帝国の危機でも目立ちたくない⑦
学園内でリズリアとマリスらが戦っていた頃帝都では火が燃え広がり続けていた。
「駄目です!!消化しきれません!」
「消しても新たな火柱が生まれます!恐らく何処かに魔法陣があるのかと……。」
ガイウスの耳に入ってくるのはどれも対処しきれないという内容ばかりだった。
出来れば使いたくなかったが、もはやそんな事も言ってられる状況ではなかった。
「ネームレスを呼べ。彼を使う。」
「!!畏まりました。」
ネームレス――最強にして最弱。
使えば確実に十悪に知られることだろう。
少なくとも一ヶ月は帝国の切り札が使えない期間となる。
その間に一挙に攻めてこられれば対抗できるかは分からない。
己の手の内を晒すようなものであった。
「やっぱり僕を使うんですね。」
部屋に入ってきたネームレスが最初に発した言葉だった。
「ホントにいいんですね?一ヶ月は使えないですけど。」
「もはや選択肢はない。やってくれ。」
ネームレスは頷くと窓際に近付く。
ガイウスも彼の魔法は一度しか見たことはない。
ただ圧倒的な記憶だけが脳裏に残っている。
「消失する奇跡の技。」
片腕を上げ拳を握るような動作をする。
ネームレスは窓から外を眺めながら魔法名を唱え、指を鳴らした。
たったそれだけ。
帝都を火の海に変えていた火柱は、全て何事もなかったかのように、消えた。
どんな魔法であろうと彼の前では無意味。
故に最強。
「はい、終わりましたよ。あの火柱を創りだしてた魔法陣は消しました。魔力全部無くなっちゃったんで、自分の部屋戻っていいですか?」
「……ああ。すまん、助かった。」
「いえいえー。まあこの為に毎日贅沢させてもらってるんでね、また一ヶ月経ったら呼んでくださいよ。」
そう言って彼は部屋から出て行った。
部屋にいる者は誰も喋らない。
たった数秒で彼らが対処しきれなかった問題が解決してしまったのだ。
喋れるはずがなかった。
「あれは、帝国の切り札だ。お前達が苦労していたのは分かるが、あれと自分達を比べるな。……別格と凡人では比較にならん。」
苦し紛れのフォローはしたが、彼らの表情は重い。
ネームレスはいつも自堕落な生活を送っている。
その様を見ていた者からすれば、信じられない光景であっただろう。
ガイウスとてあの魔法を目にしたのは二度目だ。
初めて目にした者が殆どであり、自分の目を疑っているようで、未だ誰も口を開かなかった。
しかし、これで帝都の問題は片付いた。
後は首謀者を捕らえればこの件は終わる。
「な、何でよ!私の魔法が消えた!?」
リズリアは腹部を手で抑えながら帝都の空を見上げていた。
マリスに吹き飛ばされた彼女であったが、気絶する事はなくただ窓を突き破って地面に叩きつけられただけであった。
自身の魔力抵抗が高かったお陰だった。
その後学園から逃げ出し街へ向かったまでは良かったが、その途中で帝都の空を真っ赤に染めていた自分の魔法が消える瞬間を目にしてしまった。
帝国の切り札の事は聞いていたが実際に目にすると、呆気に取られてしまう。
リズリアは立ち止まり、自身が施した設置型魔法陣が消えた事を認めたくはなくただ呆然と空を見上げていた。
「これが帝国の切り札ってやつね……とんでも無いわ。ハァ、虹色魔導師なんかに手を出すんじゃなかった。」
リズリアは乗り気でこの任務を請け負った事を後悔していた。
虹色魔導師なんて伝説の存在であり、どれ程の力を持っているかなんて分からない。
それでもこんな呆気なく負けるとは思っていなかった。
あれだけ啖呵を切ったのにも関わらず蓋を開ければこの様。
悔しさで怒りが込み上げてきていた。
「あのガキ……次会ったら絶対に殺してやるわ。初級魔法でなんなのよあの威力は。馬鹿にしやがって!」
路地裏で電撃魔法より撃ち抜かれた腹部をさすりながら握り拳を壁に打ち付ける。
まだ完全に身体は癒えておらず、イライラを壁にぶつけていた。
その時であった。
背後から気配を感じ咄嗟に結界を張った。
咄嗟の判断としては最高の判断だったと数秒後に安堵する。
張った瞬間に結界が砕けたのだ。
再度結界を張り直しその場から飛び退くと、結界を破った張本人が仁王立ちしていた。
「次会ったら殺す?ちょっとさ〜それは聞き捨てならないなぁ。」
まだ年端もいかない少女のようだ。
リズリアは見た目で油断し先程敗北を味わったばかり。
今度は油断しないと結界を二重に張り直す。
「誰かしら?見たことない子ね。」
「そらそうでしょ。表舞台には出ないからねワタシ。」
見たこともない服を着ている。
確か東の国の服装だったはずだと、リズリアは思い出した。
しかし只者ではないことは確かだ。
瞬時に張った低い強度の結界とは言え、四色魔導師である自分が張った結界はそう簡単には破れない。
だが目の前の少女は紙くずのように斬り裂いた。
リズリアは警戒を強める。
「何者?私の結界を簡単に斬り裂いちゃって。そんな事ができるなんてこの世界でも少数なはずだけど?」
「まあその少数派だからねー。お姉さんこそ少数派じゃない?」
軽い口調ではあるが、リズリアの事を知っているということは少なくともそれなりの位置に属する者であると、警戒を最大限に強めた。
「今から死ぬ人に言うのもなんだけどさ、一応自己紹介しといたほうがいい?」
少女はそう発言した。
あまりに舐めた態度にリズリアは怒りが頂点に達した。
先程の敗北といい、魔法を消された事といい、怒りが溜まる原因は複数あったからだ。
「へー、なかなか言ってくれるじゃないの。じゃあ私も自己紹介しておこうか?」
ほんの少しでも身体を癒やす為時間を稼ぐ。
故に会話を続ける必要があった。
「いや、それは別にいいよ。十悪序列6位、緋色の爆撃リズリアでしょ?知らなかったらワタシはここにいないよ。」
目の前の少女は当たり前のようにリズリアの二つ名まで答えた。
やはり全て知っている。
嫌な予感がした。
しかし、その嫌な予感というのは当たりやすい。
案の定であった。
「ワタシは十二神序列10位、アスカ・シラヌイ。貴方をここで殺す相手だよ〜。」
目の前の少女は手を振り無邪気に笑いながらそう言った。
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