N-098 レイク達の指導員
遺跡の地下迷宮を探索して、俺達は村へ帰って来た。
長老の部屋に入ると、ユングさんが早速報告を始めた。それが終ると、フラウさんが6枚の地図と2枚の報告書を長老の世話人に手渡す。
「済まぬのう。地下2階で終らずに最深部まで調査してくれるとは思わなんだ」
「それは、俺達の趣味ということで……」
「それでは、これが礼金じゃ」
「では、俺達はこれで。報告書にも書いてはあるが、たぶんカラメルが来る筈だ。あの遺跡には彼等の方が知っている可能性がある。カラメルは知っているな?」
「あぁ、パラム王国に訪れたことがある。我等の零落ぶりを見て驚くであろうがのう」
「カラメルはそれを気にするような種族ではない。気にするな」
そう言ってユングさんは席を立った。俺の所に歩いてくると、貰った礼金の袋から一握りの金貨を取り出してポケットに入れて、袋を俺の膝の上に置いた。
「もう少し良い長剣を手に入れろ。あの長剣は野外では良いだろうが、迷宮ではもう少し短い方が良いぞ」
「こんなに頂けません。それに魔石の分配もまだです!」
「魔石は俺達に必要ない。国造りに使えば良いだろう」
「そうじゃな。それに使うが良い。意外と必要になるからの」
アルトさんもそう言うと席を立った。
それでは、と短い挨拶をして3人は長老の部屋を出て行った。
「相変わらずじゃな。しかし、それ程浅いとは思わなかったのう。この報告書では黒が5人であれば地下2階までは魔物を狩ることが出来るとある。更に下へ行くには銀が何人か欲しいところじゃな」
「しかし、この迷宮で20人のハンターを失っておる。しばらくは地下1階までで満足して貰わねばならんのう」
「1階を白5以上。地下1階を青5以上で黒を2人とすれば良かろう。残念じゃが地下2階へは黒10人というところじゃろう。今のところそれに見合うチームはおらぬ。」
「レムル達には苦労を掛ける。しばらくは休むが良い」
「ありがたく休息させて頂きますが、1つ教えてください。カラメルとは何ですか? 種族名のような感じに受取ったのですが」
「あまり知られておらぬが、海洋の覇者じゃな。水あるところに住んでおる。パラム王国が健在であった時はパリム湖にも住んでいた筈じゃ。今もおるかどうかは分からぬがのう。連絡があれば一度会ってみるが良い」
海洋の覇者って海賊みたいな者なんだろうか?
だが、かつてはあの湖に住んでいたっていうことは、漁師のギルドなんだろうか?
変った種族と言っていたから、姿形も違うんだろうな……。
どうも、想像が出来ないぞ。これは待つ外に手がないみたいだな。
「ユングさんがこれを置いていきましたが、俺達は余り役に立ちませんでした。どうぞ納めてください」
俺はユングさんが置いていった革袋と差し出した。エルちゃんが魔石の木箱をバッグから取り出す。
「全てを貰う訳にも行くまい。魔石はお前達で分けるが良い。そしてこの金貨は待ち作りに使わせてもらおう。それで良いな?」
「それでも多すぎると思います。今回は上位の魔石まで手に入りました」
「それはお前達が命にかえて得たもの。村の取分は他のハンター達と同じじゃ」
長老の世話役がエルちゃんから木箱を受取ると、その中身を確認してメモ書きを渡す。どうやらそれが領収書らしい。
商館に魔石を売買した時の分配が、その領収書と交換で渡されるみたいだな。
これで、俺達の話も終ったことになる。長老に挨拶して俺達は部屋に戻ると、荷物を部屋に置いた。
「どうにか終ったにゃ。私等にはしばらくあの迷宮は無理にゃ。1日休んで村の迷宮に向かうにゃ!」
やはり、休むのは明日だけなんだな。
そうは思ってたけど、ホントに元気だよな。
そして、俺達は久し振りの風呂へと出掛けて行く。
◇
◇
◇
俺が最初かと思ったがどうやら先客が数人いるらしい。
迷宮から帰ったハンターだろうな。
おれも、棚の籠に衣服を脱いで早速風呂に向かった。
風呂は何時も通りに湯気が凄い。2つ浮かんでる光球では相手の姿が見えないぞ。
風呂に入って早速体を伸ばしてゆっくりと体を温める。
段々寒くなってきたから、風呂もこれからは賑わうだろうな。
「よう、お前も迷宮からの帰りなのか?」
「こんにちは、そうです。やはり迷宮帰りはこれが一番です」
「そうだろ、そうだろ……。俺達の後から迷宮を出たんだな。何階まで降りたんだ?」
「地下2階までですね。地下3階は階段を見下ろして止めました」
「お~い! こっちに来い。こいつは地下2階まで行ってたらしいぞ。俺達もそろそろ地下2階を目指そうとしてたとこだ。少し話を聞こうじゃないか!」
俺の所にやってきた人当たりの良さそうな男が仲間を呼びつける。
ほう、そりゃ都合が良いなんて言いながら3人の若者が俺の周りに集まってきた。
皆俺よりも年上なんだけど、年下の俺の話なんか聞きたいのかな?
