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N-081 4カ国の情勢


 奇襲を意図した部隊は敗退し、新たな部隊はそのまま引き返して行った。

 浮き足立った敵軍に散弾銃でアウトレンジ攻撃を行なうのは、ちょっと卑怯な気もしないでは無いが、此方の兵力が少ない以上、他の方法が考えつかない。

 元住んでいた俺達の世界でさえ、兵器の性能が対等と言うことは殆ど無かったからな。ある意味これが戦なのかも知れないな。


 せっかく来たのだからと、ジェイムさんが中隊全員に石運びを指示したので、大量の石が見張り所の工事現場に積み上げられた。

 そして、今回役立った塹壕と柵も整備をしてくれる。何れやらなければと思っていただけにありがたく思う。


 「今回もサンドミナス王国の侵略は失敗しましたな」

 「余りにも作戦がお粗末です。どんな連中が指揮しているのかと思うと行く末が逆に心配になりますね」

 「それはどういうことです?」


 大きな天幕を作り、その中に組み立て式のテーブルを囲んだ俺達は、見張り所作りを部下達に任せて、今回の戦を振り返っていた。

 そして今、俺の言葉にセリーネさんが疑問を口にする。


 テーブルに広げたエイダス島の地図を広げて今回の戦とその後の力関係について自分の考えを話しはじめた。


 「ボルテム王国とレムナム王国の戦はボルテム王国の王都を廻る戦に成っています。未だ王都が健在なのは、ボルテムを背後から守るサンドミナス王国の存在です。ですが、前回と今回の戦でサンドミナス王国の軍勢は少なくとも3大隊以上の損害を受けています。

 サンドミナスの兵力はどれ位だと思います?

 俺は、精々5大隊。戦があれば、徴兵して3大隊程を編成するのではないかと推測します。これは各国の人口が10万前後と仮定した兵力です。

 そうなると、サンドミナスは何も得られずに兵力の三分の一を削られたことになりますね。

 これは、国王の大失態になります。国民の不安、亡くなった兵士の家族への補償……。全て国庫から出さねばなりません。少なければ民衆が不満を募らせて治安が悪くなるでしょう。

 となれば、ボルテム王国への派遣部隊を縮小してサンドミナス王都に戻す動きが出てきます。

 その時、ボルテム王国はレムナム王国の攻撃に耐えられますか?」


 「ふむ、確かに懸念される事態じゃな。だが、我等には積年の恨みがある。ボルテム王国の滅亡は皆に歓迎されるだろう」

 「でも、そうなると、レムナム王国がエイダス島の覇者になります!」


 どうやら、セリーネさんは理解したようだな。


 「それが問題です。何れ雌雄を決することになるでしょうが時期が早すぎるのが心配なんです。ボルテム王国は何れ滅びることは間違いありません。

 レムナム王国はボルテム王国を滅ぼした後に、矛先をどこに向けるか?

 旧パラム王国の迷宮を版図に含めるために軍を東に向ければその側面を突ける位置にいるサンドミナス王国が邪魔になります。

 ボルテム王国の次ぎはサンドミナス王国に向けてレムナム軍は動くでしょう。ですが、こんな戦をするような指揮官では簡単にサンドミナスは落とされます」


 「サンドミナス軍の指揮能力が低いので我等の準備が間に合わぬと……」


 驚いて口を大きく開けたままジェイムさんが俺を見た。

 それに頷くことで俺は応える。

 

 「全くもって驚かされる。そこまで情勢を読み解くのか……。アルトス様が、信用する訳だ。俺でさえ、今回の戦で敵の指揮官が無能だということは理解できる。だが、其処までだ。せいぜい次の戦はそれを利用できるだろう位の考えしか持たぬ。それを数年後を見据えて考えを廻らせるのか。全く大した知恵者だ」

