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N-086 新たな迷宮


 夏が過ぎて秋になる。

 とはいえ、ネコ族の村は洞窟の中だから季節感は余り無い。

 夏は涼しく、そして冬は暖かい。

 唯一、季節を愛でる事が出来るとすれば、風呂の途中にあるテラスと迷宮への途中にある大きなテラスだ。

 どちらのテラスからも紅葉した木々が綺麗に見える。

 

 港が出来て商館が整備された事もあり、村の店の品揃えがだいぶ良くなってきた。場合によっては商館への発注も出来るみたいだから、何時も店は賑わっているとエルちゃんが教えてくれた。

 そうなると、店を大きくするか、分店を出すかを考えなければならないだろう。

 長老は通路を挟んで反対側に新しく店を掘るようなことを言っていたが、意外と早く実行に移さねばならないようだ。


 そして、嗜好品も新たに入ってくる。酒場が出来て連日賑わっているらしい。

 もっとも、1人2杯の限定販売のようだ。それでも、迷宮帰りのハンターが大勢出入しているとエクレムさんが教えてくれた。


 少しずつ、村が大きくなっているが、洞窟であることに変りは無い。

 早く、地上に町を作りたいものだと地図を見ながら考える日々が続いている。


 「お兄ちゃん、何を悩んでいるの?」

 

 そんな俺を心配してエルちゃんがお茶を入れてくれる。


 「あぁ、どこに町を作ろうかと考えてたんだ。この村は洞窟だから、いずれ限界が来る。過ごしやすいことは確かなんだけどね。エルちゃんはどんな町に住みたい?」

 「緑に囲まれた町がいいな」


 「うん、確かにそうだね。でもこの周辺には緑が少ないんだ。薪だって遠くの森から運んでくるんだからね」

 

 とはいえ、今の得るちゃんの言葉には大事な事がある。やはりこの世界では薪や家そして家具と木材の需要は極めて高いのだ。

 となれば、森か林に隣接して町を作るか、それが出来なければ植樹することになりそうだな。

 

 トントンと扉が叩かれる。

 直ぐにエルちゃんが応対に出て行った。

 エクレムさんかな? 北の見張り所の建設状況を見に行っていたからな。


 「お兄ちゃん、長老様が大至急来て欲しいって!」

 「分った、直ぐに向かう!」


 急いで地図を図板の中に仕舞い込むと、エルちゃんを連れて部屋を後にした。

              ◇

              ◇

              ◇


 「それで、どのようなお話なんでしょう」

 「北東に古い遺跡があるのは知っておるじゃろう? そこに新たな迷宮が見つかったと連絡が入った。

 当然、我等が版図で見つかった以上、我等の所轄する迷宮になるわけじゃが、如何せん距離がありすぎる。1階の地図を作って欲しいのじゃ。迷宮の深さは分らぬが地下1階であればそれほど危険は無かろう」


 「新しい迷宮ですか……。他のチームを誘って宜しいでしょうか?」

 「報酬は銀貨30枚で良いじゃろう。編成はレムルの好きにするがいい。地下1階の地図とそこに住む魔物そして地下2階への入口を見つけてくれればよい」


 長老の言葉が終ると、世話役が小さな革袋を持ってきた。ズシリと重い。

 

 「そうじゃ、魔石手に入れたら税を納めれば残りは分配して良いぞ。なるべく早くに知らせて欲しい」

 

 俺達は挨拶もそこそこに、直ぐに長老の部屋を出て自分達の部屋へ走っていった。

 

