帝国の危機でも目立ちたくない②
朝だ。
今日は珍しく早起きした。
いつもなら時間ギリギリまで寝ているが、何故か今日の目覚めはすっきりしている。
昨日パーティーでこれでもかというほど食べたせいだろうか。
たまには朝の学園を散歩するのも悪くないかもしれないとそそくさと着替えて寮から出た。
生徒もほとんど見かけない。
学園の敷地も広くまだ行ったことのない場所なんて無数にあった。
また今日も新たな場所へと向かうと少しひらけた庭園で足が止まった。
朝に会いたいと思わない人がいたからだ。
庭園はいくつかのテーブルと椅子が置いてありちょっとしたお茶会なんかが出来るようになっている。
その一席にその人はいた。
金髪で縦ロールの美少女、キャロル・ドレッドムーン辺境伯だ。
紅茶を飲んでいる様はまさに絵画に出てくるような絵面であった。
ジッと見つめてしまったからか気づかれてしまったようで、手招きされる。
流石に手招きを無視して行くほど冷たい人間ではない。
僕は仕方なくキャロルさんの所まで向かった。
「おはようございますわ、マリスさん。早起きですのね。」
「おはようございます、そういうキャロルさんこそ早いではないですか。」
どうやらキャロルさんは毎日この時間に起きてここでお茶をしているらしい。
なんだか貴族らしいというかお金持ちってみんなこんなに毎日優雅なのだろうかと思ってしまう。
「珍しく早起きしたから散歩してたんです。」
「それは大変結構。貴方もいかがかしら?」
すっと目の前にキャロルさんと同じ紅茶が出された。
横にいる侍女は僕らが話している間に紅茶の用意をしてくれていたようだ。
「ありがとうございます。あ、美味しいですねこれ。」
「そうでしょう?ワタクシこの茶葉を気に入ってますの。それはそうと貴方、魔法探求会というクラブの部長だそうですわね?」
誰かから聞いたのか、はたまた生徒会長だから知っているのか。
僕は紅茶を飲みながら頷く。
「どんな活動をしていらっしゃるのかしら?」
「名前の通り魔法の探求ですよ。僕が創造魔法を使えるので新しい魔法を創ってクラブのみんなに教えたりしてます。」
「創造魔法……やはり貴方逸材ですわね。今からでも生徒会に欲しいですわ。」
「申し訳ないですが……。」
キャロルさんは目を細めて僕を見ている。
やっぱり創造魔法を使えるだけでとても希少な魔導師だというのは本当らしい。
「ちなみにどんな魔法ですの?」
「そこはまだ内緒です。確か夏になると魔導大会とか言うイベントがありましたよね?そこで披露しますよ。」
後数か月もすれば夏になる。
夏の学園大イベントとして魔導大会というものがある。
といっても内容は簡潔だ。
体育祭のように色んな競技があり、そこに魔法の要素を足しただけ。
ただ、一番盛り上がるのは魔法対戦だ。
腕に自信がある者は魔導大会3日前の予選に参加できる。
予選を突破した少数の者だけが大会当日の魔法対戦に参加できるのだ。
この学園は帝国一と言われるだけあって魔法対戦を見に来る人も多い。
位の高い人から友好国の人まで。
言わば魔法対戦はスカウト合戦みたいなものだ。
目を付けた者に声を掛け卒業後に来てもらう。
参加者はただ魔法を披露し相手に勝つ事だけを考えればいいだけ。
勝てば豪華な景品もあると聞いているが何かは知らない。そもそも僕は参加する気はないからだ。
参加するだけで目立つし各方面から目を付けられる。それは避けたい。
「へぇ、貴方が魔法対戦で披露するのが楽しみですわ!」
「え?いや僕は出ませんけど。」
「?それは無理ですわ。何せ魔法対戦は予選に絶対参加の人達がおりますの。それが各クラブの部長ですわ。」
おいおい、そんなの聞いてないぞ。
そんな事なら部長をロゼッタとかにしておけば良かった。
「それは強制……ですか?」
「ええ、もちろんですわ。もし参加しなければクラブは廃部になるでしょうね。」
何てことだ。恐ろしい。
もし廃部になろうものならこの人からのアプローチが凄い事になる。
もう目がギラついてるよキャロルさん。
廃部になって部長の座を降りてしまえば、生徒会への勧誘を断る理由がなくなってしまう。
「ちなみに今年は新しいルールが追加されていますの。」
「追加のルール?」
「ええ、最近は新しいクラブ活動を作る人が増えすぎてましてね、似たようなのがいくつもあるのですわ。ですからワタクシが直々に新しいルールを追加しましたの。聞いて下さる?その名も、負けたら失う背水の陣!!ですわ。」
何だそれ。
「何だそれ。」
あ、やべ声に出てた。
「先程言いましたようにクラブの部長は強制参加。そして予選でのランキングが半分より下回っていれば、その者が所属するクラブは廃部ですわ。まさに背水の陣!ですわね!!!予選でいい成績さえも残せない人なら他の人を率いる事などできませんわ。なのでいい成績を残して下さいまし、マリスさん。」
何て事をしてくれたんだ。
僕が考えてたのは適当に戦い予選落ちする作戦だったのに。
これで少なくとも数回は勝たないといけなくなってしまった。
まあしかしまだ先の話だ。
今は忘れておこう。
「紅茶美味しかったです。ありがとうございました。」
「いつでもいらっしゃっても結構ですわ。ワタクシはいつもここにいますからお茶を飲みたくなったらこの時間ここに来ても構いませんわよ。」
有り難いことを言ってくれるが、次からは早起きしてもここを通るのは辞めておこう。
悪い人ではないのだが、どうも僕はこの人と話すと緊張する。
やっぱり辺境伯の当主であるということが一番の原因かもしれない。
レイさんやロゼッタ達もお嬢様ではあるが、あくまで公爵、伯爵の子供や孫である。
しかし目の前のキャロルさんは本人が辺境伯だ。
纏っているオーラや背負っているものがやはり違う。
「マリスさん、ワタクシは貴方の噂しか知りませんがその噂が本当だった時……本気で囲い込むかもしれませんわ。……ワタクシを楽しませて下さいまし。オホホホホ!」
その場を立ち去ろうした時にそう話し掛けられたが、一瞬だけ目付きが真剣に見えた。
それが何を意味するのか分からなかったが、キャロルさんも何かしら秘密があるように思えた。
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