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N-008 小屋作り 2nd

 まだ大鍋を買い込んでいないから、パーティ毎に食事を作る。

 チタン鍋にシェラカップ2杯半の水を入れて焚火にかける。食後のお茶用にポットに水を入れて火の傍に置いておく。


 「鍋が煮えたら具材を入れてしばらく煮込めば出来上がりなの」


 サンディが保存食の食べ方を教えてくれた。

 具材を計量カップで測って鍋に入れると、出来るまでの時間を利用してエルちゃんと水筒の水を補給しに泉に向かう。

 

 「はい、2個とも一杯だよ」

 「ありがとう。俺達の水筒は小さいから、村に戻ったらもう一つ大きな奴を買いたいね」


 リスティナさん達は、5ℓ程の大きな水筒をルミナスが持っている。その上で各自が小さな水筒を持っているから、料理するには問題ないが俺達は2人とも0.8ℓ位の水筒だ。お茶を飲むには問題ないが料理するにはちょっと不足するな。


 焚火の所に戻ると、サンディが俺達の鍋を掻き混ぜてくれていた。


 「ありがとう。焦げ付かせる所だったよ」

 「そうね。でも私達の鍋のついでだから礼には及ばないわ」


 そう言って、焚火から2つの鍋を下ろして一つを俺達の前に出してくれた。

 鍋からシェラカップにスープを取り分けて先割れスプーンを添えてエルちゃんに渡す。

 エルちゃんがバックから硬いパンを取り出して俺に1枚渡してくれた。

 確か、スープに浸すと柔らかくなるって言ってたな。

 2つに折ってスープの中に入れると、冷めるのを待つ。

 エルちゃんも俺の真似をしてスプーンを持ってジッと待っている。

 

 「さぁ、頂きましょう」

 

 リスティナさんの言葉に俺達はめいめいのカップを持って食事を始める。

 始めて食べるスープはちょっと塩味が足りないような気がするけど、干し肉から結構ダシが出ているな。

 固いパンもふやけて柔らかくなって食べ易い。

 

 「今夜は、交替で焚火の番よ。最初は、私とサンディそれにエルちゃんで番をするから夜半からお願い。日の出で交替すれば、朝食までは寝ていて大丈夫よ」

 

 食事が終って、お茶を飲んでいる時にリスティナさんが俺達に告げる。

 夜は俺とルミナスで番をする事になるんだな。

 リスティナさんに頷くと、早速バッグからポンチョを取り出して焚火の近くに横になった。

 エルちゃん達は3人いるから大丈夫だろう。イザとなれば、3人とも銃を持っている。それを撃てば幾らなんでも目が覚める筈だ。

 

 女性達3人が焚火を囲んで小さな声でおしゃべりしている声を子守唄に、俺は何時の間にか眠ったようだ。

               ◇

               ◇

               ◇


 「お兄ちゃん、起きて……」


 体を揺すられる感触と小さな声に俺は目を覚ました。

 そこには眠たそうな目をしたエルちゃんが俺の肩を揺すっている。

 

 「あぁ、起きたよ。今度は俺の番だね。此処で寝るといいよ」 

 そう言って、ポンチョをエルちゃんに譲る。


 「それじゃぁ、お休みなさい」

 小さな声で俺に言うとポンチョに包まると丸くなる。

 焚火の傍に行くとリスティナさんが熱いお茶を入れてくれた。


 「もう直ぐルミナスも起きると思うわ。」

 

 そう言って焚火の反対側を見ると、サンディがルミナスの体をガタガタと揺すっている。すっかり熟睡してるみたいだな。

 それでも、しばらくすると眠そうな顔をしてルミナスが焚火の傍にやってきた。

 熱いお茶はやや渋めだ。

 俺達はそれを飲んで眠気を吹き飛ばす。


 「それじゃぁ、後をお願いね。」

 「大丈夫だ。任せてくれ」


 ルミナスの言葉に俺も頷く。

 そんな俺達を見て、安心したような顔をするとリスティナさんは焚火を離れて横になる。

 後は、俺達2人で朝まで番をする事になるんだな。

 少し心配そうな顔をしていたのだろうか。ルミナスが俺を見て苦笑いをしている。


 「確かに、夜は野犬達の動きもあるけど焚火をしている者に襲い掛かったと言う話はあまり聞かないぞ。そう心配しないでも大丈夫だ。」

 「あぁ、俺は初心者だからな。ルミナスを頼りにさせてもらうよ」


 そんな答えに気を良くしたのか、バッグからパイプを取り出して焚火で火を点ける。

 俺も、タバコを取り出して付き合う事にした。どうやら、これが最後の1本らしい。空き箱を焚火に投げ捨てながらタバコに火を点けた。

 

