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N-080 戦の行方


 時計は午前1時過ぎだが、濃いお茶のせいか眠気は起きない。興奮しているのかも知れないな。

 曲り部からやってきた伝令が敵の接近を確認したと言っていた。距離を4M(600m)と言っていたから、戦端が開かれるのは時間の問題だろう。


 突然、遠雷のような音が聞こえてきた。銃声に爆裂球の炸裂音が混じって聞こえて来る。

 副官の2人が早速様子を見に出掛けた。


 「始まりました。ここまではまるで予言のように当りましたが」

 「俺は、預言者じゃありませんよ。可能性として高いものを選択していった結果です。ですがこれからは……」


 「我等の力量次第ということですかな。それは見ていただきたい。我等の勇猛さは広く知られています。敵の状況がここまで分っているのですから、後は我等の仕事です」

 「後は、この南を見張る兵士を増やしておいてください。来ないとは思いますが、万が一です」


 直ぐに、1人の兵が走っていった。

 後は、結果を待つだけだが、1個大隊対3中隊だからな。それほど大きな戦力差ではない筈だ。

 俺達には遮蔽物があるが敵にはそれがない。まして、夜だ。……半月があるとはいえ、ネコ族の夜間視力には敵うまい。


 銃声が絶え間なく聞こえる。そして、思い出したように爆裂球の炸裂音だ。

 それは一定のリズムを刻んでいるようにも聞こえる。小隊単位で統制射撃をしているのだろうか。その合間に聞こえる銃声は、接近した敵兵を狙撃しているのだろうか……。


 天幕を跳ね上げて1人が入ってきた。

 

 「敵全軍と交戦中です。最初の攻撃で倒れる敵兵多数。後退するも現在両軍の距離は300D(90m)程しかありません。突撃を数回撃退しております。味方の兵に大きな損害はありません」

 「ご苦労。手に負えない場合は直ぐに連絡するのだぞ!」


 ジェイムさんが厳しい顔で伝令に伝える。

 今のところは順調だな。


 タバコを吸い始めた時、銃声の数が減ってきたのに気が付いた。

 不審な顔を見とがめたサリーネさんが口を開く。


 「10発を放った銃はバレルの掃除をするんです。一斉にそうするわけにも行きませんから分隊ごとに5回に分けて行ないます。半数ごとにやっているように見せ掛けるために銃声が激減しているんです」


 確かにフリントロックみたいだからな。バレルにゴミが溜まったら厄介だ。

 

 「それと、持っている弾数にも限度がありますから、膠着状態になったら、撃つのを控えるように指導しています」

 「それで、何発持っているんですか?」


 「標準で30発ですが、各自数発は余分に持っている筈です」

 「膠着状態での発砲は弾丸の浪費ですからな」


 まぁ、そんなもんだろう。ある意味のんびりした戦だな。

 そんなことを考えていた俺達の所に、1人の男が飛び込んできた。


 「大変です。森から更に敵軍が現れました。光球を多数使って兵員を集結中です」

 「ご苦労さま。移動を開始したら待て連絡してくれ。人数を送れないがよろしく頼む」


 男は俺に頭を下げると、直ぐに引き返して行った。

 

 「ジェイムさん。至急、アルトスさんに伝令を出して散弾銃を装備した部隊を2小隊派遣して貰ってください。1隊をエクレムさんの所に、もう1隊はあの曲がり部に配置します」

 「分った。おい……」


 副官にメモを書かせてそれを脇で読んでいる。


 「うむ、それで良い。早速伝令を走らせろ!」


 副官が天幕を出て行くと同時に、全員が俺の顔を見る。


 「そんな顔で見ないで下さい。援軍が少ないと思っているようですが、散弾銃の部隊は強力です。敵を200D(60m)の距離なら確実に捉えられます。そして有効射程は300D(90m)はありますから、敵の突撃の出鼻を挫くことが可能です」

 「それで、押し寄せる敵を殲滅できるのだろうか?」

 

 「無理でしょう。あくまで敵の士気を低下させることができるだけ、と考えるべきです。ライフルなら何とかなりますが余りにも数が足りません。連合王国もその危険性を知っているようです」

 「となれば、最後はこれとこれになるわけだな」


 ジェイムさんはそう言って爆裂球を取出し、片手で腰の片手剣を叩いた。


 「そうなります。できれば白兵戦は避けたかったんですが……」

 「何、それこそ軍人の本望。銃を持つようになって兵士が剣の使い方を昔ほど、真面目に学ばなくなっていたが、やはり最後は剣の勝負になるのだな」


 そんな話をしていると、何時の間にか銃声が散発的になっている。

 その銃声は聞き覚えがあるな。あれは散弾銃の音だ。


 「たぶん、全軍の兵士がカートリッジを詰め終わって突撃の合図を待っているんでしょうね。後続の軍が来ていることを彼らは知っているんでしょうか?」

 「後続の軍が到着するのに3時間は掛かるでしょうから、夜明け前後になると思います。その前に突撃するのであれば、敵軍に内部対立があると考えられます。このまま後続を待つのであれば、統制はできていると考えるべきです。この場合は激戦になりますよ。覚悟を決めてください」


 「前者ならば、どうなるの?」

 「援軍が来る前に突撃、我等に蹴散らされて後続に逃げ込むでしょう。大混乱になりますね。たぶん再攻撃は断念して森に帰る筈です」

 

 「おもしろい。敵の内部事情までが後3時間ほどで分るのだな?」


 パイプを煙らせながらジェイムさんが笑っている。

 

