パーティーでも目立ちたくない⑤
目の前の少年が宮廷魔導師になりたくないと言ったときは空気が凍った。
ナターシャはもうこの場からサッサと逃げ出したいと思ったくらいに空気が冷え込んだ。
その後陛下が理由を問いただしたが、帰ってきた答えは"大変そうだから"だ。
しかも陛下は何を思ったのか私に話を振ってきた。
一応十二神として名が知られている私の名前を呼ぶ時だけは小さな声だったがマリス君には確実に聞こえている。
勘が良い者であれば確実に辺境伯というのは嘘だと分かる。
しかし分かっていないのかマリス君の態度は変わらなかった。
私は当たり障りのない内容で答えた。
しかしマリス君は嫌そうな顔をする。
明らかに宮廷魔導師なんて絶対なるものかという強い意志を感じる顔を見せた。
陛下は恐らくこのマリス君を宮廷魔導師にしたい。
何とかフォローしようとしたが、表情は変わらなかった。
失敗した。
もっと彼の気持ちが揺さぶられる内容を答えたら良かったと後悔した。
陛下も不味いと思ったのかすぐに話題を変えた。
しかし変えた内容がまたしても突拍子のない話だった。
連絡先を交換しようと言い出したのだ。
周りにいる者からすれば、皇帝陛下がプライベート用の魔道具を使い少年と連絡が取れるようにしたいと言っている様に見えている。
それだけでも大事なのに、あろうことかマリス君は断ったのだ。
普通であれば不敬罪だが、今はお忍びの姿。
周りで見ている者はヒヤヒヤしている事だろう。
現に私も冷や汗が止まらない。
皇帝陛下のしつこい押しに負けたのか、マリス君は仕方なくといった様子で連絡先を交換していた。
それほど重要な人物なのだろうか。
後で皇帝陛下に聞いたほうが良さそうだ。
連絡先も交換でき満足したのか今度は友達の話を持ち出した。
もういいだろさっさと帰ろうと言いたくなるが陛下はノリノリだった。
しかしまたもやマリス君から爆弾発言が出た。
”ルーザー”と皇子を呼び捨てにしたのだ。
こんな事を言うのも失礼な話だがルーザー皇子は友達がいない。
というより作れなかった、というのが正しい。
近くにいる同年代は皆公爵家や伯爵家の者ばかり。
ルーザー皇子を呼び捨てにするような者など1人もいなかった。
だからこそマリス君の口からルーザーと出た時は驚いた。
陛下も嬉しそうな顔をしている。
日頃から陛下は言っていた。
子供達にも信頼できる友人の1人や2人出来ないものかと。
だが皇族家に生まれた以上、それは難しい事でもあった。
いくら皇子や陛下が許していたとしても周りの目が気になってしまう。
故に気軽に話しかける事など難しい。
陛下は嬉しさのあまりマリス君の手を取って殿下の所へと向かう。
ちなみにルーザー皇子とエリザ皇女もこの変な人が陛下だと知っている。
自分の親なのだから分からない訳がない。
それは陛下も知っていた。
というより昔、陛下に何故こんなお忍びで遊んでおられるのかと問い詰めた事があったらしい。
だから陛下の中では私と自分の子供達にしかバレていないと思っている。
殿下の元へと行く際には人が勝手に道を作っていく。
それもそうだ、皆皇帝陛下だと分かっているのだから。
皇子皇女殿下は困惑した顔をしている。
自分の父親がマリス君を連れて目の前に現れたのだ。
マリス君がこの人の事が分かっていないと知ると下手な事も言えずただただ苦笑いを浮かべていた。
しかし陛下は止まらない。
マリス君がルーザー皇子とタメ口で会話をしているのを聞き嬉しそうに笑みを浮かべウンウンと頷いている。
ルーザー皇子にも遂に友達が出来たらしい。
陛下はルーザー皇子にもっと友達を増やせと言っている。
もちろん第三者からの意見としてのつもりで発言しているようだが、誰が見ても友達のいない子供を案じる親の発言である。
もう皇子皇女殿下は困り果てていた。
表向きはお忍びだ。
故にマリス君に本当の事を言うわけにもいかない。
とりあえず陛下の話に合わせているようだが、かなり疲れているようだ。
マリス君も周りにあるテーブルの上に置かれた料理をチラチラ見ている。
早く食べたいのだろう。
しかし上機嫌になった陛下がなかなか離してくれない。
そんなマリス君は私に目線を送ってきた。
付き人ならさっさとこの場を収拾しろと、そう言われたような気がした。
「ガイン様、そろそろ他の方の所へ行かれてはいかがでしょう?ずっとマリス君の時間を奪ってしまうのも忍びないかと。」
「む?そうか……そうだな。うむ、では皇子皇女殿下またの日を。マリス君!君ともう少し話していたかったが、私の付き人がこう言っているのでな、ここらでお暇しよう。」
このジジイ、私のせいにしてこの場を後にしようとしている。
イライラしてはいけないと、自分を落ち着かせた。
陛下はその後適当にパーティー会場をうろつき外に出た。
クルーエル家には後で謝罪しておこう。
こういう役割はいつも私だ。
そのお陰で私は周りから、介護者とも呼ばれている。
陛下は私室へと戻って来ると変装を解いた。
とても満足そうに連絡用魔道具を見ている。
聞くならこのタイミングだろう。
「陛下、あのマリス君というのは一体何者なのでしょうか?陛下が興味を持つほどの何かがあるのですか?」
「む?そうか、お前にはまだ言っていなかったな。」
顎に手をやり少し考える仕草をする。
教えて良いものかと悩んでいるようだ。
「そうだな、まあ教えても構わんだろう。ただしこれは必ず口外するでないぞ?」
えらく真剣な表情でそんな事を言う。
もちろん口外するつもりはないがそこまで警戒するほどの事なのだろうか?
私が頷くと、陛下は周囲に目を向ける。
「アイン、お前もここにいるのだろう。部屋の外で聞き耳を立てるやつがいないか見張っておけ。」
「ハッ。」
何処にいたのかも分からないアインが急に姿を現したと思ったらまたすぐに消えた。
流石はアサシンのトップだと再認識する。
十二神である自分にすら気配を感じさせないなど、普通ではない。
「良いか、ナターシャ。これは我が国最大の秘密であると知れ。」
真剣な顔付きで真っ直ぐ私を見てそう言う。
次の言葉を聞き逃さないよう私も陛下を見つめる。
つばを飲み込む音だけが自分の耳に聞こえた。
「マリス・レオンハートは今代の虹色魔導師である。」
虹色魔導師と聞き、あれ程陛下がマリス君に執着していた理由が分かった。
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