 「此処に小屋を作るんで、俺も銃を持てるようになったぞ。サンディのお古だけど、銃身は新品だ。これだと散弾も撃てるんだ」


 そう言って、腰の後ろに付けたホルスターから銃を取り出して俺に見せてくれた。

 確かに以前見せて貰った銃よりも口径が大きいようだ。たぶん数発の小さな弾を同時に撃てるようになってるんだろうな。


 「俺も手に入れたぞ。これなんだけどね」

 

 そう言って、エルちゃんから頂いた銃を取り出した。

 それを見た途端、ルミナスの顔色が変わる。


 「それは、ロアルじゃないか! ……金貨何枚かは知らないけど、一度だけ見た事がある。高レベルのハンターが、ギルドのホールで見せびらかしていたんだ」

 「そうなのか? 実はエルちゃんから貰ったんだ」


 「貴族連中の使う物らしい。口径は小さいが狙いは正確という触れ込みだ。イザとなれば頼りになるな。それにてっちゃんはもう一つ、銃を持ってるよな」

 「あぁ、持ってる。ちょっと反動が大きいから使い場所を選ぶけどね」


 確かにM29の反動は大きい。確か何割か小さくしたと言っていたけど、それでも両手で支えないとどこに飛んでいくか分らないぞ。


 「そう硬くなるな。ほら、虫の鳴き声が聞こえるだろ。あのジィー……っと言う音が聞こえる内は安心だ。それが途絶えた時は何かが近づいてきた時だからな。」


 俺の姿を見て、ルミナスが笑いながら俺に教えてくれた。

 確かに、虫は何かが近付けばその鳴き声を止めるから、ちょっとした警報器代わりという事なのかな。

 とはいえ、ちょっと無用心ではある。明日から少しこの場所を補強しておく必要があるんじゃないか。


 「ところで、ちょっと気になることがあるんだけど、知っていたら教えてくれないか?」

 「あぁ、良いぞ。どんな事だ?」


 「この村に来てから、弓を持っている者を1人も見掛けないんだが、弓を使うハンターっていないの?」

 「それは、昔の話だ。まぁ、兵隊は今でも使ってるらしいが……。狩りをするにしても獲物との距離は短い。精々200ディー位のものだ。それならこの銃で十分だし、威力は遥かに銃の方が上だ。第一、持ち運ぶのが楽だろう。」


 「だけど、リスティナさんの話では銃の弾は値段が高いみたいだけど。」

 「確かに高い。カートリッジ6本で15Lだからな。だが、リスティンみたいな食用の獣を狩れば1匹150L以上だ。そして、てっちゃんの持ってる銃のカートリッジは更に高いぞ。たぶん20L以上になるはずだ。」


 貴族用って事で高いのかな? 簡単に試射なんか出来ないぞ。

 

 「もう少し教えてくれ。先ほど200Dって言ったよな。それってどれ位の長さなんだ? ついでに重さの単位も教えてくれ。」

 「おいおい、一体何処から来たんだ? まぁ、長さの基本単位はDだ。俺の長剣の刃渡りは丁度2Dある。俺の身長は6Dってとこかな。距離を表す時にはミルという単位も使うぞ。500Dで1Mになる。更にその100倍をHMヘクトミルという時があるが、目安は半日で歩ける距離だな。」


 ルミナスの身長は俺と同じ位だから6D=180cmと言う事になる。1Dは30cmと思えておけばいいだろう。


 「重さの方は……そうだ! この斧の頭が丁度1グルになるな。」

 

 ルミナスの言葉に俺はバッグから斧を取り出して片手でその重量を確かめる。

 だいたい、2kgってところかな。だとすれば……


 「という事は、ルミナスの体重は33G位なのか?」

 「そうだよ。丁度、33Gだな。この間雑貨屋で測ったから間違いない。だが、今時そんな話を聞くってどういう事だ?」


 「あぁ、実は……山から下りてくる前の記憶が無いんだ。何時の間にかあの村近くの山にいたんだ。」

 

 俺の言葉にルミナスの顔が驚きに変わる。

 

 「それって、転移魔法じゃないのか? 昔はそんな魔法もあったらしいが……。いいか、絶対に思い出そうとするなよ。無理に思い出そうとすれば発狂する事もあると聞いたぞ。」


 焚火越しに俺の方に身を乗り出して忠告してくれた。

 俺にとっても都合の良い話だが、転移魔法ってホントにあるのかな? エルちゃんの姉さんだって、かなり高名な魔道師らしいが、使えなかったみたいだ。もし使えるのだったら、熊にやられる事は無かったろう。