 「とりあえず、3時間以内に突撃があるかも知れないことを部隊に告げておけ。もし無かったら覚悟を決めろとな。我等が兵士の士気を維持するには適切な指揮所からの伝達だ。良いも悪いもない。末端の兵士が我等を信頼に値するか否かを判断するための材料だ。何も指示が無ければどんどん不安になる」


 そんなことを俺達、いやサリーネさん達に教えているようだ。実際の現場で教えてくれるんだから、身に滲みて分かるんだろうな。


 「後、3時間ですか……」


 サリーネさんがお茶のカップを握り締めてぽつりと呟く。

 

 「そうだ。だが、……どちらになるかはレムル様は知っておるのでは?」

 

 ちょっと微笑を浮かべてジェイムさんがパイプを俺に向ける。

 それに釣られて皆が再び俺を見詰めてきた。

 

 「あくまで俺の考えですよ。結果はもう少しで判ると思うんですが……」

 「構わん。聞かせてくれ」


 バッグからパイプを取り出してタバコを詰める。焚火の燃えさしで火を点けると、一服しながら俺の疑念というか、気になることを話し始める。


 「俺が気になっているのは、何故2個大隊を同時に使わないのかと言うことです。さすがに2個大隊を動かせば奇襲は強襲になるでしょう。ですが、その方が作戦上は有利なんです。

 2個大隊の攻撃では流石に3個中隊では無理があります。たちまち蹴散らされるでしょう。

 ですが、あえて敵は1個大隊を先行させた。

 これは、奇襲を掛けるという点で理解出来るのですが、数時間をおいてもう1個大隊を派遣するのは軍略を知らなすぎます。

 では、何故にこんな順次投入をするのかを考えると、作戦というより、大隊を指揮する者の器量ではないかと考える次第です。

 若い指揮官が戦功に釣られて先走ったのが現在戦闘継続中の大隊。そして後続の大隊はそれに遅れてなるものかとやってきた大隊、若しくは若者を救出しようとかってでた歴戦の指揮官……ではないかと。

 その違いは進軍に現れます。同じく戦功を争うものなら後続の部隊に気が着いた時点で突撃してくるでしょうし、後者なら3M(450m)程の距離を取って見守るでしょうね」


 「それでは今の敵軍は、後1回の突撃で終るかもしれないということか?」

 「そうです。既に敵軍の兵は3割以上失っている筈です。援軍も得ずに、もう1回突撃したら半減ではすみません。指揮官は更迭されますよ」


 「たぶん処刑されるでしょうな。独断専行で兵を半減させたら国王とて黙ってはおられんでしょう」

 「となると、本当の戦は後続が来てからということになるな」


 「そして、森からも敵兵が飛び出します。まさか1個大隊が足止めされているとも知らないで大規模な陽動が行われる筈です」

 「結果的に裏をかいたつもりがその裏をかかれたことになりますね」

 「はい。ですから、アルトスさんは2個小隊なら此方に派遣できるんです」


 その2個小隊が散弾銃だというのがミソだ。続けて2回撃たれたら敵はどう思うだろうか?そして更に接近すればハントの的になる。

 更に近付けば爆裂球の餌食になり、爆裂球を投げようとする者は狙撃される。


 それでも、退却しなければ白兵戦だ。

 数十mを懸命に走ってきてた者が、冷静に剣を交えられるだろうか?

 どう考えても、返り討ちに合うのがオチだろうな。


 しばらく、黙ってお茶を飲む。

 時間が経つのが遅く感じられるな。

 パイプで時間を潰そうと考えていたところに、兵士が1人駆け込んできた。


 「散弾銃を装備した3小隊が到着しました。エクレム様の陣に2小隊、此方に来た1小隊は屈曲部に配置完了です」

 「ご苦労。散弾銃は小隊に任せると小隊長に伝えてくれ!」


 兵士が帰っていくのを見て、俺にジェイムさんは顔を向ける。

 

 「1小隊多いですな。これはアルトス様が敵の攻撃を陽動と見ているということですな」

 「柵から森まで2M(300m)、途中には2重の杭の列。3個大隊が同時に突撃しても耐えられますよ。ましてや、2Mの距離を飛ばせる爆裂球があるのです。森から軍勢が顔を出した段階で叩かれますよ。

 問題は、防備する距離が長いのが難点ですが、此方に2大隊を回すのならば、残りは多くて3大隊と言うところでしょう」


 突然、銃声が鳴り響いた。

 蛮声が低く聞こえてくる。


 「どうやら、前者でしたな。……久しぶりに剣が振るえると期待しておりましたが……」

 「と言うことは、後続の軍は同じ穴の子犬と言うことですね?」


 残念そうなジェイムさんと、ホッとしたようなサリーネさんの顔が対照的だ。


 「えぇ、これでこの戦は終わりになります。まぁ、今日ぐらいは睨み合いでしょうけどね」

 

 兵士がまた天幕にやってきた。


 「敵は敗走して後続の部隊に飛び込んでいます」

 「散弾銃を持つ小隊に狙撃を命じてください。それで敵の前進が止まります」


 俺の指示を復唱して兵士が去っていく。


 「追撃を遠距離攻撃が可能な銃で行なうわけですか」

 「はい。敵は此方の銃の数は分りませんから。多大に評価してくれますよ」


 俺の言葉に、皆が笑い出した。

 

 再び、お茶のカップが配られると、一応にホッとした表情でお茶を頂く。

 何時の間にか夜が明けて朝日が戦場を照らしていた。




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