 「1人で1個大隊の働きをするとは聞いていましたが……、まさか、それ程とは」


 評価してくれるのはありがたいが、本来これ位の長期的な状況整理は何処の国でもやっていると思うぞ。そして、それを裏付ける為の諜報戦もあるんだよな。

 これはちょっと不可能だろう。

 何と言っても正直がとりえのネコ族だ。スパイは無理だよな。

 となれば、その情報源は商人と言うことになるだろう。商人は商いのために各国へ立ち寄る。当然酒場等で噂を聞くこともあるはずだ。それを集めて解析できる者達を育てるのも必要だな。


 「失礼します。アルトス様より書類が届きました。レムル様宛です」

 

 兵士が俺に1通の書状を持ってきた。

 兵士がその場に立っているということは、返事を必要とするのかな?

 

 書類に目を通すと、皆を連れて村へ帰還するように書かれていた。


 「村への帰還指示です。俺達が引き上げても大丈夫でしょうか?」

 「先程の話の通り、問題はないでしょう。我等がこの地に見張り所を作ります」

 

 そう言って、俺に握手を求める。


 「アルトスさんに直ぐに戻るよ伝えて下さい」

 「はい。了解しました」


 兵士はそう言って天幕を出て行った。

 

 「では、申し訳ありませんが、先に村へ帰還します」

 「後は我等が……。レムル様、期待しておりますぞ!」


 ジェムスさん達全員が席を立って俺に向かって右腕を胸にかざす。

 俺も同じように答礼すると天幕を後にした。


 アイネさん達は、少し斜面の上の方で周囲を見張っていた。

 敵軍が敗退したとはいえ、特務任務を帯びた兵士が俺達を襲う危険はまだ残っている。

 俺が其処に行った時も、数人の兵士を伴って周囲を警戒していた。


 「レムルじゃないか! 俺達に新しい任務が下りたのか?」

 「いや、そうじゃない。村への帰指示がアルトスさんから下りた。これから直ぐに戻ることになるぞ」


 「見張り所はどうするにゃ?」

 「ジェイムさんが請け負ってくれた。中隊を使って一気に仕上げるつもりだ」


 それなら……、ということで急いで帰り支度を始めた。

 といっても自分達の天幕を畳んで毛布を籠に入れるだけだ。その籠をレイクが担げば準備完了と言うことになる。


 別れの挨拶は先程代表で済ませたようなものだ。

 アイネさんが一緒に監視していた兵士に後を頼むと、俺達は北に向かって歩き出す。

 昼前の出発だから、村に着くのは夜になってしまうな。


 そんなことを気にするのは俺だけみたいで、少しずつ山の斜面を降りて行った。

 やはり、道の方が歩き易い。

 それでも、適当に休みながら歩いていくと、村の出入口がある林に着いたときにはすっかり日が落ちていた。

 ミーネちゃんが【シャイン】で光球を作り、俺達はその明かりで林を進む。

 

 村の出入り口の番人に入口を開けて貰って中に入ったのは夜中の10時を回っていた。

 レイク達と分かれて、慣れ親しんだ自分達の部屋に辿り着いたら、エルちゃん達が驚いていたぞ。


 それでも、俺達が食事をしてないことを聞いてミイネさんが食堂に走っていく。

 シイネさんとエルちゃんが早速ポットでお茶を沸かし始めた。


 「お兄ちゃん達の仕事は終ったの?」

 「何とかね。また皆で迷宮に行きたいけど、エルちゃん達の勉強は済んだの?」


 「ちゃんと試験に合格したよ。私達は全員合格したけど、大人の人は10人いなかった。それ程難しいとは思えないんだけど……」


 とりあえず、良かったねってエルちゃんに告げたけど、やはり大人になってモールス信号を覚えるのは難しいってことだな。それでも数人は確保できた訳だ。見張り所に優先的に配置されるのかな?

