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N-092 同行者は俺達?

 昼食の習慣を忘れそうな気がするが、ちょっとした軽い食事をする習慣はあるようだ。

 ハンターとしては、なるべく1日2食で済ませたいものだが、やはりお腹は空くよな。

 ということで、ビスケットのような薄い塩味のパンをお茶で流し込んでいると、誰かがやってきたようだ。

 扉を叩く音にシイネさんが応対に出る。

 

 「よう、しばらくだな」

 「ユングさん達でしたか。あれ? 今回は3人なんですね」

 

 「まぁ、新兵を鍛えるのも飽きたからの。おもしろそうな依頼じゃから、ユングだけでは心配なのじゃ」

 「……と言う訳だ。明人も呆れてたけど、まぁ、頼りにはなると美月さんが言っていたのを信用して連れてきた」


 意外と苦労してるのかも知れないな。でも、見掛けじゃないことは確かなんだよな。どう見てもエルちゃんより小さく感じるんだけどね。

 

 「それでだ。……どうだ、俺達と同行しないか?」

 「いや、行きたいのは山々だが、青の高レベルでさえ誰も帰ってこなかったんだぞ。俺達が行けば足手纏いは確実だ」


 「大丈夫だ。俺とフラウがいるし、今回はアルトさんも同行している。単なる観光旅行だな。それに、俺達が調査するのは地下2階までだ。地下3階に降りる階段を見つけ、地下2階と3階の地図を作って終了だ」

 「行くにゃ! 1階と地下1階でそれ程魔物が変るとは思えないにゃ」


 ケァルのお姉さん達とエルちゃんはやる気満々だな。

 やはり、同行するしかないか。


 「という事らしい。同行するよ」

 「ならば、俺の方から頼みがある。俺達を含めて食料は10日分用意してくれ。そして、これは少し古いが役に立つだろう。大型の魔法の袋だ。荷車の荷物を纏めて入れることが出来るぞ。それとこれは必要だろう」


 そう言って、俺達が持っている魔法の袋の3倍程の大きさの袋と、布袋に入った、薬莢を渡してくれた。

 大きさが2種類あるのはライフル用と散弾銃用だな。

 

 「長老達はお前の意思に任せると言っていたから、後で連絡だけはしておいてくれ。明日の朝、広場の出口で待ってるぞ」


 ユングさん達はそう言って部屋を出て行った。

 

 「早速準備するにゃ。私とマイネは雑貨屋にゃ。ミイネとシイネは食堂に走るにゃ。エルちゃんとレムルは準備するものをもう一度確認するにゃ!」


 ケァルのお姉さん達は、それだけ言うと脱兎のごとく部屋を出て行った。

 俺は、特に無いと思うけどなぁ……。


 「地図を描く用具があれば良いですよね」

 「そうだな。でも、何が起こるか分らないからカートリッジは多目が良いだろうね。後は、お茶はあるの?」


 「一月分位は持ってます。ミイネさんが準備する時が多いんであまり減らないんです」

 「あの大きな袋をエルちゃんのバッグに入るのかい?」


 「ちょっと無理ですね。元々このバッグは小さいんです。私も雑貨屋に行ってきますね。大きめのバッグを1つ新調します」

 「なら……」

 「分ってます。タバコですね。ちゃんと買ってきますよ」


 俺だけになってしまった。

 俺の準備と言っても散弾銃とバッグ位なものだ。籠がまるごと入るなら背負う事も無いだろうし、槍ぐらいは持って行くか。

 長剣も持って行こうと装備ベルトの長剣を引き抜いてみる。結構、サビが出てるな。

 そういえば、貰ってから研いだことが余り無かったな。

 魔法の袋をごそごそと漁って砥石を取り出すと、ゆっくりと研ぎ始める。この世界では水を使わないんだよな。

 何か、ヤスリ掛けをしてるような気になるんだが、それでもサビが少しずつ取れていく。

 せっかくマイデルさんが俺達の為に作ってくれたものだ。大切にしなければバチが当りそうだ。

 30分ほど砥石で研ぐと、見違えるほど綺麗になった。それだけ切味も増していると思うな。

               ◇

               ◇

               ◇


 「準備は良いかにゃ! 忘れ物は無いにゃ!」


 アイネさんが勢揃いした俺達の前を行ったり来たりしながら、確認を取っていく。

 昨晩も皆で確認したんだから、忘れ物は無いと思うぞ。水や食料だって十分に持ってるはずだ。

 その上、散弾とスラッグ弾それにロアルの通常弾を大人買いしてきたみたいで、俺達の持っているカートリッジは40個以上ある。

 それを15個の薬莢に詰めて弾丸ポーチと散弾銃のストックに付けた弾帯のような革製のホルダーにも4発入れてある。

 背中に交差するように散弾銃を背負って、腰のバッグの下にはM29が収まってる。この格好なら、村の迷宮の地下2階にだって行けそうだ。

 

 全員銃を背負って、杖代わりの槍を持ったところで俺達は部屋を出る。

 エルちゃんは槍じゃなくて杖だけどね。


 途中であった人達が俺達の装備を見て驚いてるが、青の高位の連中が帰ってこない場所なんだから、少し位は重装備でも仕方が無いだろう。

 

 広場のある出口に着くと、ユングさん達が俺達を待っていた。


 「遅かったな。向うまで荷車で送ってくれるようだから、直ぐに乗れ」


 タバコを咥えて、俺達にそう告げたユングさん達の格好は……。

 黒のコンバットスーツに身を包み、背中には長剣を背負ってる。レッグホルスターにベレッタを入れて、反対側には2つのマガジンが収まってる。腰には俺達と同じようなバッグがあるが、小型の物だ。

