帝国の危機でも目立ちたくない⑩
「リズリアが捕らわれただと!?」
帝都の外、とある廃村の中にある隠れ家で男の声が響く。
想定外だと言わんばかりに男は動揺していた。
「何故捕まった?あいつがそんなミスを犯すように思えないが……まさかイレギュラーでもあったのか?」
「私の調べた情報では、どうやら騎士団長が単独で先行して帰って来たみたいです。」
「ちっ、イレギュラーじゃねぇか……。」
白いローブを纏った男が水晶越しにリズリアの件について話していた。
ここは十悪の隠れ家。
リズリア捕縛の話を聞いて動揺していたのはリーダーと呼ばれる男であった。
元々数が少ない十悪にとって一人が捕縛されるのはかなりの痛手になる。
リーダーは騎士団長の能力を見誤った事を後悔した。
「ノーデンス、お前とロビクスはまだ見つかっていないな?」
「もちろんです。計画は着々と進めていますよ。」
水晶に映った白いローブの男はノーデンスと呼ばれ、リズリアが帝都入りした際邪魔をしないよう忠告されていた男であった。
リーダーは何年も前からある計画を進めていた。
もちろん計画の大部分を任せてあるのは十悪にしては珍しい真面目で知的な男。
それがノーデンスであった。
「ロビクスは暴れていないか?」
「大丈夫ですよ。計画通り事が運べば十悪の悲願は叶うと口酸っぱく伝えておりますからね。計画を邪魔するような事は一切していませんよ。」
言葉遣いが荒く行動も粗さが目立つロビクスを上手く扱えるのも彼だけだった。
十悪は大抵の者が好き勝手に暴れる。
リーダーとしてはそれは何としても防ぎたかった。
魔導師としての戦闘能力がいくら高くとも囲まれて各個撃破されてしまえば何の意味もない。
なので今回のリズリアの件は許可を出したリーダーにも責任があった。
「ああ、ですが一つリーダーにお願い事が。」
「なんだ、構わん言え。お前にはかなり苦労をかけているんだからな、望むものは何でも与えるつもりだ。」
「私を買いかぶりすぎでは?では、人員を1人貸してもらえませんか?」
「人員?2人では足らんのか?」
「ええ、もっと効率的に計画を進めたいので後一人お貸し下さい。」
ノーデンスがここまで言うのだ。
本当に人手が欲しいのだろう。
「望む能力は?」
「そうですね、戦闘能力が高い者の方が助かります。」
ノーデンスが戦闘力を求めた。
リーダーは遂に計画は次の段階へ入ったのだと確信する。
「分かった。用意しておく。」
「ありがとうございます。既にハルマスク王国は動きました。我々の時代が来るまで後少しですよリーダー。」
真面目で知的に見えるノーデンスだが実際の所一番十悪らしい性格をしている。
ただ暴れるという話ではなく、各方面から追い詰めて弱った所を叩くという完全主義だ。
敵に回せばこれほど厄介な人物はいないだろう。
水晶に流していた魔力を止めると、映像は消える。
長年かけて進めてきた計画も佳境に入ったと、リーダーは不敵に笑った。
――皇城の地下には牢がある。
凶悪な犯罪者のみを捕らえている。
もちろんリズリアも凶悪な犯罪者として、そこに居た。
暗く、ジメッとした空気の重い一人部屋だった。
逃げられないよう反魔法の呪文が壁に描かれており、地下牢では一切魔法が使えなかった。
もしも地下牢を出て、逃げ出せたとしよう。
次に待つのは、宮廷魔導師数人だ。
地下牢を上がってすぐの所に数人体制で宮廷魔導師が見張りをしている。
弱り切った身体では宮廷魔導師を倒し逃げ切ることは不可能だろう。
その為か1度も犯罪者を逃したことがない事で有名だった。
死ぬまでここで1人かと項垂れていると何者かが近付いてくる気配を感じた。
格子の壁を睨みつけていると、来たのはまさかの人物であった。
「お前がリズリアだな?」
「なっ!!何故こんなとこに!?」
目の前にいたのは帝国の象徴とも言える、ガイウス皇帝であった。
横には護衛の為かレオニス騎士団長ともう1人女の魔導師が付いている。
「人払いはしてある。お前に聞きたい事があったのでな。」
何処から持ってきたのか皇帝は格子の前に椅子を置いて座った。
捕まった自分に聞けることなど大してないと思うが、皇帝の顔付きは真剣そのものだった。
「……何?私が知ってることならなんでも言うわよ。ま、刑期を緩めてくれるならね。」
「それはできん。ただ飯くらいは多少豪華にしてやる。」
「フフフ、まあいいわ。で?何を聞きたいってのよ、皇帝さん。」
交渉したところで自分をここから出すことはないだろうと知ってはいたが、一応聞いてみた。
案の定ダメだったが、食事を良くしてくれるというのならまだいいだろう。
「お前が何故テロを起こしたのか、理由が知りたい。」
「理由?そんなもの決まってるでしょ。十悪がこの世界を支配するためよ。その為には強国であるこの国を落とさなければならないわ。」
「……本当の事を言え。」
一体何の事を言っているか分からずリズリアは首を傾げる。
「では何故学園に侵入した。」
「ああ、その事ね。回りくどいわね、そんなの決まってるじゃない。虹色魔導師を殺すためよ。」
「……やはり知っていたか……。その情報、何処から知ったのだ。」
「そんなの言うわけないじゃない。」
それ以上教えてほしければもっと譲歩しろと態度に示すと、皇帝は何やらレオニスから受け取った。
「これを知っているか?」
皇帝の手にあるのは首輪のような物だ。
確か魔導具だったはず。
考えていると皇帝が先に口を開いた。
「これは、お前の生殺与奪を握る魔導具だ。いわば枷だな。これを着けたままでいいのなら外に出してやってもいい。」
破格の条件を提示してきた。
それだけ虹色魔導師に関わる情報は大きいらしい。
ずっと地下に幽閉されるくらいなら、監視されてでも外に出れたほうがありがたい。
そう判断したリズリアは重い口を開いた。
「いいわ、教えてあげる。私が虹色魔導師の事を知ったのはメンバーの1人が記録水晶で映像を残していたからよ。もちろん十悪の殆どが知ってる。味方に引き入れるか無理なら殺せって指示を受けていたわ。ま、私は失敗したけどね。虹色魔導師なんて手を出すもんじゃなかったわ、まさか初級魔法で吹き飛ばされるなんて思いもしなかったわよ……。」
ツラツラと説明していくと皇帝は黙って聞いていた。
隣りにいるレオニスは話を理解していないのか不思議そうな顔をして聞いていた。
「……と、まあそんな感じね。私はもう虹色魔導師に関わるなんて勘弁してほしいわ。あれはもう少年の皮を被った化け物よ。」
そう、あのマリスという少年は化け物だ。
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