戦争が始まっても目立ちたくない⑦
帝国西部に着いた事はすぐに分かった。
至る所で煙が上がっていたのが見えたからだ。
すぐさま馬車を飛び降りた僕とガウェインさんは目的のドレッドムーン辺境伯領まで走る事にした。
魔法を使えば馬車よりも速い。
普通の魔導師であれば、馬車よりは遅いだろうが僕とガウェインさんの魔力なら無限に加速することが出来る。
「……おい、前方で爆発だ。もっと速度を上げろ。」
「はい。まだ余裕です。」
ガウェインさんに促され更に速度を上げた。
景色が高速で後ろへ流れていく。
傍から見れば何かが通り過ぎた、と思うことだろう。
徐々に近付いているのか、炎を纏った男が暴れているのが見える。
多分あれが王国軍のなんか凄い強い人だな。
魔力が桁違いだ。
どうやら帝国軍はかなり追い詰められているみたいだ。
街を背にして強そうな人と向かい合っている。
出来るだけ急いでいるが、やはりまだ距離はある。
今は遠視の魔法も使っているから姿が見えているけど、実際にはまだギリギリ人が見えるかどうかという距離だ。
出来るだけ目を離さないよう走り続けていると、巨大な魔法陣が見えた。
王国軍の本気らしい。
青白い光線が放たれたと思うと轟音が聞こえてきた。
上級魔法、いや更に上の魔法だな。
よく目を凝らすと煙の中から凄い強そうな人が立っているのが見えた。
さっきのを食らってまだ生きてるなんてもう人間辞めてないかな。
あ、一番前にいる帝国軍の人が魔法を撃った。
あー、でも全然効いてない。
まああんな極大魔法を正面から受けてピンピンしているんだ。
そんなちっぽけな魔法じゃ傷さえ付けられないだろうな。
近づくに連れて徐々に先頭にいる人が何者か分かった。
キャロルさんだ。
領主らしく誰よりも前に出て戦っていたみたいだ。
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
凄く強そうな人がキャロルさんに手を向けている。
これは急がないと不味いかもしれないな。
そう思った僕は隣を走るガウェインさんに一言伝えておいた。
「ガウェインさん、ちょっと不味いかもです。先に行きますね。」
「……あ?おい!ちょっと待て!」
何か言ってたけど今は聞き返す余裕なんてない。
一刻を争うんだ。
全魔力を脚に込めて踏み出すと、ガウェインさんを置き去りにして加速する。
間に合ってくれよ。
「白の庭園」
魔法名を唱えると白い靄が帝国軍を包みこんだ。
今考えたから魔法だから硬度に難はあるけど、とりあえずは防げるはず。
凄く強そうな人が放った魔法は白い靄に遮られて侵入してくる事はなかった。
咄嗟に創った魔法でもそれなりのモノになるもんだな。
呆然とした表情で僕を見上げるキャロルさん。
何か声を掛けたほうがいいよな。
「いやぁ、間に合ってよかった。キャロルさん、救援に来ましたよ。」
僕は正直に今の気持ちを伝えた。
しかしキャロルさんから反応はない。
それより帝国軍の誰もが同じ様に反応を示さなかった。
あれ、聞こえてなかったのかな。
「いやぁ、間に合ってよかった。キャロルさん、救援に来ましたよ。」
もう一度言うと、ハッとした顔を見せたキャロルさんは慌てて立ち上がった。
「あ、あの!助けて頂き感謝致しますわ!」
「いえいえ、礼には及びませんよ。」
あんまりポロポロ喋るとまた要らないことを言ってしまいそうだから適当に会話を切り上げた。
そんな事よりまずは王国の人をなんとかしないと。
魔法を解くと、不可解な表情をした凄く強そうな人がジッとこちらを見ていた。
「何だお前。どっから湧いて出てきた。」
「走ってきました。」
「は?」
会話にならなそうだな。
サッサと倒して終わらせよう、と思ったが未だに相手からは凄まじい魔力を感じる。
これは手加減できなさそうだ。
狐のお面を着けていてよかったかもしれない。
「まあ何でもいいか。一緒にくたばりな。火炎放射。」
おお、またさっきの炎だ。
この人さては火属性が得意だな?
じゃあ僕はコレで行こうか。
「水女神の息吹。」
火と水がぶつかれば結果は目に見えている。
火は消え勢いが衰えない水の波動が凄く強い人を飲み込んだ。
無傷だな。
何だこの人。
身体が鉄で出来てんのかな。
「何だお前は。俺と互角だと?……まさか十二神か?」
「いや、違いますけど。」
そこはしっかり否定していく。
間違ったまま覚えてて欲しくないからね。
「へぇ、じゃあお前は十二神より強いやつってわけか?」
「さあ?僕も自分の事をそれほど分かっている訳でもないので。」
聞けば、十二神とも何度か戦ったことがあるという。
その時よりも僕のほうが脅威に見えているらしい。
「お前の事は聞いたことがないな。狐のお面なんてしてるやつ忘れる訳がないんだが……。」
「まあ誰でも物忘れはありますよ。」
「何か喋り方がムカつくやつだなお前。まあいい、俺の事を知っているなら身を引いた方がいいぞ?」
凄く強い人は有名なんだろうか。
結構自信満々に言うが、僕はこの人の事良く知らないからな。
「いや、知らないです。」
「本気かお前。それで、お前の名前は何なんだよ。」
まずいぞ、名前を聞かれてしまった。
用意していないな。
何かいい名前はないかな、と記憶を辿るとそれなりの地位があって割と実力もありそうないい名前が浮かんだ。
「僕はガイン。ただのガインだ。」
あー面倒くさそうな事になりそうな予感がする。
「ガイン?聞いたことがねぇな。」
「知らないのか?まあ知ってたらそれはそれでビックリだけど。」
とりあえず前にパーティ会場で出会った良く分からない辺境伯の名前を名乗っておいたが、偽名とはバレてなさそうだ。
「んじゃあ自己紹介でもしておくぜ。俺は四天の1人、炎天のムーアだ。ムーア・グスタフっていやぁ、流石に聞いたことあるだろ。」
やばいな、全然知らないぞ。
でも多分割と有名な気がする。
知ってる感じは出しておこう。
「あームーアね。はいはい、あのムーアか。ふむふむ。」
「てめぇ、絶対知らねぇだろ。」
速攻でバレた。
「舐めた野郎だな。ここで灰になれや。」
ムーアは両手に魔法陣を浮かび上がらせた。
魔力もかなり練り込んでいる。
これは、怒らせたかもしれないな。
ムーアの魔力はどんどん増加していく。
生半可な魔法じゃ止められなさそうだ。
「烈火の暴撃!!」
ムーアが放った灼熱の炎が僕を襲った。
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