流石にそんなとこまで手を伸ばせないとは思うが。」
それだけ言うと男は連絡を切った。
国王は魔道具を握り締めたまま1人呟く。
「グランバード学園……調べたほうが良さそうだな……。」
王国の闇が学園に忍び寄ろうとしていた。
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