「で、魔物はどんな奴なんだ?」
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺が行ってきたのは村の迷宮ではなく、遺跡の新しい迷宮ですよ!」
「何だと! それなら余計聞かせて欲しい。確かあの迷宮は青の連中が20人行ったが誰も帰って来ん。俺達の知り合いも帰って来ない……。いったいどんな迷宮なんだ?
そして、地下2階から階段を見下ろしたと言ってたな。と言うことは、迷宮の地図は出来たという事だ。そしてお前は黒の中位って所だろう」
「残念ながら、白の成り立てです。長老の依頼を受けた連合王国の腕利きハンターが俺達の知り合いだったんで荷物持ちで参加させてもらいました」
「てことは、お前さんはレムルってことだな。レイクから噂を聞いたが、そうか……。」
「それで、どんな所だ。俺達はもう直ぐ、青になれる。やはり、青の中位にならなければ新しい迷宮は難しいか?」
俺を囲んだ4人に、新たに風呂にやってきた連中が後から詰め掛けてきた。
何かちょとしたデジャブーを感じるな。
とりあえず、おおよその概要を伝えてあげた。
「ふむ、すると新しい迷宮の1階は青レベルなら許可が出るんだな?」
「今日帰って長老に報告した時に、長老が言った言葉です。黒が2人入れば地下1階にも行けるでしょう」
「1階はシザーラに砂蛇か……」
「俺達にはまだ少し荷が重いな。それにしても、1階が村の迷宮の地下2、3階に相当するとはな」
「それより、ミノタウロスっての初めて聞くぞ」
「頑強な人間の体に牛の頭が載ってました。両刃の斧を担いでゆっくり近付いてきたんです……」
そんな奴がいるのかと、俺の周りの男達が顔を見合わせる。
「余り、焦らない方が良いってことだな。レムル達と同行した連合王国のハンターは銀が3人だと聞いたぞ。それなら、白が荷物持ちに付いて行っても安全だわな」
「行っても、精々1階か……。まぁ、1階だけでも行ってみるか」
男達は俺を離れて、それぞれの相棒と相談を始めた。
注意が逸れたところで、俺は風呂を抜け出す。
そして、何時ものテラスのベンチに腰を下ろすとのんびりと体を冷やす。
俺達が無事に帰ってきたから、何組かのチームは明日にでも出掛けるんだろうな。
今度は無事に帰ってきて欲しいものだ。
部屋に戻って、のんびりと夕食。
やはり、周囲を監視しながら食べるのとは違って、味わいながら食べられるのはありがたいな。
◇
◇
◇
アイネさん達は行動的だ。
今朝も朝食後には明日の準備をするといって部屋を出て行った。エルちゃんは通信機の練習といってシイネさん達と出掛けたんだけど、こっちの行き先はお風呂場の途中にあるテラスだろう。
そういえば、30人程が通信機の操作を習ったんだよな。あれから半年以上経つが、ちゃんと機能してるんだろうか?
