戦争が始まっても目立ちたくない⑥
空が赤い。
辺りの家は燃え、煌々と赤い光を放っていた。
キャロル・ドレッドムーンは自領に攻め込んだ王国軍を追い返す為奮戦していた。
「あちらの家にはまだ避難できていない者がいますわ!増援を送りなさい!」
「キャロル様!二時の方向、数30です!」
もう何度魔法を放っただろうか。
既に三本目の魔力回復薬を飲み終えたキャロルは額の汗を拭いながら指示を出す。
「ワタクシと何人か一緒に来なさい!」
「キャロル様!もうそろそろお休みになられたほうが……。」
何時間と戦い続けており、限界が近いキャロルを心配した側近の兵は休むよう促す。
しかし、キャロルはその願いを聞くことはなかった。
「今ワタクシが休めば前線は崩壊しますわ!ここで抑えなければ街の方にも被害が出ますのよ!」
「ですが、1度休まなければ貴方も限界でしょう!」
「まだ魔力回復薬は残っていますわ。支援要請は既にしています。その者達が来るまではワタクシ達で抑えますわよ!」
王国軍が攻めてきた当初は対処できていた。
しかし、崩れ始めたのは1人の男が参戦してきてからだ。
四天の1人、ムーア・グスタフ。
炎天と呼ばれ、戦う姿はまさに炎の神であった。
圧倒的な火力を持つ彼の魔法は前線の兵士を焼き払い、家々に火を付けた。
ドレッドムーンの保有する強力な魔導隊は成すすべもなく焼き尽くされた。
キャロルの周りにいるのはかろうじて生き残った魔導隊数人と側近の兵士だけであった。
「まさか四天が出てくるとは思いませんでしたわ……ですがここで倒れる訳には……ワタクシにはこの土地を守る義務があります。」
「1度立て直しが必要かと……。」
側近の兵士が言うようにもはや前線とは呼べぬ程に崩壊していた。
散らばった兵士が少数で集まりムーアへと攻撃を仕掛けていたが、全て返り討ちにあっているようだ。
キャロルのいる位置からでも分かるほど、大きな炎が時たま見える。
「そうですわね……少し下がりましょう。街の門が見える位置まで下がりそこで迎え撃ちますわ!」
散らばった兵士がムーアを足止めしているとはいえ、もう長くは持たない。
そう判断したキャロルは残りの兵を全て後ろに下げることにした。
キャロルにとってムーア以外の兵は対して脅威ではなかった。
ドレッドムーンの持つ兵は精鋭ばかり。
王国軍の有象無象と比べるまでもなかったからだ。
しかしムーアを相手にするとなると話しが変わる。
四天は王国に存在する4人の四色魔導師。
十二神とも互角以上に戦える程の戦闘力を持つ。
流石に精鋭揃いの兵とはいえ、有効な攻撃を加える事は出来なかった。
「キャロル様、全兵士を集めました!」
「前方、ムーアが近付いて来ますわ。総攻撃を仕掛けます!目視で確認できる距離に近付くまで全員魔力を練りなさい!」
打てる手はもはや一つ。
残存兵力による総攻撃であった。
4本目の魔力回復薬を飲み終えたキャロルは詠唱を始めた。
街からもかき集めた兵士数百人の目前に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
キャロルによる範囲魔法陣だ。
魔法陣を見た兵士は全員両手を前に突き出し、魔力を流し込む。
1人、また1人と魔力が尽きて膝を付いていくがキャロルは立ち続けた。
ほぼ全ての兵士が膝を付いたと同時に数百人規模の魔力を集めた魔法陣が完成した。
キャロルが得意とするのは集約魔法と呼ばれる協力型の魔法だった。
極大の魔法陣は今までのどんな魔法よりも強力であることは必至。
もしこれでムーアを仕留めきれなければ、キャロルにはもう打つ手はなかった。
「見えましたわ!行きますわよ、ワタクシの持てる全てを今ここに!!」
巨大な魔法陣は青白く光を放つ。
目を覆う程に強い光が周囲を照らした。
「月が落ちる衝撃!!」
キャロルは四色複合魔法の名を叫んだ。
数百人の魔力を注ぎ込んで生み出された魔法は、青白い光線となりムーアへと突き進む。
光線が通った後には焼け焦げた草木と抉り取られた土が盛り上がる。
近付くだけでも蒸発しそうなその光線は勢いを衰えさせる事なくムーアを飲み込んだ。
轟音と爆風がキャロルの綺麗な縦ロールの髪を靡かせる。
土煙で目を覆うが、これほどの衝撃。
普通の人間であれば骨も残らないだろうと安堵する。
「ハッハッハ!!!やるではないか!!!ただの小娘かと思っていれば、なんと!本気で魔法を使わされるとは思わなかったぞ!!」
土煙の向こうから男の声が聞こえてきた。
煙が晴れるとローブについた土を払いながらゆっくりと歩を進めるムーアがいた。
「そんなっ……あれで死なないなんて……。」
「キャ、キャロル様……お逃げ下さい。我々が時間を稼ぎます!」
息も絶え絶えの兵士らは各々武器を杖にして立ち上がりキャロルの前へと立ち塞がった。
キャロルは領民から好かれている。
民の為に自分を犠牲にする姿やまだ年若いのにも関わらず両親の死を乗り越え貴族としての義務を果たす姿勢は好かれない訳がなかった。
兵士らは次々に立ち上がり領主を逃がそうと立ち塞がる。
魔力が残っていない魔導師などなんの役にも立たないが少しでも時間を稼ぐ為に壁となるつもりだった。
「辞めなさい!ワタクシは逃げませんわ!」
キャロルはそんな彼らを見て最後の魔力回復薬を口に含む。
完全に回復出来る訳では無いが、数回魔法を撃つくらいなら出来る程度に回復する。
「まだやれますわ!見てなさい!」
キャロルが手をムーアに向けると魔法陣が浮かび上がる。
無駄だと分かっていても何もせず殺されるくらいならと数発の魔法を放った。
「水氷弾!!」
しかしムーアは歩みを止めない。
魔法は身体に当たると共に溶けてしまい何の意味もなかった。
「おいおい、さっきので全部魔力は使い切っちまったか?この程度じゃあ俺は止められねぇなぁ!」
ムーアはもうすぐそばまで近づいていた。
キャロルは領民を守れなかった自身を恨む。
力があればと、歯を食いしばり目を瞑る。
「じゃあ、ここで死んでもらおうかね。」
ムーアは弱り切った兵士やキャロルに手を向けると魔法名を唱えた。
「火炎放射」
もはやこれまでと全員が目を固く瞑り炎に焼かれるのを覚悟する。
しかしいつまで経っても熱さを感じない。
キャロルはゆっくりと目を開けると、自分達を白い膜が覆っていた。
兵士らも目を開き、右や左に視線を彷徨わせていた。
何が起きたかは分からないが、自分達を飲み込まんとする炎は白い膜で遮られている事だけは分かった。
「いやぁ、間に合ってよかった。キャロルさん、救援に来ましたよ。」
キャロルの耳に飛び込んできたのは聞き慣れない声。
声がした方を向くとそこには、黒いローブに身を包み狐のお面を着けた男が突っ立っていた。
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