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N-096 嫌光性の魔物達

N-096




 大休憩を取って2回目の小休止の後に、地下2階へ下りる階段を見つけた。

 どうやら、この階段のある小さな広場で俺達は一眠りする事になりそうだ。

 ここまでに、リザードマンとフラウさんが命名したトカゲ人間と2度出会い、ミノタウロスとは1回出会っている。

 リザードマンは何とか俺達で集中砲火を浴びせれば倒す事ができたが、ミノタウロスは植物系なのもあって、ユングさん達が斬り伏せた。

 相手の動きを全く気にせずに近付いて両サイドから斬撃を繰り出してスライスにしてしまった。良く切れる長剣だとアイネさんが感心してたけど、俺はあの素早さで長剣を振るっても互いの長剣がぶつからない方が不思議だったぞ。


 広場の片隅に盾を並べ、その後ろでミイネさん達が夕食を作っている。

 盾の開いた場所にユングさん達が陣取っているから、迎撃体制は万全だな。

 アイネさん達は階段が気になるのか、さっきから盾越しに階段の暗闇を覗いている。ネコ族だから俺よりはずっと奥を見ているんだろうけどね。


 「……どんな感じだ?」

 「9割の調査を終了しています。このフロアの残りの区域はこの分岐路の先になりますね」

 

 「戻るのも面倒だ。偵察ロボットを使うぞ」

 「了解です。これ位の範囲であれば数時間も掛かりません。回収も可能です」

 

 フラウさんがバッグから袋を取り出すと、中から1匹のカブトムシを掴みだした。床に置くと、器用に足を動かして通路の奥へと姿を消していく。


 「この階の残りはあれで良いとして、階段の下が気になるのう」

 「色々といるようですよ。階段の下に集まりつつあります」


 それを聞いてアルトさんが席を立った。ちょこちょこと階段まで歩いて行くと、暗がりを覗き込む。


 「見えんのう……。だれぞ、光球を1個階段下に移動するのじゃ!」

 

 広場の片隅に2個浮かんでいた光球の1個が、するすると移動して階段の下に下りて行った。


 「ほう、逃げよるぞ。……光を嫌う種族らしいのう」


 階段下を覗きこんでいたアルトさんが呟いた。

 しばらく見ていたが、何も変化がないみたいでおもしろく無さそうな顔をして皆の所に戻って行った。

 しかし、光を嫌う種族って? ……モグラ位しか思い浮かばないな。


 夕食を終えると、アイネさん達はアルトさんを交えてスゴロクを始める。迷宮でスゴロクは余裕ありすぎなようにも思えるが、これもユングさん達のおかげだろう。

 そして、ユングさんとフラウさんはバッグから小さな金属製の箱を持ち出して、その箱から投影させる映像を見ている。

 面白そうなので、俺も見せて貰ってる。


 「これで、このフロアの地図は完成しました。後程、描きあげます」

 「回収に問題ないよな?」

 

 「大丈夫です。後20分程で戻ってきます」

 「そうすると、いよいよ明日は地下2階か……。かなり集まってるようだが、偵察に行かせるか?」


 「そうですね。階段下の小さな踊り場の先がどうなっているか位は確認して下りる必要があるでしょう。ですが、ロボットに気付いて破壊されてしまう恐れが高いです」

 「これを使う」


 そう言って、バッグからジュース缶のような物を取出すと、片手でお手玉を始めた。


 「スタングレネードだ。何かの役に立つかなと、持っていたんだが……。これを使う。爆発と同時にロボットを階段下に移動。周囲の確認後直に戻ってくれば破壊されることはないだろう」

 

 1時間程過ぎたところで、階段を前にしてユングさんとフラウさんが立っている。

 ユングさんはジュース缶を持って、フラウさんは大きなカブトムシの背中を鷲掴みだ。

 何が始まるのかとエルちゃん達は盾を両手で掴んで頭だけを出している。アルトさんも似た状態だから、スタングレネードを知らないのかな?


 ユングさんが後ろの俺達を振り返って口を開く。


 「でかい音と強い光が出る。相手をそれで一時行動不能にする爆弾だ。よく耳を塞いでおけよ。目も閉じていた方がいいかもしれない」


 俺達が慌てて耳を塞いだのを確認すると、ジュース缶に付いた小さなリングを引抜いて、ポイっとそれを階段の下に投げ込んだ。ユングさんが顔を背けると同時に、大音響と階段の下から強い光が小さな広場に広がった。

 フラウさんの手から、大きなカブトムシが高速で階段下に飛んでいくと直1分程で引き返してきた。


 カブトムシをバッグの袋の納めて、広場の片隅にユングさん達が歩いてくると、その周りを俺達が取り囲む。


 「何だ、見たいのか?」

 「勿体付けずに見せてやるがよい。あまり良いものではないであろうがの」


 アルトさんはそう言ってるけど、金属製の箱のまん前に陣取ってるぞ。

 フラウさんが箱を開けてキーボードのようなものをなぞると、仮想ディスプレイが現れた。更に何かの操作を行うとディスプレイサイズが大きくなる。

 

 「それでは、偵察ロボットの撮影してきた映像を再生します」

 

 そして、そこに映し出された光景は……。


 「何じゃこれは?」

 「気持ち悪いにゃ!」


 全員の顔に嫌悪感が現れる。

 そこにひっくり返っていたのは、甲殻類と軟体動物が合体したような大きな魔物と管虫のようなものだ。

 大きな魔物は甲羅を纏った蛸に近いのかも知れない。アンモナイトのように巨大な巻貝を背負った姿ではなく、水中での姿のままに体表面に甲羅をつけたように見える。鎧を纏った蛸といえばいいのかな。

 管虫は変形したムカデのようにも見える。ただ体節はなくミミズのような光沢を放った腕位の太さの管虫だ。側面に足のようにも見える鋭いトゲが並んでいるからムカデに見えるんだな。

 先端の丸い口にもトゲのような牙が口の中に向かって生えている。あれだと、口にしたものは逃げることができないだろう。


 「こちらを鎧ダコ。小さい方はスパイムと名付けます。」

 「チッ……。先を越された。」

 「これを見よ。鎧蛸はスパイムを食べるようじゃな」

 

 ユングさんの舌打ちに何か訳があるのかな?

