N-090 町を作るためには
結局、風呂場で新しい迷宮の顛末を話すことになってしまった。
問題は、次々とハンター達が風呂にやってきたことだ。
何度か、最初から話をすることになったが、流石にふろではねぇ……。
後は皆さんで検討してくださいと言い残して、俺とレイクは風呂を出た。
完全にのぼせる一歩手前だ。
軽く衣服をまとうと、通路の途中にあるテラスで風に当って体を冷やす。
「全く、あんな場所で言うからだぞ!」
「いやぁ、悪気は無かったんだ」
一服しながらもそんな会話が出来るのが嬉しくはある。
種族は違うけど、俺の同世代の男友達だ。これから長い付き合いになりそうだからなお互い気兼ねなく話せるのが一番だ。
「そういえば、エルちゃんが持ってたのは二連式の銃だったよな。あれは散弾銃にしては口径が小さかったように思えたんだが……」
「どちらかと言うとハントに近い。使うのはロアルの通常弾だよ。一応将来的には強装弾も使えるように丈夫には作ったつもりだ」
「誰に頼んだんだ?」
「連合王国の明人さんだ。たぶんもう作らないだろうと思うよ。俺達が使ってる散弾銃にしてもそうだ。あれはカートリッジの装填が早いだろ。あれも店には出回らないと思う。レイクに渡した散弾銃で満足してくれ、あれがこの国の軍隊で使ってる散弾銃の元になった奴なんだからな」
「あれがそうなのか! 見張り所に来た散弾銃を持った兵士の銃には全て番号が刻んであったが、俺達のには無かったのが不思議だったんだが、そういう訳か」
「妹のレベルはどれ位なんだ?」
「赤の8つだが……」
「レイクの妹とミーネちゃんの弟が白になったら、エルちゃんと同じ物を進呈するよ。少し余ってるんだ。だが所詮はロアル弾だ。力が付いてきたらパレトの拳銃も一緒に持たせた方が安心できる」
「確かにな。パレトの3粒弾はそれなりに使えるからな。だが、本当に俺達にくれるのか?」
「約束するよ。妹達にも伝えれば迷宮での魔物狩りに張り切るだろうが、無理はしないでくれよ」
そう言って、俺達はその場で別れるとそれぞれの部屋へと帰っていった。
まぁ、無理をしないで頑張って欲しいものだ。
ライフルが2人ならバックアップは安心だな。先制攻撃にも使えるから狩りに幅ができるだろう。それだけ迷宮を深く潜れることになる。
後は、仲間だがどんな奴が加わるかは楽しみだな。出来ればもう1人魔法が使えると良いんだけどね。
部屋に帰ると、俺がゆっくりしていたのか全員が揃ってる。
早速夕食を取って、のんびりと毛布に包まる。
ここなら安心して眠れるからな。明日はのんびりしていよう。
◇
◇
◇
ゆっくり寝たつもりでも、起きたのは何時もの時間だ。まぁ習慣となってるんだろうな。
朝食を済ませると、アイネさんとマイネさんは友人を訪ねて行った。エルちゃんは通信機の練習に出掛けると言い出したので、ミイネさん達と一緒に風呂に行く途中にあるテラスへと出掛けたようだ。
あそこは崖の張り出しなんだけど、そんな場所で通信が出来るかと疑問に思ったが、やってみなければ分らないからね。
そんな訳で、のんびりとお茶を飲みながら1人で時間を潰している。
エクレムさんやアルトスさん達は何をしてるんだろうな。
きっと他国からの侵略を防ごうと努力してるには違いないと思うんだけどね。
2杯目のお茶をポットから注ごうとしてると、扉を叩く音がした。
急いで席を立つと部屋の扉を開く。
「何だ、クァルの娘達はいないのか?」
「えぇ、皆出掛けてしまって俺が留守番です」
そんな会話をしながら噂をしていたエクレムさんとメイヒムさんを招き入れる。
客席に座った2人にお茶を出すと早速用件を聞いてみた。
「お前達の迷宮調査の結果だ。1階でキメラに会ったと聞いたが本当なのか?」
「はい、アイネさんがそう言ってました。サーフッドだと思うんですが、丸太のような胴体から次々とサーフッドが現れてきました」
「王都にあった迷宮の地下4階付近で稀に出る奴だな。倒せたのはお前達が散弾銃を多く装備していたからだろう。それに姫とミイネは魔法を使えるからな」
「レイクの妹も使えましたから、3人の一斉魔法で応戦してます」
「あれは青の高レベルでも難しい奴だ。お前達は確かにレベルは低いがそれを補う装備がある。……ふ~む、困ったな」
「白と赤のチームで1階を探査出来たなら地下1階は青レベルで良い筈だとハンター達が長老に言い出す始末だ。まぁ、分らなくは無いが無謀だな」
「地下は黒レベルと言われるハンターが調査すべきですよ。何が出るか分りません。俺達でも断わります」
「長老はそんな連中の中から2つのチームを作って地下の様子を探ろうとしている。一応、青5つ以上の者達でチームは10人以上。散弾銃を5丁以上持ち、爆裂球を1人3個持つことが条件になっているが、果たして何人帰ってこれるか心配していた」
「それで、大丈夫なんですか?」
「目的は、地下1階の魔物を調査することだ。お前達のように地図を作ることではない。敵わなければ全力で逃げろと言い聴かせておいた」
「ところで、新しい迷宮の調査を他国に依頼するのは問題がありますか?」
「それはない。現に村の迷宮の異常原因を連合王国のハンターに頼んだ位だからな。……レムルの考えは、あの娘達に依頼するということか?」
「はい、流石に明人さんは来ないでしょうが、ユングさん達なら……」
「ふむ、それは長老の耳に入れておこう。何れにせよ、明日出発する2つのチームの首尾によるだろうな」
タバコを1本取り出すと、炉の炭火で火を点ける。
確かに頼りすぎるのは問題だが、ハンターとして利用させてもらうならばそれ程問題にならないんじゃないか?