女性陣がいないので、のんびりとパイプを楽しみながらそんなことを考えていると、扉を叩く音がする。
席を立って扉を開けると、見知った顔がそこにある。
「よう! 帰ったんだってな」
「レイクじゃないか。入れよ。皆出掛けてるんだ」
扉を大きく開けると、レイクの後ろに2人が立ってることに気がついた。
1人はミーネちゃんだが、もう1人は俺達よりも年上だな。
とりあえず、部屋に招き入れると炉の傍に座ってもらい、お茶を入れる。
手付きが怪しかったのか、途中からミーネちゃんに代わられてしまった。
「お前がレムルか……。メイヒム殿に仰せつかってレイク達の指導をすることになったドルムだ。此処には来れなかったが、アイネスという妹が一緒だ。レベルは青の6、何とかメイヒム殿の信頼に応えるつもりだ」
うわぁ……、とんでもなく真面目一本やりの人が指導員になってしまったぞ。
年齢的にはアイネさん達と同じ位だから、レイクにとっては兄貴感覚だろうな。
結構厳しい顔つきだけど、こういう人に限って根が優しいんだよな。
「レイク達もそろそろ地下に行けるレベルに成ってるでしょうが、如何せん4人のチームで弟や妹もいますから無理は出来ません。メイヒムさん達に、良い仲間を紹介して欲しいと頼んでいたんです」
「そういう訳だったのか。食堂でいきなりドルムさんに声を掛けられたんだ」
「2回程、迷宮に出掛けました。私達の実力に見合った戦い方を教えて貰いました」
「これで、安心だな。俺達にはクァルのお姉さん達が教えてくれるけど、レイク達は独学だから心配だったんだ」
「そうか……クァルの妹達がいたんだったな。ここで暮らしているのが分ればアイネスも喜ぶだろう」
妹さんとアイネさん達は友人だったのかな? せっかく村に帰ったんだから昔の友人の消息を確認しても良さそうな気がするが、当時の混乱は酷かったに違いない。友人が死んだという事と不明ではかなりニュアンスが違うからな。どこかで生きていて欲しいという気持ちがあるから消息を積極的に訪ねない行動に繋がってるんだろう。
「ところで、ドルムさんの得物は何ですか?」
「片手剣と散弾銃だ。パレトを使っていたのだが、どうにか散弾銃を手に入れた。こいつ等が持っていたのを見た時には驚いたがな」
「俺も散弾銃を使いますが、連合王国のハンターに迷宮ならば片手剣だと言われて迷ってたんです」
「兵隊ならば長剣も良いだろうが、生憎とこの村のハンターは魔物を狩る物が多い。必然的に通路で振り回せる片手剣になってしまうな。村の黒レベルで長剣を使う者はいない筈だ」
だけど、ユングさん達が片手剣のように使っていた剣はどう見ても長剣だったぞ。
まぁ、本人達にとっては片手剣として使ってるみたいだけどね。
「実は、レムルにお願いがあって来たんだ」
「分ってる。アイネスさんの銃の事だよな。兄貴が前衛で妹さんは後衛。たぶん個撃魔法と補助魔法を使うんだと思う。そうなると持っている銃はロアルもしくはハントだな」
「妹は白の4つ。言われるとおりの後衛だ。一応ハントを持たせているが、通常弾がいい所だ」
「なら、問題はありません。ロアルの強装弾が使える銃を提供します。射程は300D(90m)以内なら確実に命中します。ですが、散弾は使えません」
席を立つと部屋に言ってライフル銃を1丁と薬莢を一掴み手にとって、皆の所に戻った。
「これを妹さんに渡してください。使い方は、このレバーとこのレバーの目的が判れば直ぐにでも撃つ事が出来ます。そして、この銃の最大の特徴はカートリッジの装填なんです。銃口からではなく、このレバー操作で……。」
一通りの操作を教える。
薬莢も十数個あるから、しばらくは持つだろう。レイクの妹達にライフルを渡す時に薬莢を余分に渡してあげれば融通しあえるだろうし。
「良いのか? どう見ても金貨が必要な代物だが……」
「余分に作ったものですからお構いなく。それよりも過信はしないで下さい。それとレイク達をよろしくお願いします」
俺が頭を下げるのを不思議そうにドルムさんが見ていた。
たぶん、友人だけの関係でこれだけの援助をすることが理解できないんだろうな。
だが、レイクはこの村で数少ない友人で年齢も同じ位のハンターだ。出来るだけ便宜を図ってやりたいと思う。
それが、贔屓として映らないようにそれなりに俺の仕事を手伝って貰う、腹積もりもある。