 「まぁ、のんびり番をしてようぜ。ところで、明日は何をするんだ?」

 「今日の続きさ。森から杉を運ぶ。太いのが後、数本必要だ。俺達で柱になる杉を運んで、リスティナさん達にはツルを採取して貰う。柱を縛るから幾らあっても足りないぞ。」


 「籠を持ってきたから、それで蔓を運べるだろう。てっちゃん達も揃えた方がいいぞ。魔法の袋に入れておけば小屋作りが終っても邪魔にならない筈だ。」

 「あぁ、そうするよ。そして木箱があれば購入しとく。小屋作りの足場に使えるからな。」


 2人でお茶を飲みながら小屋作りに必要な物を確認する。

 確かに、小屋作りの時にしか役立たない物もあるが、籠や木箱は小屋の中でも役立つに違いない。そして、やはりノコギリは必要だろうという事になった。

 柱の木組みは単純だけれど、鋸を使用すればキチンと出来るし、何より竹の切断は鋸に限る。


 「鋸は、2本いるな。歯の粗い物と細かな物だ。それに目立て用のヤスリも必要だろう」

 「分担は、村に帰ってからでもいいだろうが、朝食時にでも皆に知らせておこう」


 そんな話をしながら、俺の最初の焚火の番は過ぎていった。

               ◇

               ◇

               ◇


 次の日、朝食を終えた俺達は森に入って柱用の立木を伐採する。

 俺とルミナスが木を切っている近くでエルちゃん達が蔓の採取を行なって籠に仕舞いこんでいる。たぶんあの籠で10個分は必要になりそうだな。

 

 その日一日で、柱用の立木を5本。蔓を籠に2杯分手に入れることができた。

 明日は、村に帰ってギルドから報酬を得て、その代金で必要な品を購入する事になる。そして、今度来る時はもう少し期間を長くして小屋作りを行わなければなるまい。

 少なくとも、基本となる櫓構造は作っておきたいな。

 

 3日目は、薬草採取をしながら村へと帰っていく。

 フェイズ草は崖に生えている変わった薬草だ。どう見てもネギなんだが球根が付いている。使うのは球根だけだけど、葉っぱを刺しておけば数年後には球根が出来るそうだ。

 そして、その球根は解熱作用に秀でているとの事なので、俺も数個を手に入れた。長い冬に風邪をひかないとは限らない。持っていても損にはなるまい。


 ギルドで薬草採取の報酬を貰って、次の依頼を確保する。

 俺達2人ではまだ狩りは無理だから引き続き薬草採取だ。季節が変わったのか、今度はジギタ草を狙う事にする。サフロン草の2倍の報酬はちょっと美味しいな。


 その後で、雑貨屋に出かける。分担品の購入と、5日分の保存食の購入だ。

 大鍋にバケツとオタマ。それに大型水筒と鋸に籠を購入する。籠はエルちゃんが背負えるような小さな奴だがこれでも十分役に立つだろう。


 「全部で353Lになります。」

 「それと、空き箱があれば譲って欲しいんですけど……」

 「木箱でいいですよね。これ位のがありますよ。ちょっと待ってくださいね」

 

 お姉さんが見せの奥から頑丈そうな木箱を抱えて持ってきた。

 60×30cmってところだな。これなら上手く使えそうだ。


 「お幾らですか?」

 「そうですね。5Lでどうでしょうか。」


 商品ではないのだが、タダという事にもならないみたいだな。それでも5Lなら安いと思う。早速、籠に入れて魔法の袋に詰め込んだ。


 「こんなものかな……エルちゃん、何か不足してる物はない?」

 「え~とね、これに合うカートリッジを10本。それに毛糸と編み棒のセット、後は地面に敷く布が欲しいんだけど。」


 エルちゃんが取り出したロアルを見てお姉さんはちょっと驚いたようだ。

 それでも、直ぐに品物をカウンターに並べ始めた。


 「ロアルのカートリッジを売るのは2年振りです。10個で40Lになりますよ。編み物は初心者ならこれで十分です。地面に敷く布はこれになります。10D四方ですが、これより大きな物もありますよ。」

 

 パレト用のカートリッジよりも値段が高いんだな。ルミナスの言う通りだ。

 編み物セットは編み棒数本と毛糸玉が3個だ。シートは考えもしなかったが確かに地面の冷気を防ぐのには効果があるだろう。

 

 「全部で105Lですね」

 

 お姉さんの言い値を支払い雑貨屋を出た。

 夕方に食堂でリスティナさん達とおち合い、食事をしながら次の作業について確認する。


 「じゃぁ、いよいよ立て始められるのね」

 「うん。という事で次ぎは少し長い作業が必要になると思う。キチンと仕上げないと雪の重さで潰れかねないしね」


 「鋸は手に入れたぞ。携帯食料は5日分を購入した」

 「途中で雨になるかも知れないから、その対策も必要だわ」


 そんな話をしながらシチューを食べる。久しぶりに食べる味は格別だ。少し硬い黒パンも美味しく感じられる。


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