 「……という事で、新しい迷宮の探索を請け負ったんだ。出来ればレイクを連れて行きたいんだが?」

 「構わないにゃ。シイネ、直ぐにレイクを呼んで来るにゃ!ミイネはエルちゃんと食堂にゃ。そして私とマイネは買出しにゃ!」


 あっという間に役割分担がきまったけど、俺の役目は無いんだよな……。

 1人でお茶を飲んでいるとシイネさんがレイクとミーネちゃんを連れて帰って来た。

 早速レイク達に用件をきりだす。


 「何だと! それじゃ、俺達も行けるのか?」

 「あぁ、一応依頼だから、1人銀貨3枚が貰える。そして迷宮で手に入れた魔石は売り払って税引き後に均等割りだ。調査範囲が地下1階だけだから余り魔石は期待できないぞ」


 「それぐらい構わないさ。そうか、最初の調査って訳だな。ミーネ大丈夫だよな?」

 「もちろん。クァルのお姉さん達が一緒だから心強いわ」


 俺達が準備品を話し合っているところに、アイネさんやエルちゃん達が次々と帰って来た。

 全員にお茶のカップが渡されると、早速打合せが始まる。


 「何が出るか分らないにゃ。カートリッジは多めに持っていくにゃ」

 「お弁当1人2食分を頼んできました。パンも1人5枚を今晩焼くことにします」

 「携帯食料は5日分です。水は大型水筒に入れていきます」

 

 「それで、地図作りは?」

 「エルちゃんとレムルが担当にゃ」


 「携帯食料が5日分でカートリッジは多めにだな。水は俺達も大型水筒を2つ持ってるから問題ないな。ミーネ、準備出来るか?」

 「帰りに雑貨屋に寄りましょう。お弁当は私達の分は入っていますか?」


 「大丈夫にゃ。妹弟達はパレトを使うのかにゃ?」

 「一応ロアルの劣化版を持たせてる。どうにかバリアントのコアを傷つけられる程度なんだ……」


 劣化版というのは、ロアルのカートリッジを使うパレトと言う感じらしい。豪華さは無く、無骨で使われている魔石もそれなりだという事だ。

 それでも、魔物の牽制には使えるし至近距離なら十分使えるってレイクが言っていた。


 「で、何時出発するんだ?」

 「明日の朝、広場に集合にゃ。荷馬車に載せて貰えるように頼んどいたにゃ」


 「分った。朝食もそれなら荷車の上で食えるな」

 「ちょっと待て! これが依頼金だ。前払いで貰ってる」

 

 席を立ったレイクに急いで銀貨を12枚渡すと、俺達に礼を言ってミーネちゃんと一緒に帰っていった。

 確かに荷馬車の上で食べられるな……、エルちゃんを見ると、俺の視線に気付いて軽く頷いた。


 アイネさん達が買いこんだカートリッジは1人当り散弾を6発、スラッグ弾を14発の20発だ。手元にあるカートリッジが20発近くあるから確かに十分な量だろう。後はこれにゃ、って言いながら爆裂球も1個ずつ分けてくれた。

 もちろんエルちゃんはライフルだから、パレト用の通常弾を20個貰っていた。


 野営用のシートや、毛布それに携帯用のコンロや薪それに炭や鍋だって必要だ。

 これは3つの籠に入れて、俺とミイネさん達が担いで行く。

 後は杖代わりの槍だが、エルちゃんは杖で十分だろう。

 準備が終るとミイネさん達が部屋の炉を使ってパンを焼き始めた。


 エルちゃんは俺の籠に図板を入れている。板を革張りにして10枚程の紙を挟んである。筆記用具も鉛筆が数本セットされているから、迷宮のマッピングには最適だ。革の細いベルトが付いているから肩に掛けて使用できる。

              ◇

              ◇

              ◇


 次の朝早く、俺達は広場に集まった。

 朝食は荷車の上でのんびり食べることにしたから、小さめの水筒には水でなくお茶が入っている。

 アイネさん達はさっさと荷車に乗り込んでるが、俺はエルナーお爺さんと一緒に広場の片隅でパイプを楽しんでる。

 

 「すまん! 遅くなった」


 大きな声で最初に謝ると、レイク達がやってきた。

 レイクとミーネが小さな籠を背負って弟達は杖を突いているぞ。

 

