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N-084 大きなグラッグ

 ドォン、ドォン……。

 通路に散弾銃の発射音が響き渡る。前衛の3人が後ろに下がり、急いで薬莢を交換している間に、エルちゃん達が近付いてくるガルバン目掛けて銃を撃つ。


 散弾銃の10連射で通路に放たれた直径5mm程の散弾の数は50個だ。最低でも1個は当ってる状況だぞ。

 それでも近付いてくる奴はエルちゃんがライフルで狙撃してる。


 ガルパンが床に溶け込むように姿を消した後には、赤と、茶色の魔石が残っていた。


 「赤は中位にゃ。茶色は残念にゃ」


 アイネさんが残念そうな顔をしてエルちゃんに魔石を渡してる。

 6匹で2個なら残念じゃないと思うぞ。それに、散弾のカートリッジの消費が半端じゃない。

 30個は持ってきたが、残りは10個を切っている。そろそろ迷宮を出ることになりそうだ。


 携帯用の炉でお茶を沸かすと、そろそろ帰ろうかと言うことになる。俺はもちろん賛成だ。

 どうやらアイネさん達も、残りのカートリッジが心配になってきたようだ。

 

 「4人で分けて1人7発にゃ」

 

 心配そうに言うもんだから4人に1発ずつ分けてあげる。

 アイネさん達は嬉しそうだけど俺は残りが4発になってしまった。まぁ、M29が使えるからそれで補完しよう。


 1階に上がる階段を目指して歩いて行くと、先頭を歩いていたアイネさんが突然立止まった。

 

 「次の広間に何かいるにゃ! 大きいにゃ。散弾を抜いてスラッグ弾に詰め換えるにゃ!」


 何だ? 俺が持ってきたのは全て散弾だから、M29で相手をすることになりそうだ。


 「数倍の大きさのグラッグがいるみたい。シイネ姉さんの光球を食べようと大きな目玉を動かしてるのが見えた!」

 

 エルちゃんが様子を見てきてくれた。

 グラッグの皮膚は弾力があるからな……。スラッグ弾を弾くことは無いだろうが余り深い傷は作れないかもしれないぞ。


 「レムル、どうするにゃ?」

 「ミイネさんとエルちゃんで【メル】を1発ずつ。この通路に誘い込めば少しは動きを制限できるでしょう。そこへ爆裂球を2個叩き込んで様子を見ましょう。シイネさんとエルちゃんは誘い込んだら後ろを警戒してくれ」


 俺の言葉に全員が頷く。

 咄嗟の作戦だが、俺を全面的に信用してくれるのがありがたい。

 誘いこんで叩く。こんな闘いのやり方も何時の間にか覚えてしまった。

 

 エルちゃん達が通路の端まで行くとグラッグに火炎弾を投付けて素早く後ろに下がる。

 アイネさんが一瞬炎に包まれたグラッグを前に通路から身を乗り出した。

 爆裂球を手に持って、おいでおいでをしているけど……みんなハラハラして見ているぞ。

 自分に【アクセル】を掛けて身体機能を上げる。

 グラッグの攻撃は前足の毒を持つ爪と長く伸びる舌だ。粘着質の舌で獲物を捕らえ暴れるようなら爪で切り裂く……。それがグラッグなのだが、この大きさだとそのまま口に運びそうだぞ。エルちゃんはともかくアイネさんでさえ一飲みにしそうな口だ。


 「来るにゃ!」


 アイネさんが通路を下がってきた。俺達も10m位後ろに下がる。

 前衛担当のアイネさんとマイネさんが、爆裂球片手に広場から15m程のところでグラッグを待ち構えていた。


 のろのろとした動作でグラッグが通路に現れる。

 ちょっとでかすぎるぞ。殆ど通路が塞がってしまうじゃないか!


 「今にゃ!」


 アイネさん達が爆裂球を、グラッグに投付けると足元に転がっていく。俺達はその場で身を屈めた。


 爆裂音がくぐもって聞こえたのは、上手く爆裂球の上にグラッグが体を載せていたからだろう。

 爆煙が消えると、腹の一部を大きく傷つけて、内臓がはみ出しているグラッグの姿が見えた。


 素早くアイネさん達がスラッグ弾をその傷口に撃ちこんだ。

 グラッグは苦し紛れに長い舌をところ構わず伸ばして俺達を威嚇している。


 「エルちゃん奴の目を潰せるか!」

 「やってみる!」


 アイネさん達が散弾銃を構える後ろで膝撃ち姿勢を取ると、ドォンっと2発の銃弾を放つ。


 「片方だけだった!」

 「それで十分だ。これで俺達との距離が分らない筈だ。また、後を頼むよ」

 「どうするにゃ? まだまだ元気にゃ」


 アイネさんが後ろに下がっていくエルちゃんを見ながら俺に聞いて来た。

 確かに、余りダメージを感じていないみたいだな。生物なら腹を裂かれて内臓を破壊されればそれで致命傷だ。だが、相手が魔物だとそうもいかないようだ。


 「後はあの口に爆裂球を投げ込んでどうなるかですね。口の奥は脳に近い場所です」

 

 とはいえ、意外と奴は口を開けない。舌を伸ばす時と引っ込める時の僅かな時間だ。

 アイネさん達は自分達を囮にしてその僅かなチャンスを作るつもりだな。だとしたら、俺も手伝わないと……。

 背中の長剣を抜いて壁際に待機する。万が一の時には介入できる位置だ。


 爆裂球を投げるタイミングを見計らっていたマイネさん目掛けてグラッグの長い舌が一瞬に伸びた。思わず体を背けたマイネさんの背中にベタリと張り付く。

 

