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N-093 亜種ではなさそうだ

 「再度確認だ。俺達は地下1階と2階の調査を請け負った。これは地下2階までの地図作りを意味する。

 地図はフラウが作るから心配しないで良い。

 前衛は俺達3人が受け持つ。中間は魔法使いがいいな。後衛はレムルの方で3人を決めろ」

 「だったら、後衛は俺とアイネさんにマイネさんだ。中衛はどちらへも魔法で援護できるエルちゃんにミイネさんとシイネさんということで……」


 「まぁ、妥当な配置じゃな。ここでお茶を飲んで地下1階の階段まで急ぐぞ。フラウ、地図は大丈夫じゃな?」

 「問題ありません最短コースで向かえます」


 アルトさんが小さい体でシェラカップを持ちながらうんうんと頷いている。

 強いって聞いてるけど、大丈夫なんだろうな?


 お茶をたっぷり飲んで一息入れたところで出発だ。

 その時、アルトさんがバッグから取り出したのは、水平2連銃だ。散弾銃の先端を切ったような形でバレルが40cm位しかないぞ。あんなのを打ったら尻餅を付きそうだけど、背中によいしょって担いでいる。


 そして、ユングさんとフラウさんは短い槍を持っている。結構柄が太いな。あれで殴ってもそれなりに効果がありそうだ。

 

 ユングさんがいきなり、穴に飛び込んだ。その後を同じようにアルトさんを抱えたフラウさんが飛び下りる。数mの高さはあるんだけどな。

 俺達は慎重に梯子を降りていく。皆が降りたところで最後に俺が降りていく。


 「さて、隊列を揃えるぞ。……うん、それで良い。フラウ道案内じゃ!」


 アルトさんの元気な掛け声で俺達は歩き始める。

 ユングさんとフラウさんの1歩前をアルトさんが歩いて行く。何となく性格がわかってしまった。かなりのお転婆らしいぞ。今頃は、美月さん達がホッとした顔でお茶を飲んでるかも知れないな。

 先頭3人の数歩後ろをエルちゃんたちが歩いて、その数歩後ろが俺達3人だ。

 何時も先頭を歩いているアイネさん達は若干おもしろくなさそうな顔をしてるけど、殿は先頭と同じぐらい責任があるんだぞ。

 2つの光球が先行して、俺達の後ろ10m程のところをフワフワと1個の光球がついてくる。


 結構頻繁にアイネさん達が後ろを気にしているけど、早々魔物が追い掛けてくる事はない筈だ。

 驚いたことにアルトさんは、フラウさんの指示を聞きながら分岐路を左右の確認もせずに曲ったり進んだりしている。

 まるで、フラウさんには周囲の状況が見えているような感じだ。そして、迷わずに通路を進んでいる。エルちゃんが地図を見ながら確認していたが途中でその作業を止めてしまった。

 どうやら、間違えずに進んでいるので、自分の行為が馬鹿げてきたんだろうな。


 1時間程歩いたところで、俺達の前に地下1階に向かう荒削りの階段が現れた。

 余りの速さに呆然としている俺達に休憩をアルトさんが告げる。


 「さて、これからが本番じゃ。後衛の務めを忘れるでないぞ。そして銃にカートリジが入っていることを再度確認じゃ。手元に爆裂球は必携じゃぞ」

 

 それは大丈夫だ。それでも再度俺達は装備を確認して携帯用コンロでお茶を飲む。

 カップ半分位のお茶だが、気分を落ち着かせられることは確かだ。

 タバコを楽しんでるユングさんに疑問をぶつけてみた。


 「ユングさん達は周辺の魔物の存在が分るんですか?」

 「あぁ、分るぞ。今現在は生体探知機能と、動体探知機能を働かせてる。明かりが無ければサーマルモードで視界は確保できるし、小さなライトを使えば暗視モードで周辺を見ることも可能だ」


 やはり……。

 迷路なんか問題にならない機能じゃないか。たぶん、フラウさんはその上にマッピング機能を働かせてるんだろう。

 

 「どうですか。……やはり地下には魔物の気配がありますか?」

 「いや、全く無い。不思議な感じだな。もっとも、昆虫や水中の生物の感知能力は低いんだ。だから動体感知機能を追加してるんだが……。静かなもんだぞ」


 だが、青の高位のハンターを飲み込んでるのは間違いない。

 どこにどんな奴が潜んでるか分らないのが不気味だな。


 「さて、出掛けるのじゃ。地下1階で3時間程調査を行い適当な所で休息する」


 アルトさんがそう言って階段を降りようとしている。慌てて、エルちゃんが光球を階段を下ろして行く。


 そして順番に俺達が階段を降りていくと、いきなり道が左右に分かれている。

 何のためらいも無くアルトさんが左に曲がって進んでいく。その動きにあわせて慌しくエルちゃんの尻尾が動いてる。


 後ろの光球はシイネさんの担当のようだ。

 後ろも見ないで進んでるが、ちゃんと光球は俺達の後を付いてくる。


 「どうやらお客さんのお出迎えだ。アルトさん。次の分岐路の左20m先に大型の魔物がいる。数は1匹だな」

 「大型と言っても色々いるじゃろうが……。まぁ、良い。これで一発じゃ!」


 アルトさんが背中の短銃身散弾銃を外して抱える。小さく【アクセル】と唱える声が聞こえてきた。

 そうだろうな。あれをそのまま撃ったら絶対尻餅だと思うぞ。


 「先手必勝!」

 

 大声でそう怒鳴ると前方の分岐路に向かって走っていく。

 慌ててエルちゃんが分岐路に光玉を送り込み1つを左に向かわせた。

 そこに靴底をドリフトさせたアルトさんが左の通路に突っ込んでいく。

 

