戦争が始まっても目立ちたくない①
朝、目が覚めるととても心地よい気分であった。
すっきりと起きられた日は1日元気に活動できる。
着替えて朝ごはんを食べ、さあ行くかと玄関の扉を開けると一気に萎えた。
「おはよう!!マリス!!!」
アスカが居たのだ。
ここ最近は毎朝来ている。
別にわざわざ部屋の前まで来なくても教室で会うだろうと言うと、通学も一緒にするのが学園生活の醍醐味なのだと聞かなかった。
そんなどうでもいい醍醐味とやらに付き合わされるこっちの身にもなってほしいものだ。
「おはよう。相変わらず元気が有り余ってるな。」
「そりゃあそうでしょう!だってこの天気だよ!これで気分がどんよりする方がどうかしてるよ!」
天気は晴れ。快晴である。
どんよりはしないが、そこまで元気になれる秘訣が知りたい。
寮を出て2人で教室へと向かっていると、アスカが興味深い話を教えてくれた。
「知ってる?なんかさ、西にあるハルマスク王国が帝国に宣戦布告したって話。」
確か数日前に帝国に対して、宣戦布告してきたという話だ。
街で冒険者らしき人がそんな会話をしていたので記憶に残っている。
「らしいな。でもなんで急に。」
「さあ?理由は帝国の領土を奪う為だろうねー。ま、ワタシら学生は関係ないけど!」
残念ながら関係はある。
ここ、グランバード学園の生徒は優秀な者が多い。
それこそ現役の宮廷魔導師に勝るとも劣らない実力者も在籍している。
帝国がそれを見逃すはずがない。
万が一、帝国の戦力で守り切れないとなった場合、学園にも支援要請が来る。
もちろん断ってもいいが宮廷魔導師を目指すのであれば断る理由はない。
宮廷魔導師の力と仕事ぶりを真近で見られるのだ。
誰も断る奴なんていない。
僕を除いて。
僕はそもそも宮廷魔導師なんてなるつもりはない。
だから支援要請が来ても断るつもりだ。
メリットが何一つないからね。
それこそデメリットだ。
命の危険がある場所に自ら進んでいくなんてどうかしてると思う。
「アスカは宮廷魔導師を目指さないのか?」
「ん?あーいや目指してるかな?」
なぜそこで疑問形になるんだ。
「じゃあ支援要請があったら行かないとまずいぞ。評価にも繋がるから。」
「あーそっか。マリスはどうすんの?」
「僕は行かない。」
「なんで?」
「宮廷魔導師になるつもりがないから。」
「えええ!?なんでなんで!?」
大げさに驚いている。
そんなに不思議な事でもないだろう。
この学園に通っている生徒でも一部は魔道具製作の仕事に就いたり、研究職を目指す者だっている。
「興味がないと言うか、大変そうじゃないか。」
「まあ確かに大変ではある……けど。」
「??なんで言い切れるんだ?もしかして知り合いが宮廷魔導師とか?」
そう聞くと何故かアスカは動揺していたが、まさか有名な宮廷魔導師が知り合いだったりするのだろうか。
「そ、そうそう!そんな感じ!」
「ふーん。まあでも僕はもっと楽な仕事に就きたいから、どれだけ給金がよくても宮廷魔導師にはならないかな。」
「……そういうことか……。これがワタシに近付けって任務を任された理由……。」
凄い小さな声でブツブツ言っているが何を言ってるか聞こえなかった。
後で聞き返したがはぐらかされた。
教室に入るといつもの席に着く。
ロゼッタは先に来ており既に隣の席に座っていた。
「おはよう、アンタも相変わらず大変そうね。」
「分かってくれるか。」
「あのテンションが朝から続くわけでしょ?アタシなら耐えられないわ。」
チラッとアスカの方を見てそう言う。
分かっているなら助けて欲しい。
「嫌よ。朝はゆっくりしたいの。いいじゃない、彼女が出来たと思えば。」
適当な事を言ってくる奴だ。
アスカはどちらかと言えば、The友達の雰囲気が強い。
恋愛的な付き合いを想像してみるが、全然思い浮かばなかった。
「きついなそれは。」
「まあそんな事はどうでもいいわ。聞いた?ハルマスク王国が宣戦布告してきたってやつ。」
もう聞いたよそれは。
みんな凄い興味を持っているんだな。
「アンタの事だからまた首を突っ込むんじゃないかと思ったのよ。」
何処にでも首を突っ込む奴と思われてて心外だな。
僕は出来るだけ目立たないように生きているのにイベント事が僕に突っ込んでくるのだ。
僕は悪くない。
「また変なことが起きなければいいけど。あ、それよりマリスが教えてくれた魔法、少しずつコントロール出来るようになってきたわ。」
少し前に魔法探求会のメンバーに僕が創り出したオリジナル魔法を披露した。
時間が合う時に教えていたが、少しでもコントロール出来るようになったのはロゼッタが初めてだ。
「へぇ、ロゼッタのくせにやるなぁ。」
「くせに?今くせにって言った?」
「言ってない。」
言った。
耳聡いやつだな。
ちょっとでもイジるとすぐに拾ってくる。
「まあ聞かなかったことにしてあげるわ。他の人はまだ習得出来てないの?」
「まだだな。割りと習得が早いなーと思ったのはルーザーだったけど、コントロールは未だ全然。」
皇子より勝っていると知って、少し嬉しそうにしている。
皇族に勝てる所なんてそれくらいしかないから嬉しいんだろうな。
「ワタクシもなかなか上手く扱えなくて……。」
隣で聞いていたシーラもまだ習得には至っていないらしい。
そんな簡単に習得されても、それはそれで微妙な気持ちになる。
オリジナル魔法をこの短期間である程度使えるようになるだけでも凄いのに、ロゼッタに至っては少しコントロールが出来るという。
これが才能かと、改めて思った。
そのまま雑談を続けていると、オルバ先生が入ってきた。
顔付きは少し険しい。
十中八九ハルマスク王国の事だろう。
「お前ら席に着けー。ちょっと大事な話がある。黙って聞けよー。」
険しい表情のオルバ先生に気圧されたのか全員がサッサと席に着いた。
「もう知ってると思うが、ハルマスク王国が我が国に宣戦布告をしてきた。支援要請はまだないだろうが、いずれ呼ばれる可能性も有り得る。もしその時が来て参加する者は評価に繫がるからな。宮廷魔導師を目指すんであれば、参加辞退はするなよ。」
案の定その話だった。
まあ僕には関係のない話なので、適当に聞き流す。
話が終わったのか、オルバ先生は教室から出て行った。
目を瞑っていたせいで何の話も聞いていなかった。
いや、寝てたわけではない。
ちょっと瞼を閉じていただけだ。
するとロゼッタに肩を叩かれた。
なんだ、と振り向くと表情が固い。
「アンタ、不味いわよ。一級クラスからは参加辞退であろうと数人強制参加してもらう可能性もあるらしいわ。」
なるほど、ちゃんと聞いておくべきだったな。
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