 「チェースト!」

 気合を入れてマイネさんに伸びた舌に向かって長剣を振り下ろす。

 まるで、丈夫なロープを切断したような手応えを感じたが上手く舌を切断することができた。


 血を撒き散らしながらのたうつ舌を引っ込めようとしてグラッグが口を開けると、それをジッと待っていたアイネさんがグラッグの口の中に爆裂球を投げ入れる。

 条件反射的に口を閉じたグラッグの口の中で爆裂球が炸裂すると、残った目玉が飛び出した。鼻の穴と口の端から煙が出ている。


 そして、ドシン!っと音を響かせて通路にその巨体を崩した。

 巨体が融けるように通路の床に溶け込んでいく。

 どうやら、倒したようだな。


 「あったにゃ! 白の中位にゃ」

 

 アイネさんは姿を消したグラッグのいた場所から魔石を回収してきたようだ。

 マイネさんの背中に張り付いていた舌先も何時の間にか消えていた。

 それでも、気になるのかエルちゃんに【クリーネ】を掛けて貰っているぞ。


 「さて、先を急ぐにゃ!」


 アイネさんの号令で俺達は迷宮の出口に向かって歩き出した。

              ◇

              ◇

              ◇


 「それは災難だったな」

 

 迷宮での出来事を訪ねてきたエクレムさんとレイミーさんに話しているのはエルちゃんだ。

 アイネさん達は、カートリッジと爆裂球を仕入れに行っている。何があるか分らないから、何時でも出掛けられるように準備をしているらしい。


 「まぁ、俺もあの大きさのグラッグは始めてみましたよ。また、前回のようなレベルに合わない魔物が出るようになったのでしょうか?」

 「そうではない。所詮グラッグなんだからな。少し上位の魔石が手に入るから、むしろ歓迎すべきだと思う。それに対処出来ないお前達ではあるまい」


 と言うことは、大きいのもいるってことか?

 俺達の装備も少し考えなくちゃならないぞ。


 「余りいないことは確かだ。俺もこの歳までに遭遇したのは2度だけだ。全く遭遇せずにハンターを廃業する者だっているぞ。

 まぁ、その話は風呂にでも行けば皆が話してくれるだろう。聞きたがる輩も多いからな。

 それで今回の訪問だが、お前が頼んだ話だ。例の農業指導の件だが、俺とアルトスは賛成だ。長老達は原則賛成だが条件を1つ付けた。ネコ族であること。そしてその指導員がこの地に定住する事も認めると言っていたぞ。

 何と言っても、連合王国を作ったともいえるスマトル大戦を勝利に導いた者達の子孫だ。未だにその士気は高いと聞いている」


 「規模については何も言っていなかったのでしょうか?」

 「中隊規模までなら問題ないだろうと言っていたぞ。レムルは1小隊を考えていたようだから俺が伝えなかっただけだ」

  

 「となると、来年の春先ですね。食料と住居は此方で用意することになるでしょう」

 「北の石塀作りの宿舎が使えるだろう。……食料はそうなるな。何も作れそうも無いが、彼らなら何とかなるかもしれない。それに上手く軌道にのれば、ネコ族の者達にもそのやり方を教えて貰えそうだ」

 

 「上手くやれたらではなく、最初から彼らと行動を共にするのです。教えて貰うのではなく、自ら学ぶ姿勢が大事です。ネコ族の村から有志を募って、その数に見合う部隊を移民させるべきでしょう。屯田兵に開発を頼むのではなく、一緒に開発するという気概が必要になるでしょう。屯田兵も俺達の一員になるんですから」

 「そうだな。それは俺も失念していた。改めて皆で話し合ってみる」


 それからは、南の森のその後を教えてくれた。

 岩山の上に作った2つの見張り所には2分隊ずつ駐留しているそうだ。

 そして3中隊が南の柵に駐留しているらしい。


 「大隊1つは村で休息中だ。残りの中隊と傭兵部隊は北の石塀を作っている。北の海までは完成したらしい。今は山の斜面に向けて塀を伸ばしているそうだ。 

 そして、港の見張り所……いや、あれは砦だな。その引渡しをしたいとユング殿が伝えてきた。

 あの規模なら中隊は必要だろうが、常時は1小隊で十分だと言っていた。商人達の私兵も期待出来ると言っていた。できれば港の運営を任せて欲しいと言っていた。それで小規模ながら船を攻撃する船を置けるとも言っていたな」


 港に入る船を臨検出来るようにしたいんだろうな。

 ある意味、治外法権だが俺達には助かる話だ。

 この場合は租借地になるのかな。一定期間を貸し出しするという考えで良さそうだ。そして、期限が来たらそこでまた考えればいい。


 「土地を連合王国に貸し出すという考えも出来ます。ユングさんもしくは美月さんと連名であれば、期限が来た時に再度話し合いが持てます。土地を手放す訳ではありませんし、俺達に港の運営ができるとも思えません。

 彼らに港を貸してその運営手法を学ぶのも方法でしょう。当然、港を守るのは彼らの義務になりますから軍も駐留するでしょう。ですが、あの港はユングさん達の作った見張り所と関所がありますから、少ない人員で大軍を相手にする事も可能です」

 「それは俺も理解出来る。港を貸してもあの砦を失わない限りこの村に攻め入ることはできない」


 ユングさんはそれを考えて、頑丈な石作りの見張り所を作ったのだろうか?

 攻めるための将来の布石なら、もっと違う形になるはずだ。

 我が意を得たりって感じでエクレムさん達は帰って行ったけど、他国の情報が気になるな。

 特に、ガリム王国のその後が気になる。上手くレムナムの背後を脅かしているのか、それとも内海を隔てたサンドミナスとにらみ合っているのか……。

 まぁ、変化があれば長老が教えてくれるだろう。

 

 

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