表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/177

N-083 屯田兵

 汲み上げポンプが既存の技術だとは知らなかった。たぶん明人さん達が連合王国の技術を相当底上げしているような気がするな。

 俺も、ネコ族の技術を発展させることに努力すべきなのだろうか……。

 

 そんな俺とエルちゃんをユングさんが微笑みながら見ている。

 その微笑はかつて友人から見せてもらった写真の姿とは少し違うように見える。何となく、感情がこもっていないような、表面だけの微笑みに見えた。


 「あまり深刻に考えない方が良いぞ。使えるものは、人でも物でも利用すべきだ。俺達や明人達なら魔石は幾らでも手に入れることができる。

 だが、それをどう使う?俺達には魔石は必要ないんだ。明人は利用方法を模索しているようだが、それは試験目的であって大量に魔石を必要とするものではない。

 そして、魔石が取れる場所は限られている。

 連合王国の近辺諸国では、エイダス島の3つの迷宮が有名だ。その内の1つをお前達が握っている以上、連合王国の商人達はお前達に便宜を図ってくれる。何故だか分るか?」


 一口、お茶を飲んで頭を整理してみる。

 正直、ユングさん達が援助してくれるのは同郷のよしみと言う奴だろう。それは俺も期待したいところだが、この世界の住人しかも商人達が協力してくれるのは意味不明だ。……待てよ。昔、原油の供給量を制御して原油価格を上げたと歴史の先生が話していたな。それと同じことか?

 魔石の安定供給を目的として協力してくれているのか?


 「それは、魔石ですか?」

 「30点だな。それでは商会と交渉すればいいようにあしらわれるぞ。いいか、商人達が便宜を図るのは、お前達の争いによって魔石を算出する迷宮を破壊されるのを恐れているんだ。

 パラム王都の迷宮を破壊したおかげでエイダス島全体の魔石取引量は半減している。ここで万が一、ネコ族の村の奥にある迷宮が破壊されれば取引量は1割を切るだろう。そしてその中には中級以上の魔石は極稀になる筈だ。

 エイダス島の住民達に必ずしも魔石が必要とは思えない。無くてもそれなりに生活できる筈だ。だが、連合王国では少し事情が異なるんだ」


 供給元を破壊できる者が支配者と言う原理かな。

 確かに、魔石が無くとも大きな問題は生じない。銃は仕えないけど、あの銃ではねぇ……。

 獣は罠で狩れば良いし、農業や漁業で大部分の島民は暮らせるのだ。

 だが、ネコ族となると事情が異なる。

 俺達の版図は島の中で一番農業に適さない。大きな森も無いのだ。

 ある意味、魔石で食べているようものだ。その供給が途絶えると言うことは、俺達が戦に負けた時、敵に迷宮を渡すことが無いように破壊するという事態だろう。それを商人達は恐れているということか。


 「一度破壊された迷宮の機能を、元に戻すことはできないんでしょうか?」

 「無理だ。美月さん達が一度それを考えた事がある。だが、迷宮の隠された制御部にあったのは人間を元にした生体部品だった。部品そのものの寿命は時間を止められているから無限に動く。あれなら人体実験の方が遥かにマシだ。

 そして、それを破壊した途端に迷宮から魔物が溢れ出した」


 現状維持が一番という事か。しかし、どこにそんな迷宮の制御部があるんだろう?

 迷宮の最深部なのかな? ユングさん達は其処まで到達してるんだよな。あのときの異変だって対応してくれてるし……。


 「私達は商売で利益を得るだけでは他者に何時かは追い抜かれる。とのブラザーフォー創設時代の遺訓を常に自分達に言い聞かせています。

 ここに、1冊の資料があります。我等の商う商品目録です。この中の品をお売りする上では、連合王国の許可は要りません」


 「そして、商会の商いには連合王国の元老院の許可がいる。明人が一枚かんでいるから、明人が良しとするなら問題なく販売はできるぞ。例のライフル銃は商会経由で散弾銃はデリムが担当した。それでおおよその見当がつくだろう?」


 悪戯っぽい目で俺を見る。

 と言うことは、商会は政府直属の商人と言うことになりそうだ。

 頭の固い連中じゃないことを祈るばかりだな。

 

 「さて、デリムとの話は以上で終わりか?」

 「そうですね。農業技術の指導員を派遣していただけると助かります。できればネコ族の人をお願いします」


 「その話は、商会の人達とお話した方が宜しいでしょう。その前に、ネコ族の人達は移民を受け容れられますかな?」

 「確かに一度長老達と確認して置いたほうがいいな。農業技術の指導となれば、屯田兵達が適任だ。彼らの一部を家族ごと移住させて農業の技術を伝えるのも手だろう」


 屯田兵だと! 軍隊組織じゃないか?