 頭にはどっかの部隊のマークをつけたキャップを被ってる。

 ブーツも革ではなく、繊維質の編上げブーツだ。まるでどっかの特殊部隊そのものだな。

 だが、コンバットスーツが体にぴったりした素材だから体形が綺麗に出てるぞ。あまり見ないほうが良いだろうな。


 「あのう……その格好で行くんですか? 破れちゃいますよ」

 「これか? その心配は無い。革よりも10倍以上丈夫だし、伸縮性が良いんだ。今度、持ってきてやるからな」


 エルちゃんが心配そうに告げたんだけど、返ってきた返事は質問者の斜め上を行ってるな。

 

 そんな一件があったけど、俺達はガルパスの曳く荷車でごとごとと道を進んでいく。

 クァルのお姉さん達はユングさん達の銃に興味津々だ。

 ジッと見ていたから、ユングさんがホルスターから出して見せている。

 レールガンで火薬を使用していないと言っていたが暴発したりしないのだろうか? ちょっと心配だな。

 

 「そうか……。なるほど少し変ってるな。まぁ、変ってる魔物は色々いるから問題ないとしても、キメラは特殊だと思うぞ」


 俺達の調査で出会った魔物をユングさんに説明していたんだが、ユングさんは驚く様子も無い。もっと異質な魔物を相手にしたこともあるのだろうか?

 

 「マスター。その程度であればキメラとは言えないのではないでしょうか? どちらかと言えば遺伝子変異が疑われます」

 「魔物でも変異するというのか? そもそも変異種だぞ。……いや待て、2重変異をしたというのか?」


 「遺伝子変異ですか? でも、そのような変異を起こす元凶がこの世界にあるとは思えませんが?」

 「過去にあったんだ。世界の全生物がその影響を多かれ少なかれ受けている。その残滓が今でもあるとすれば可能性はなくはない」


 2重否定は肯定だよな。もう少し分り易く言ってくれればいいのにな。

 だが、そうだとすれば遥か昔に起こったと言う遺伝子変異の嵐が今もこれから行く迷宮内にあるということなのか?

 それなら、かなり危険な調査人なりそうだぞ。


 「少なくとも、その元凶となった遺伝子変異ナノマシンは自滅している。だが、その影響を保った生物もしくは魔物がこの中にいるのだろう」 

 「デーモンでしょうか?」

 「さぁ……だが、可能性は高いな。悪魔ということはないだろう」


 やばそうな名前を出して話しているぞ。

 確か数百万の単位でユングさん達が殺戮した相手の名前だ。

 将来の世界を掛けた争い、ラグナロクを人間側に有利にするために間引いただけだと言っていたけど、そんな危険な連中がエイダス島にいるというのだろうか。


 「偵察ロボットは何台持ってきた?」

 「5台持ってきました。順次投入を図れば、村の迷宮位は調査できます」

 

 ロボットなんて持って来てるんだ。もっとも、ユングさんとフラウさんだって無機生命体ともいえる存在だからな。

 どれだけ科学が発展してるんだか分らないぞ。


 「まぁ、それは休憩時間にでもやればいい。自爆装置は付いてるな?」

 「もちろんです。手榴弾を内臓しています」


 物騒な話をしているけど、大丈夫なんだろうな?

 そんな会話を聞きながらのんびりとタバコを楽しむ。

 そこにユングさんが俺に付き合って荷車の後ろに移動してきた。

 バッグからタバコを取り出すと俺の隣で一服を始める。


 「余り、気にするな。そんなことは明人達に任せておけばいい。俺達は調べるのが仕事だ。その調査結果をお前達も魔物狩りに使えるだろうし、俺達は人の将来のあるべき姿を模索できる」


 ユングさん達はそんなふうに考えて心の平穏を保っているのだろうか。

 死なない存在と言うのはある意味残酷な罰だと思う。

 ふと、隣でのんびりとタバコを楽しんでいるユングさんを見た。

 遠くを見ているような目だが、いったい何を考えているんだろう?


 「ん? 何だ」

 「いや、何を考えているのかなぁっと思って?」


 俺の言葉を聞いてユングさんは笑い出した。

 何か、おかしいところがあったのかな?


 「マスター。また、ゲームをしてたんですか? もうすぐ遺跡ですよ。一旦セーブして村に帰ってからにしてください」

 「あぁ悪い。ちょっと暇だったからな。……よし!セーブしたぞ」


 そうか、電脳内でゲームが出来るのか。羨ましい機能だが、格闘ゲームなら自分の能力が高すぎるからおもしろくはないと思うけどな。

 俺の気のせいかな。

 結構、今の暮らしを楽しんでいるようだ。たぶん仲間の存在がそこにはあるんだろう。

 生体の不死者としての存在である明人さん達と無機生命体のユングさん達は意外と良い関係にあるんだろう。

 俺が前に暮らしていた世界では、仲の良い関係にあったのかもしれない。


 そんなことを思っていると、俺達は何時の間にか遺跡へと来ていた。


 「此処で良いじゃろう。無理をせずに適当に依頼をこなせば良いんじゃ。今がダメなら、レベルを上げてまた来れば良い。若者は先があるくせに急ぎよる」

 「ありがとうございました」


 忠告はありがたく頂こう。

 エルナーお爺さんに礼を言って、迷宮の入口である大きく崩れた石畳の広場を目指す。


 石柱が建ち並ぶ中に、それを見つけた。

 前と変っていないな。入りやすいように梯子があるくらいだ。

 だが、この梯子を掛けた連中は未だに帰ってこない。

 迷宮の地階は1階とは比べ物にならないって事なのかな。




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