毒も傷もユングさん達には関係ない。
魔法は全く使えないと言っていたが、それを問題にしないだけの機能があるみたいだ。
「ところで、北と南はどうですか?」
「南は1個大隊が駐屯している。岩山の見張り所から上の見張り所にも、そこから兵士を派遣しているようだ。
北は、相変わらずだな。やはり最初から石で塀を作っているからだろうが、あちらには森が無いからな」
「ラクトー山には4分隊が点在して監視をしている。先ずは敵に先を越される恐れは無いだろう」
「だとすれば、残りは迷宮前から旧王都の郊外に出る間道ですね」
「そちらは、間道を直ぐたところの迷路を抜けた場所に詰所を作ってある。一応は、旧王都から迷い出て来た魔物を防ぐための設備だが、関所としても機能しているし、詰所にはハンターが10人以上待機している」
確か、通路の狭い場所に作ってあると聞いた事がある。
それなら、10人で十分守れるのだろう。
「一応、ラクトー山の東北部は俺達の版図と言えるだろう。国を興すのは大変だろうが、レムルが考えていると長老が言っていたぞ。どんな国にするのだろうかときょうみがあってな」
「まだまだ案にもなってませんよ。その前に、この村の東に町を作れないかと考えてました」
エクレムさんはメイヒムさんと顔を見合わせる。
お茶を一口飲むと、俺の顔を見詰めた。
「それは、早める必要がありそうだ。各国からネコ族の者達が迫害を逃れてやってきている。まぁ、噂を聞いて逃げ出してきた者が殆どではあるのだが、今の村にその者達を収容できるだけの部屋が無いのだ。
軍が村を離れているので、兵舎を住処にしてはいるがやはり不便であることに変りは無い。
いまなら、村の東に展開して休息している大隊の連中を使えるぞ。案を作って長老に示せば俺達が後を引き受けよう」
それも懸念事項ではあるんだよな。当初は俺達のように、レムナム王国やボルテム王国から陸路で逃れてきた者が多かったが、今ではサンドミナス王国やガリム王国からも連合王国の商船に便乗してやってきているようだ。
確かに洞窟の村では対処しきれ無いだろうな。
「町作りにどうしても必要な物があります。何とかして水源を探してください。村から港までは130M(20km)程ありますが、その途中で地下水が探せるかどうかで町が作れるかが決まります。それと、あまり地下水が出ない場合は村になってしまいます」
「確かにそうだな。……分った。それは俺達に任せておけ」
そう言うと2人は部屋を去って行った。
さて、そうすると町をどのように作るかが俺の課題になるのか。
だが、どのような町を作るかと言うと、おおよその形はラクト村を拡大すれば良いと思っている。
街道と農道で十字路を作り、中心部に村の主だった施設と商店を作れば良い。後は基本となる大通りに十字路を2つ程作れば両側に民家が並ぶ筈だ。民家の大きさをあらかじめ指定しておけば不満も出ないだろうし、農家は周辺部に設けて民家3件分を渡せば家畜だって飼えるだろう。
となれば、どれ位の大きさになるんだ? 当然町の防備も考えなくちゃならないぞ。
簡単な図面を引くと、改めて問題が出て来た。
家をどう作るのかという事と、町の防衛用の柵だ。丸太を並べると森が1つ消えてしまうんじゃないか?
そうなると、比較的手に入りやすい石で塀を築くことになる。
町を四角形に作るとすれば、1辺の長さが凡そ500m。2kmの石塀になるのか……。
そういえば、港の建設は連合王国の戦闘工兵の人達が石組みで作り上げたな。
町の外塀と、主要な建物の構築を依頼すると言う手もある。
先ずは、町の概略の図面を作るのが先だろう。
そう割り切ると、図版の上に町の略図を描いていった。
水場と風車による揚水システムを2箇所に作って町に簡単な水道を作る。
余った水は町の外に貯水池を作って農業用水にすれば良い。
暖房と調理に使う燃料も問題だ。将来的には近くに森を作らねばならないだろう。その森の大きさと配置場所も考える必要がある。
森が形になるまでの間は、薪を何処から持ってくるかだ。
南の森と言う手もあるが将来に残しておきたい気もするな。となると、これも商船で
運ぶと言う手も無いではない。
北国だから冬の燃料は死活問題だ。1年分は備蓄しておくことになるだろうな。
そんなことを考えながら図面を書き上げていると、エルちゃんたちが帰って来た。
にこにこしているところを見ると、ちゃんと通信機で連絡が取れたみたいだな。
「ちゃんと通信が出来たよ。向うはアルトさんがエルの通信を受けてくれた。中々上手に電鍵を打っていると褒められちゃった」
アルトさんと言うのは、明人さんのところに降嫁したというお姫様だったな。
明人さんのところは全員がモールス信号を理解出来るみたいだ。
「それでね、困ったことがあれば、直ぐに相談してくれって言ってたよ」
たぶん、俺達のことを心配してくれてるんだろうがそこまでしてもらって良いのだろうか? 先ずは自分達の手でやってみるのが俺としては良いと思ってるんだけどね。
「明人さん達は1万人が暮す町を1年で作ったって言ってたよ。何もない荒地に作ったんだって!」
「ただ、それを作ったらそれまでに貯えた資金を殆ど使ってしまって、商売まではじめたって言ってた」
そんなことを言ってたな。確かサマルカンドって名付けたらしいけど、明人さんもあまり良いネーミングセンスは持ってなかったからな。