 「どれ、揃ったようじゃな。早速出発じゃ」


 レイク達が最後の荷車に乗ったので、俺も急いでエルちゃんの隣に乗り込んだ。

 エルナーお爺さんは、全員が乗ったことをもう一度荷車を見回して確認すると、先頭のガルパスに乗る。

 荷車はゆっくりと走り出した。

 結構揺れるので、籠の中から毛布を取り出すと、それを丸めて即席のベンチにする。

 

 ごとごとと揺れる荷馬車だけど、歩くよりは楽だし村の周囲の林を抜けると少し速度も上がってきている。

 古い遺跡の跡までは歩いて1日は掛かるのだが、このままで行けば昼頃には到着しそうだ。

 

 俺達は荷馬車の上でお弁当を広げる。

 レイク達も慌てて渡したお弁当を広げて笑みを浮かべているようだ。

 中身は何時もと同じなんだが、走る荷馬車の上で周囲を眺めながら食べるお弁当は迷宮の中で食べる食事とは少し味が違うような気がするな。


 港に向かう道を途中で左に曲がると、荒地が続いているが、その中に沢山の轍の跡が残っている。

 それを辿るようにガルパスの曳く荷車は進んでいた。

 

 殺風景な中に岩が点在し始めると、いきなり荷車の振動が収まってきた。どうやら、古い石畳の道を俺達は進んでいるようだ。


 「見えて来たにゃ。あれが遺跡にゃ」

 

 アイネさんの言葉に荷車の端を握って身を乗り出して前を見る。

 乱立する岩が石柱のようにも見える。その石柱群が遺跡なんだろうか……。


 そして、荷車が停止した。

 急いで飛び下りると、エルちゃんを下ろしてあげる。籠を背負って、荷台をもう一度見渡して忘れ物が無いことを確認すると、エルナーお爺さんに礼を言った。


 「何ぁに、ちょっとした寄り道じゃ。それより、迷宮へ行くんじゃろ。余り無理はしないようにな」


 そう言ってガルパスを来た方向に向けると引き上げていった。

 俺達はエルナーお爺さんの姿が見なくなるまで見送ると、遺跡の中に足を進める。


 確か長老の話では、目印に柱に印を付けてあると言っていたが、どの柱なんだろう?

  きょろきょろと辺りを見渡して遺跡の奥へと進んでいく。


 「お兄ちゃん。あの石の柱に布が巻いてあるよ!」


 エルちゃんの指差す方を見ると、確かにちょっと汚れた布が石に巻き付けられていた。

 皆でその石の柱に近付いて行くと、20m四方位に渡って石版が地面に綺麗に張られていた。

 その中心を少しはずれた場所に大きな穴が空いている。

 

 「真四角に空いてるな。そしてあれは階段だぞ!」


 どうやら、この迷宮は封印されていたようだ。何らかの原因で封印した天上板が折れて崩れたようにも見える。


 「こっちから中に降りられるにゃ」

 アイネさんが崩れた穴を覗き込むようにして俺達に教えてくれた。


 「どうやら、これが迷宮への入口みたいだな。少し早いが此処で昼食だ。そして迷宮を探索する」


 俺の言葉に皆が頷くと、背負っていた籠を下ろして携帯用コンロに火を点ける。

 ポットには水が入っているから、炭に火が付いたところでポットを載せた。


 もしゃもしゃとお弁当を食べるけど、これからのことを思うと皆の目がともすれば先程の穴に向いてしまう。

 俺と同じで皆もハイになってるんだろうな。何といっても、ネコ族では俺達が最初に入ることになるからな。


 食事が終ってお茶を飲み始めても、やはり目が其方に行く。

 こういう時は落ち着きが大事なんだが……。


 「やはり、興奮するか?」

 「それはそうだ。だが、やはり落着かねばと、こうしてパイプを吸っているんだが……」


 「俺もそんな感じだ。だが、やはり用心するに越した事は無い」


 そう言って俺もタバコを1本取り出した。

 2つの心のせめぎ合い……。少なくとももう少し落着いてから迷宮へ向かおう。

 全員が浮き足立っていると、とんでもないことになりそうだ。エルちゃんもいるし、レイク達には妹や弟がいるんだからな。



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