 そして、アルトさんが指を指した鎧ダコの口からは1匹のスパイムが半分程顔を出している。

 

 「ふ~む。どうやら、スパイムが集まってきたので、それを捕食しに鎧ダコが集まったとみるべきだな」

 「じゃが、スパイムが集まる理由が判らぬ。奴らは光球で逃げ出したぞ」


 アイネさん達はスパイムが集まってきたのを感ずいたようだが、アルトさんはそれを見るために光球を階段下に入れたんだよな。そしたら逃げて行ったと言っていたから、光に集まってきた訳ではない……。ひょっとして、呼気?


 「さっきのスパイムをもう一度見せてくれませんか? できれば、頭部を拡大して……」


 ディスプレイにスパイムの丸い口が映し出された。

 口の周囲には沢山の繊毛が付いている。そして、短い触手も数本そこにあるようだ。

 たぶんこれが感覚器官なんだろうな。


 「これは推測ですけど、スパイムは俺達の呼気に反応して集まるんじゃないですか? 最初にアイネさん達がそれに気付いてます。俺達より暗がりが見えますからね。それで、光球を入れたらすぐに逃げ去ったのは、嫌光性の生物によく見られる反応です。そして、スパイムの体ですが、燐光を放っているのかもしれませんね。それを見ることができる鎧ダコがその後で集まってきたんだと思います」

 「確かに鎧ダコの目は大きいな。あれなら高感度カメラに匹敵するかもしれない」


 「ならば、通路を照らす光球の数を増やせば良いのじゃ。スパイムも寄って来ぬし、鎧ダコと出会っても目を眩ませることができる」


 一夜を過ごす為に、とりあえず新たに光球を2個作って階段を照らすことにした。

 ユングさん達に見張りを任せて俺達は毛布に包まる。

                ◇

                ◇

                ◇


 次の日。朝食を終えたところで、地下2階へ下りる準備をする。

 スパイム対策は散弾ということで、散弾銃に散弾の薬莢を詰めておく。ユングさんが俺に大型のライトを貸してくれた。沢山のLEDが付いている。試しにスイッチを入れて見るとかなり遠くまで照らすことができる。サーチライトみたいだな。

 

 「10時間は点けていられるぞ。昔手に入れたんだがあまり使う時が無かったんだ」

 

フラウさんは、もう1つライトを取り出すとアルトさんに持たせた。肩から提げているけど、あの散弾銃を打ったら、転んだときにライトを頭に打ち付けそうだな。

 全員がポケットの爆裂球を確認したところで、エルちゃんとシイネさんが光球を作りだす。

 前に5個で後ろに2個だ。

 エルちゃんが尻尾で光球を階段に沿って地下に導くと、その後ろからユングさん達が付いて行く。

 最後は俺とアイネさん達だ。周囲を見渡して、階段を下りて行くと、その後ろから2個の光球が付いて来る。


 小さな踊り場には左右に通りが続いている。

 そして左の通路の先が明るく照らされていた。左を選んだようだな。

 前方20m程の所に3個、10m程前に1個、自分達の真上に1個、そして俺達の後方約10m程に2個の光球が浮かんでいる。

 エルちゃんとシイネさんのおかげだな。かなり贅沢な光球の使い方だと思う。

 通路も森の中を進んでいるぐらいに明るく見える。


 相変わらず、先頭を行くアルトさんは躊躇無く分岐路を進んで行く。左、左と進んでいるな。

 迷宮の調査の方法は俺達と同じだから違和感はない。

 

 1時間程歩いて小休止を取る。

 床に腰を下ろして、水筒の水を飲みながらも、後方監視は怠らない。


 「詰まらんのう……。鎧ダコはおろか、スパイムすら出て来ぬぞ」

 「やはり、レムルの言う通りかもしれないな。嫌光性の奴が殆どなんだろう。だが、闇の奥には結構いるぞ。アルトさん油断はしないでくれ」


 「ほう、いることはいるのじゃな? なら、袋小路が楽しみじゃのう」

 

 目を細めながら楽しそうにアルトさんが俺達を見て呟いた。

 この人、絶対に戦闘狂だぞ。よくも明人さんが嫁にしたものだ。

 

 小休止を終えてしばらく進むと……。

 

 「ユング、大量じゃぞ。さて……これで良い!」

 

 ユングさんより数歩先を歩いていたアルトさんが突然立ち止まって、前方に爆裂球を投げた。

 ドォン!っという炸裂音がして、直にアルトさんが散弾銃を撃つ。ころころと転がるアルトさんをフラウさんがキャッチした。

 

 エルちゃんとミイネさんが銃を撃つのを羨ましそうにアイネさんが見てるけど、俺達には後方監視の重役があることを忘れないで欲しいものだ。

 

 「ここで行き止まりという訳か。だいぶいたな」

 「爆裂球で十分じゃな。向かって来る奴は散弾で倒せば良い」


 ほれ、って感じでエルちゃんに魔石を渡している。茶色の魔石だが品位は低そうだな。

 ちょっとした休憩を取って俺達は迷宮の調査を継続する。

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