パーティーでも目立ちたくない④
なんだか空気が冷たくなった気がする。
目の前にいるガイン辺境伯も固まってしまった。
宮廷魔導師になるつもりはないと言ったのは良くなかったのかな?
いやでもどんな仕事に就きたいかは個人の自由だ。
ちなみに僕は一番この世で楽な仕事がしたい。
「そ、そうか……。なぜ宮廷魔導師にはなりたくないのかな?」
ガイン辺境伯が質問してくる。
まあ正直に答えるのは気が引けるからそれらしい理由をでっち上げておいたほうが良さそうだ。
「なんか大変そうなので。」
「た、大変そう……な、なるほどな……。おい、ナターシャ、宮廷魔導師は大変なのか?」
ガイン辺境伯は隣で突っ立っている付き人に話し掛けた。
ナターシャと呼ばれた人は困った顔をしながらも答える。
「まあ……大変といえば大変ですね。ですが、その代わりやり甲斐はありますよ。」
やり甲斐なんていらないから、楽させて欲しい。
そんな気持ちが顔に出てたのか、ナターシャさんはフォローし始めた。
「あ!いえその、やっぱり宮廷魔導師っていう肩書きですよね!給料もいいし!それに、色んな人から尊敬されますよ!」
尊敬で食っていけるならいいが、そこに大変さが加味されてこその給料じゃないか。
全然魅力を感じないな。
「ま、まあマリス君。もし気が変わったら1度私に連絡をくれたまえ。私の方から推薦することが出来るからな。将来有望な君みたいな魔導師はやはり宮廷魔導師になって欲しいものだ!」
「連絡?ですか?でも僕ガイン辺境伯の連絡先を知らないのですが……。」
ガイン辺境伯もそうだった、とポケットから魔道具を持ち出した。
「こ、これで連絡先を登録しておこうではないか。私はこれでも辺境伯だ。君が困ったら何でも力になろう。」
押しが強いな。
でも知らない人の連絡先なんて登録したくはないな。
「いえ、でもそんなの申し訳無いので大丈夫です。」
「いやいや!君の力になってあげようじゃないか!」
「いえいえ、僕程度にそんな……。」
「いやいやいや!未来ある若者に手を差し伸べたいと思うのは普通のことではないかね?」
押し強いなこの人。
さっさとこの場から去りたいのになかなか離してくれない。
お付きの人に何とかしてくれと目で合図を送ると意図を汲んだのか小さく頷いた。
「ガイ……ン様、マリス君が困っていますよ。あまり強引にいくのはどうかと……。」
「む、そうか……。いやしかしだな……。」
それでもまだ引こうとしないガイン辺境伯に若干の気持ち悪さを感じた。
もう面倒くさいから連絡先を交換しておくか。
「分かりました。じゃあ登録させていただきます。」
「なに!そうかそうか!!……よし、これで……。」
何か僕の情報を得て悪いことでもするのだろうか。
語尾が小さくなっていき聞き取れなかったが、口元がニヤついていた。
「どうだね?パーティーは楽しんでいるのかね?」
急に話題変えたな。
僕の連絡先を入手した途端表情も少し柔らかくなった気がする。
「まあそれなりに楽しんでますね。こんな豪勢なパーティーに呼ばれる事なんてまずないですし。」
「ほう!!なんと!友達に誘われたりなどもないのかね?というより友達はいるかね?」
「います。あの辺にいるジンとフェイルとか、男連中に囲まれているレイさんもそうだし、ミアとロゼッタとシーラと、ああ、後ルーザーとエリザさんもですね。」
最初の方はうんうんと頷きながら話を聞いていたガイン辺境伯だったが、最後ルーザーとエリザさんの名前を出した途端目がクワッと開いた。
「ルーザーとエリザだと!あ、いや、皇子皇女殿下とも仲が良いのか!それは素晴らしい!!!いや、実に素晴らしい!!」
名前、出すべきじゃなかったかもしれないな。
無駄に大きな声で拍手するものだから、貴族らの目線が痛い。
「ではせっかくの機会だ、共に皇子皇女殿下の元へ参ろうではないか!」
そう言い僕の手を取ったガイン辺境伯はズンズンとルーザー達の方へ歩いていく。
もうどうにでもなれ、だ。
関わるべきではなかったと今更ながら後悔した。
案の定、ルーザー達の所へいた貴族や大商人らは道を開け少し離れた。
チラチラと見られるのはあんまりにも声が大きいからだろう。
ルーザーはそんな僕の方を見て目を見開いていた。
「マ、マリス……その人は……。」
「あーなんかさっき話し掛けられてさ、一緒に行こうって言われて。」
「そ、その人の事はご存知ないのですか?」
ルーザーもエリザさんも苦笑いだ。
そりゃそうなるだろう。
今さっきまで話していた貴族が会話も半ばに離れてしまったのだから。
強引な貴族というのはガイン辺境伯のような人を言うんだろうな。
「知らなかったよ。まあさっき連絡先を交換したけど。」
「「連絡先を!?」」
ああ、この反応。
もしかして、こういうパーティーのような場で初対面の人と連絡先を交換するのはあまり良くない事なのでは。
「そうなのですよ!いやぁ、将来有望な学生の力になれるのであれば、喜んで力を貸しましょう!!」
「あ、ああそうですか……。マリス……本当にこの人の事を知らないのかい?」
「知らない。でも僕の事は知っているみたいでグランバード学園の一級クラスにもなればやっぱり有名になるのかな。いきなり話し掛けられて戸惑ったよ。」
もう正直早くこの人何処か行ってくれないかな。
目立って仕方がない。
今やパーティーに参加しているほとんどの貴族の気を引いているんじゃないだろうか。
それほどまでに視線が痛い。
「皇子と仲が良いと聞きましたが、まさか敬語も使わず話されるとは!!これはもしや初めて出来た対等に話せる御学友なのでは?」
今それ聞かなくていいよ。
僕もすっかり忘れていつものように話してしまったが、本来こういう場では敬語でなければならない。
「そ、そうですね。私の友人です。」
「おお!それはそれは!皇帝陛下も喜ばれるでしょう!!やっと息子と本音で話し合える友達が出来たと!」
「そのようです、あ、いやそうであれば嬉しいですね……。」
「いやいや!皇帝陛下であれば必ず祝福してくれるでしょう!!今まで皇子に打算抜きで本当の意味での友人はいなかったでしょう?これを期にもっと友人の輪を広めてみてはいかがですか?」
「そ、そうします……。」
ルーザーもタジタジだよ。
この人の勢いは凄いな。
皇子相手でも変わらず無敵の人じゃないか。
はぁ、早く料理の続きを食べたいよ。
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