戦争が始まっても目立ちたくない④
教室に戻ってくると、レイさんが真面目な表情を見せながら近付いてきた。
何となく嫌な予感がする。
「マリス……この授業が終わればお祖父様の所へ顔を出してくれないかしら?私も一緒に行くから。」
お祖父様ってことは学園長の所じゃないか。
嫌な予感しかしないが。
授業は滞りなく終わり、レイさんと一緒に学園長室に向かう。
横を歩くレイさんはずっと硬い表情のまま崩さない。
真面目な話なんだろうな。
ここは茶化すと後で怒られそうだから辞めておこう。
「お祖父様、マリスを連れてきました。」
「入れ。」
扉の前でレイさんがそう言うと中から学園長の声が聞こえてきた。
2人で入ると、既にオルバ先生とジリアン先生も居た。
ああ、この面子は確実に僕の話なんだろうな。
「マリス君、君にお願いがあって呼んだのだよ。」
そんなことだろうと思った。
次の言葉はなんとなく想像がつく。
「ハルマスク王国との戦争に参加して欲しい。」
「嫌です。」
間髪入れずに返答してやった。
あまりの早さに理解が追いついていないのか、学園長は呆けた顔をしている。
「い、嫌な……のか。そうか……いや、出来ることなら力を貸して欲しいのだが……。」
「目立つじゃないですか、それに命の危険だってありますよね。」
痛いのは嫌だ。
いくら僕が虹色魔導師だとしても、実戦経験は皆無。
戦争に参加すれば、人を殺さなければならないし僕にはそんな度胸はない。
「マリス、お前にしか頼めん事だ。やってくれないか?」
オルバ先生までそんな事を言い出した。
僕だって出来ることなら手を貸したいが、正直に言うと力になれるか分からない。
実戦経験のない子供が1人参戦したところで正規軍の邪魔になるようにしか思えないからだ。
「目立ちたくないのは理解しているわ。だからウチが頑張って作ったこれを使って欲しいの。」
ジリアン先生が渡して来たのは白い狐の仮面。
これで顔を隠すということだろうか。
「そうよ、これを着けていれば貴方だって誰も気付かない。もちろんかなり時間をかけて作ったからちょっとやそっとの攻撃では欠ける事のない程に頑丈よ。」
用意周到だな。
確かにこれなら目立っても僕だと誰も分からない。
「魔力を流せば変声機能まで使えるのよ。声でバレる心配もないわ。」
ちょうどそこに突っ込もうとしていたのに先手を打たれた。
ここまで用意されたら断る言い訳がなくなるじゃないか。
「……分かりました、ここまでされたらやらざるを得ませんし。でも僕一人で参戦ですか?ちょっと心細いんですけど。」
「そうか!やってくれるか!良かった良かった!!」
学園長は自分の事のように喜んでいる。
そんなにも僕が参加を決めたことが嬉しいのだろうか。
「もちろん、そう言うと思って一緒に行ってもらう人を用意しているわ。入ってきて。」
ジリアン先生が別室の方に声を掛けると黒いローブの男が入ってきた。
ちょっと前に会った人だ。
「ガウェイン・マギクラッドよ。4年生だしこの学園で一番強い。彼と共に帝国西部へ向かって欲しいの。」
待て待て、この人は完全な部外者だ。
僕の秘密を知られると不味いんじゃないか?
「……お前が何を考えているのかは手に取るように分かる。……俺は神殿長の息子だぞ。お前の秘密くらい既に知っている。……まあ顔を知ったのはさっきが初めてだがな。」
なるほど、初対面の時に意味深な事を言っていたのはそういう事か。
「現状、ドレッドムーン辺境伯領に進軍してきたハルマスク王国の勢いが凄まじく現地の者では対応しきれない。だからこそ君達に頼みたい。行ってくれるか?」
学園長はもう一度僕に問いかける。
返答はもう決まっていた。
キャロルさんの実家が危ないと聞けば断る理由はない。
誰かを犠牲にしてまで秘密を守りたい、なんて事は言わない。
秘密がバレる事になったとしても、僕は助けるだろう。
最初にそう言ってくれれば、僕は断らなかったのに。
「最初に言えば断らなかった、とでも言うつもりか?だから言わなかったんだ。お前の意思で参加して欲しかったからな。」
「オルバ先生……僕を試したんですね。」
なかなか意地悪な事をしてくれるじゃないか。
というか、こんな所で雑談してる場合じゃない。
早く行かないとキャロルさんの実家が蹂躙されてしまう。
「行きます。」
「……しゃあねぇ。御守りするのは得意じゃねぇからな。自分の身くらいは自分で守れよ。」
口が悪いな相変わらず。
まあ、言われずとも自分の身は自分で守るよ。
「高速馬車を用意しているわ。さ!行って頂戴。頼んだわよマリス、ガウェイン。」
「「了解。」」
2人が部屋を出て行くと、その場に残った者達は安堵の表情を浮かべた。
もしもマリスが断るようであれば、ガウェイン1人で行ってもらう事になっていた。
流石に生徒を1人で救援に向かわせるのは教師としてなかなか辛い判断でもあった。
かと言って半端な者を行かせる訳にもいかなかった。
故にマリスへ白羽の矢がたったのだ。
「ふぅ、なんとか受けてくれたな。」
「嫌だなんて言い出した時にはどうしたもんかと思ったぜ。」
「無事に帰って来てくれればいいんですが……。」
レイだけはやはり心配していた。
同級生を戦地に向かわせたのだ。
いくら虹色魔導師は規格外とはいえ、マリスに関しては実戦経験がゼロである。
不意打ちを受ければ、流石に無事では済まないはず。
そう思うと心配にならないわけがなかった。
「安心しなさいレイ。ウチが作ったあの仮面は国宝クラスの代物よ。1度だけなら致命傷を代替わりしてくれるの。まあその時は仮面が砕け散るけどね。死ぬか顔がバレるかだったら、比べるまでもないでしょ?」
ジリアンは魔導具制作のエキスパートだ。
ただそんな彼女ですら、作るのに時間をかけた魔導具であり性能は破格であった。
「さあ、後は彼の友人達になんと説明するかだ。作戦会議といこうではないか。」
またも4人は頭を悩ませるのであった。
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