 そして、比較的安心なハブ的存在になる通信所には子供達がいれば何とかなるだろう。

 ん? ……ハブを考えなかったぞ。これは早急に相談しなければならない。


 「エルちゃん達の習ってたことって何にゃ?」

 「え~とね。これなの!」


 そう言ってバッグからカンテラモドキを取り出した。

 茶筒の横にコップを付けたような形だな。レバーがコップの付根に付いておりそれを上下することで内蔵されたシャッターが開閉する。レンズも着いているから、ある程度光の拡散を抑えられるようにしてあるようだ。

 

 「それは、貰っても良かったの?」

 「うん。合格した人に1個ずつ貰えたよ。エル達に教えてくれた人もエルと同じ位の子供だった」


 連合王国の通信事情もモールスが標準という事らしい。

 ユングさん達は無線機を使っていたけど、あれもモールスだったな。もっとも、そう見せ掛けているだけなのかもしれない。

 俺達に簡単に技術供与をしてくれる位だからな。

 だが、これで、5W1Hの情報を伝達することができる。これはエイダス島始まって依頼の軍事技術だ。上手く使えば少ない兵力で敵に対応出来るようになるぞ。

 

 そんなところに、ミイネさんが鍋を運んで来た。

 早速、夜食を頂くことにする。

 簡単なスープとパンの夕食だが、ようやく無事に帰れたと思うと、それだけで美味しく食べられる。

              ◇

              ◇

              ◇


 アイネさん達に迷宮での狩りの準備を頼んで、長老の所に状況説明に出掛ける。一応話しておかないと、長老達も安心できないだろう。

 扉を叩いて中に入ると、いつもの長老の左側の席に着いた。

 

 俺の前にお茶が運ばれるのを待って、長老達に戦の状況を伝える。


 「おおよその話はアルトスからの伝令に伝えて貰った。確かにしばらくは攻めて来ぬじゃろう。わし等もレムルと同じ意見じゃ。

 しかし、その後のことを考えるとは流石じゃのう。恐れ入る限りじゃ」

 「ちょっと微妙な状況になってきました。出来れば魔石取引の際に商人達からの情報を得られないかと……」


 「それは、我等が考えよう。得た情報をレムルに伝えれば良いのじゃな」

 「今のところは。……そして、防備を固める良い機会でもあります。エルちゃんに聞いたところでは、大人数人を含めて30人程が通信機の操作を覚えたようです。四方に通信所を作り、それらを結ぶことで万が一の事態をいち早く伝えるような方法を構築することが可能になってきました。

 そして、もう1つ。兵員を迅速に戦の場へ送り届ける交通手段が必要です。2個中隊を短時間で輸送する手立てを考えねばなりません」


 「前の通信網じゃが、後でレムル達の部屋に使える者を行かせよう。そして後者の輸送じゃが、馬車とソリが使えそうじゃな。それはアルトスに任せればよい。しばらくは休むが良い。少なくとも3日は部屋におるのじゃ。その後は迷宮で狩りに励むも良いじゃろう。ただし、5日を一区切りにするのじゃ。迷宮に出掛ける前にわし等に一言あれば、ガルパスで送らせよう」


 「ありがとうございます。それで、港の状況はどのように?」

 「半分は出来上がったらしい。商館2つに宿が1つ、それに倉庫3つを同時に立てていると報告が来ておる。港の監視所と関所は来月にも完成とのことだ。中隊規模で派遣することになりそうじゃな。

 それと、例の書状だが……。やはりおもしろいことになって来おったぞ。やはり、ガリム王国は絡んでいなかったらしい。だが、ガリム王国の港で例の書状が渡されたこと憤っておったそうじゃ。

 疑心暗鬼に2つの王国を見据えている。これでガリム王国が即刻参戦する事はないそして、徴兵を行なったと聞く。これは2つの王国時からの侵略を危惧し始めたと言って良かろう。意図した王国からすれば薮蛇じゃったな」


 これも俺達にとっては都合の良い話だ。

 来年には何とか地上での暮らしを始めることができるようになるかも知れない。


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