 ドォン、ドォン……。


 コロコロとアルトさんが分岐路を左から右に転がって行く。

 やはり、あの短銃身の散弾銃はあの体ではむりがあるよな。


 そして、次に右から姿を現したアルトさんの姿は成人の女性そのものだった。欧米人の体であのコンバットスーツはちょっと目の毒だぞ。

 

 再度左に走りこんで散弾銃を撃ったようだ。続けてガシャンと音がした後に空気を斬るような音が数回聞こえてきた。


 「温い魔物じゃ。今度はレムルに譲るのじゃ」


 そう言って左側から出て来たのは、幼女に替わったアルトさんだった。

 唖然とした顔で見ている俺達の所にやってくると、ほれ!ってエルちゃんに魔石を渡してる。

 

 「アルトさんは呪いで姿を今の格好に変えられてるんだ。解呪の魔道具を使うと、先程のように一時的に呪いを受けた時の姿に戻れるそうだ」

 「それも、大変ですね」

 「呪いを受けた当時は肉親も健在だったが、今は誰もが土の下だ。亀の中にも3人程眠っているがな……」

 

 ある意味、アルトさんが一番気の毒なのかな。

 明人さんや美月さん、それに前の世界の名前は知らないけれどユングさんやフラウさんは肉親を看取ることは無かった筈だ。

 だが、アルトさんはこの世界の人間だから、親や兄弟を看取ったに違いない。

 取り残されて生きるのは辛いだろうな。

 明人さんが、アルトさんをユングさん達と同行させたのも少しは分る気がするな。


 「さて、先を急ぐぞ!」


 アルトさんの言葉に俺達は再び歩き出した。

 左に曲った先にいた筈の魔物は既に床に吸い込まれてしまったようだ。いったいどんな奴だったんだろう?


 「何も追い掛けてこないにゃ。つまらないにゃ」

 「その内きっと来るにゃ。そしたら、ドカンにゃ!」


 俺の両隣は物騒な話をしているぞ。

 俺としては、出来るなら来て欲しくないな。

 

 「突き当りじゃ。今日はこの辺で終了じゃな」

 

 前の方からアルトさんの声がする。

 此処までの通路は横幅はあるけど、それだけだった。部屋や広場は無かったな。1階にはあったから、違う場所にあるんだろうか?


 「よし、此処で休息だ。フラウ、突き当りの壁を調べろ。アルトさんは簡易の壁を作ってくれ」

 「分ったのじゃ。ほれ、皆こっちに来るのじゃ」

 

 後衛の俺達が集まった所で、アルトさんがバッグから大型の魔法の袋を取り出した。それに入っていたのは、……何と、盾だった。木製の四角い盾で後ろに棒が付いているから並べて立てることができる。

 4枚を並べて即席の防壁が出来た。

 

 「これで一安心じゃな」

 「マスター、周囲の壁に異常はありません」

 「ありがとう。後は周囲の監視をよろしく頼む」

 

 そう言って障壁を背中にして座り込んだ。

 俺達も思い思いの場所に座り込む。

 早速、ミイネさん達が夕食を作り始める。その隣でもう1つの携帯コンロを取り出してエルちゃんがお茶を沸かし始めた。


 「さて、今夜だが俺とフラウで番をしているからのんびり寝ていて大丈夫だぞ」

 「そうじゃな。お主達がいるのじゃったな。だが魔物が出た時には……」


 「大丈夫、ちゃんとアルトさんから起こすよ」

 「なら、問題ないのじゃ!」


 要するに一晩中、ユングさん達が起きてるってことか?

 確かに睡眠は必要ないよな。それで、暇潰しのゲームって訳か。

 

 「出来たよ!」

 

 エルちゃんが皆にお茶を配り始めた。俺のカップはエルちゃんが持ってるから、バッグから出してお茶を入れてくれる。


 お茶を飲みながら一服を始めたユングさんに付き合って俺も一服。

 こういうのは1人じゃちょっとね。


 「何か静かですね。何故に青の高位のハンターが20人も消えてしまったのか理解に苦しみます」

 「これから少しずつ分るだろう。さっきアルトさんが倒した魔物だって黒の低位では苦労したと思う。4本腕の爬虫類だ。ラプターに似ていたがあれよりは大きいし、単独行動と言うのが気になるな」


 「ラプターの亜種じゃと思ったが、違ったのか?」

 「亜種と言うよりは進化種だと思う。それを亜種と言うのであればそうなんだろうが……」


 「前にグライザムの亜種を倒したことがあるが1度だけじゃった。母様が利用されているようなことを言うておったが……」

 「利用?」

 

 「ノーランド王国じゃ。いまはレイガル族の王国になっておるがのう」

 「すみません。お話を伺っていると、魔物を制御できる者がいるように思えるんですが?」

 

 「あぁ、そんな種族がいることは確かだ。だが、この迷宮の魔物が制御下にあるとは考えられない。アルトさん。さっきの魔物が消えた後、ニードルはありましたか?」

 「無かったのじゃ。針のように小さな物じゃが,一度しっかり見ておる。間違える筈もない」

 「ということだ。やはり、強力な魔物がこのフロアにいるという事なんだろうな」


 そんな所に、ミイネさんが夕食が出来たと知らせに来た。

 今日の夕食は野菜スープに食堂のお弁当だ。ハムサンドみたいな黒パンだが、この食事は明日の朝までだな。その後は薄いパンになる筈だ。


 夕食が終わるとエルちゃんはクァルのお姉さん達とスゴロクを始めた。早速アルトさんがそれに加わる。意外と気さくなお姫様らしい。



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