 どんな政策を取ればそんなことができるんだ。

 

 「小隊規模が望ましいが、分隊規模なら直ぐにでも移民が集まるだろう。一度協議してみてくれ。

 まぁ、俺達の話は此処までだ。宿舎に案内しよう」

 

 フラウさんが俺達を宿舎の1室に案内してくれた。

 ツインのベッドルームだな。まるでホテルみたいだぞ。


 「地下水を汲み上げる方法って、もうあるんですね」

 「あぁ、俺も吃驚したよ。たぶん明人さん達が試行錯誤しながら作ったんだろうけど、広く広まってるんだね。それが商品化されてるのも驚きだ」


 「私達で使えるんでしょうか?」

 「そのために指導員をお願いしたんだけど……、屯田兵を移民させるって事荷なりそうだ」


 「初めて聞く言葉でした」

 「あぁ、そうだと思うよ。屯田兵は開拓と防衛を行なう特殊な兵隊だ。何時もは農業をしてるんだけど、命令があれば銃を取って兵士として従軍するんだ。開拓した土地は自分達で使う場合もあるし、民間に安く払い下げられる時もある」


 単純な農業指導員ということは難しそうだな。

 軍隊組織の指導員はネコ族の人達にどう映るだろうか? できれば移民として受け容れて欲しいものだが、他国の軍務についていた者を簡単に受け容れる訳にもいかないだろうな。


 翌日、朝早く起きた俺達は窓から見える港の風景に驚いた。

 港は殆ど完成している。

 商館は木造だと聞いていたが、石作りの立派な2階建てだ。港に面した壁の長さだけでも10mは越えているぞ。

 倉庫は下の中に埋もれるようにして作られていた。奥行きがどれだけかは分らないが、まだ3ヶ月も経っていない筈だ。

 戦闘工兵の築城能力とはこれ程までに高いのか?


 港から伸びた桟橋には2艘の帆船が停泊して荷物を朝早くから倉庫に運んでいる。

 今年の秋あたりからは市場が無くなってこの港で年中取引が行なわれるのかも知れないな。


 朝食を知らせに来た兵士の後に付いてユングさん達の待つ大きなテーブルに着く。


 「だいぶ出来上がりましたね。戦闘工兵の能力には驚くばかりです」

 「まぁな。実際はフラウが同行しているから早いんだ。崖の岩をレーザーで切断してブロックを作りそれを並べる。戦闘工兵はトラ族が多いからな。力仕事は問題ない」


 レーザーでブロックを作るのか。道理で早いはずだ。

 どう見ても人間にしか見えないんだけど、オートマタだって言ってたよな。人間を遥かに越えた性能なんだろう。

 そんな姿でこれからもこの星と共に生きるのだと思うとちょっと気の毒に思える。

 

 「やはり、この体は異質に見えるか? だが、慣れてもらわねばな。俺達は明人の所属するハンターチーム『ヨイマチ』とは違うチームだ。『マキナ』という3人のチームで活動している。

 行動には、美月さんの意思を確認してはいるが、あくまで参考だ。基本的には明人達より遥かに自由に行動している。

 更に、もう2つのグループがいる。動くことは無いから俺達のアドバイザー的な存在だが、アルマゲドンを生き残った、ユグドラシルとバビロンの電脳だ。俺達の前には神官や巫女の格好をして出て来るからおもしろいぞ。

 お前の俺を見る目でだいたいの考えは分る。

 だが、俺達は信頼できる仲間達がいるんだ。決して孤独な存在じゃない。

 だから、お前も俺達を気にせずに利用することを考えろ。

 美月さんは、慕われた者に頼まれれば否とは言わぬ。言うとすれば明人だな。だが、あいつは義侠心に溢れた奴だ。

 お前がやろうとしていることは、大まかに理解している筈だ。それがどうしても自分達の力でダメな時は、迷わずに明人を頼れ」


 「分りましたその時には、ユングさんに連絡します」

 

 俺の応えがおもしろかったのか、フラウさんが微笑んでる。

 俺の精一杯の強がりだったがユングさんは理解してくれたかな?

 ちょっと苦笑いをしているぞ。


 ユングさんがフラウさんに小さく頷くと、フラウさんが部屋の片隅からバッグを運んで来た。

 

 「中身は大型の魔法の袋だ。エイダス島の地形図と地図が入っている。それに、小型の通信機だ。商館に伝送器を設置するから、一月後にはそれが使える。何時でも俺達と交信が可能だ。故障したら商会に持ち込めばいい」

 「いいんですか?」


 「あぁ、俺達もユグドラシルとバビロンの電脳には世話になった。科学的知識がある者なら2つの電脳はその問いに応えてくれるだろう。

 外で、ガルパスが待っている。荷車だが歩いて帰るよりは楽だぞ」


 俺達は改めて2人に礼を言って、港から引き上げることにした。

 ガルパスが曳く荷車は穀物の袋が満載だ。

 この取引はしばらく続けられるんだろうな。自給が出来るのは遥か先になるのかもしれない。


 荷車は何時もの出入り口とは別な場所から入る。ここは、兵の訓練場所にもなるところだな。

 ガルパスを操る御者に礼を言って荷車から降り、自分達の部屋へと引き上げる。


 通信機は、一月は使えないと言ってたな。とりあえず、操作説明書をエルちゃんに読んでおいて貰う。

 無線機なんだが、トランシーバではなくて電信なんだもんな。。俺には無理だけど、モールス信号の通信機を習ったエルちゃんなら使いこなせるだろう。


 そして、2人で長老の部屋に行く。

 何時もの席に座ると早速、ユングさんとの話を聞かせた。


 「すると、この地で農業を始めるための指導員を送ることを了承したというのじゃな」

 「はい。ただし、問題が1つ。やってくる指導員は屯田兵という軍の一員です。ネコ族という要求には対応してくれるようですが、10家族という事でした」


 「屯田兵の逸話は聞いておる。普段は農業をしているがイザという時には兵士として戦に向かう。初期の屯田兵はその半数が命を落としたと聞いたぞ。連合王国の防御の要じゃ」

 「ネコ族であれば村に迎えても問題ないじゃろう」

 「じゃが、アルトスやエクレムの意見も聞いてみることも必要じゃろう」


 基本賛成だが、後の問題もありそうだと言うことらしい。

 その辺は、長老達に任せよう。

 俺はその後のことを考えてみようと思う。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